2023年1月15日放送『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』ドン44話「しろバレ、くろバレ」(監督:田﨑竜太 脚本:井上敏樹)をレビュー
紛うことなき神回。
たったひとつの嘘が連鎖的に悲劇を招く。
いつもの狂気的なシチュエーションコメディをもって『ドンブラ』らしいと表現することは多いが、今回のように人の心の機微を丁寧に描くエピソードもまた『ドンブラ』らしさの一端である。昔から優れた喜劇には悲劇が内包されているものだ。チャップリンの映画でもダウンタウンのコントでも、優れた笑いの陰には人間の抱える寂しさが垣間見える。『ドンブラ』がスーパー戦隊を装ったコント番組になっていないのも同じ理由からである。
ネタバレも含むが、最後までおつきあいいただければ幸いだ。
※本記事で使用している画像は、特記のないものは全て『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』より引用している。
夏美とソノニ
眠りの森に囚われたままの恋人・夏美を助け出したい一心の犬塚に、「本物の夏美を取り返したいのなら、獣人(ジュウト)の夏美を倒すしかない」とソノニは言った。
犬塚 翼
柊太朗
ソノニ
宮崎あみさ
既に描かれている通り、獣人によって連れ去られた人々は“眠りの森”と呼ばれる場所に幽閉されていた。そこは入口も出口もわからない異空間であり、眠りの森という名の通り、囚われた人々はただ静かに眠っていた。獣人はそこで眠る人間の姿形をコピーし、人間界で好き勝手に振る舞っていた。獣人には、ネコ、ツル、そしてペンギンという3種族が存在し、ネコは遊び、ツルは物語を紡ぐ。ペンギンは現段階で唯一不明だが、どうやら次回、その姿が拝めそうな気配である。
犬塚の恋人・夏美はツルの獣人にコピーされていた。
夏美/雉野みほ
新田桃子
夏美をコピーした獣人は、みほと名乗り、現在は雉野の妻として暮らしていた。それこそが彼女の紡ぐ物語なのだろう。奇しくもその物語の最重要人物(夫)にされてしまった雉野にとってはいい迷惑だが、そのことには気づいていない。いや、正確には信じていないと言った方が良い。最愛の妻・みほという人間が元々この世界にいないなどという事実は無いと、頑なに信じているのである。
雉野つよし
鈴木浩文
ソノニの言葉を信じるならば、犬塚が夏美を助けるには、雉野みほを倒す他ないということになる。
だが、雉野みほを倒しても夏美は戻らない。それどころか、本物の夏美は命を落としてしまう。何故なら、ソノニの言葉が嘘だからだ。
「人間の“愛”というものを知りたい」と願っていたソノニは、偶然出会った犬塚を通じてそれを知った。しかも客観的にではなく、主観的に。どんな状況でも、恋人の夏美を想い続ける犬塚を見ているうちに、そんな犬塚を愛してしまったのである。
だから嘘をついた。
犬塚が雉野みほの命を奪ってくれさえすれば、夏美もまた命を落とす。そうすれば、自分が夏美の代わりになれるかもしれないとでも思ったのだろうか。それとも単なる嫉妬で、夏美がこの世からいなくなってくれさえすれば良いと思ったのかもしれない。それも恋人の手にかかって。だとしたら、なんとも悪趣味な話だ。
だが、そうは言っても、そもそも獣人は不可殺の存在。要するに不死身である。唯一の方法を除いては。
その唯一の方法を可能にするのが、意志を持つ剣・ムラサメである。対獣人用に作られたムラサメは、たった唯一の例外として、獣人に傷をつけることができる。命を奪うことも。偶然にも、それが今、犬塚の手にある。だからソノニはけしかけたのだ。
偶然は重なる。
美容師として働いていた雉野みほは、一度夏美としての記憶を取り戻し(取り戻したフリをしただけなのかはよくわからない)、雉野の元を去ったことで、再び雉野の元に戻ってからというもの、また姿を消してしまうのではと危惧した雉野によって、家に籠りきりの生活を送っていた。
そんな生活に嫌気が差したみほは、雉野に隠れてこっそりと以前勤めていた美容室に出かける。再雇用してもらえないか、と頼むためである。
その帰り道、みほは犬塚と遭遇する。
ソノニの言葉が蘇る。
イヌブラザーへと変身し、みほに襲いかかる犬塚。全ては夏美を取り返すためだ。
その様子を物陰から伺うソノニ。彼女にとっては期待通りの展開である。
ムラサメを呼び寄せ、一閃。
それまで、どんなに斬りつけられようと瞬時に消えていた傷が塞がらない。血を流し、ひざまずくみほ。
チャンス到来。
あとはとどめを刺すだけ。
ソノニの目が輝く。
が、それと同時に、以前犬塚が語っていた夏美への想いが頭を過ぎる。
獣人とは言え、夏美と同じ姿をしたみほにとどめを刺すことを一瞬躊躇う犬塚だったが、全ては夏美を取り返すためだと割り切って、ムラサメを振り下ろす。ただし目は閉じて。
手応えを感じ、目を開くと、そこには血まみれのソノニ。みほはその隣に倒れている。
何故、ソノニが?? ただ混乱する犬塚。
その混乱に紛れて、負傷したみほはその場を逃げ出す。
変わりゆく脳人たち
いつの間にか犬塚に想いを寄せていたソノニ。
好きになった相手に、他に好きな人がいた時の悔しさについては説明するまでもない。おそらく、この切ない気持ちを知らない人などいないはずだからだ。
ソノニもまさにその心境だったのだろう。そこで、夏美さえいなくなれば・・・と考えた。しかし、犬塚がみほの命を奪うギリギリのところで、その愚かしさに気づいてしまう。愛する人の愛するものを奪おうとすること。それは愛ではなく、私欲でしかない。それに気づいたからこそ、自らの身を挺して、みほを守ったのだ。作中ではそこまではっきりと明言しているわけではない。ただ、それとなく伝わってくる。それを言葉にしないからこそ、粋なのである。
犬塚に、獣人の夏美を倒せば本物の夏美を救えると言ったのは嘘だったと告白するソノニ。
「何故、そんな嘘を・・・?」と、さらに混乱するばかりの犬塚の前に、ソノイとソノザが姿を現す。
犬塚を追い払い、脳人だけとなった空間で、ソノニを処刑しようというソノイとソノザ。人に想いを寄せた脳人は処刑するというのが掟らしい。ソノニも覚悟の上のようだ。
だが、ソノイもソノザもソノニにとどめを刺すことはできなかった。それは、ソノニの気持ちが伝わってきたからだ。人間に想いを寄せてしまっていたのは、ソノニだけではなく、自分もそうであると他の2人も理解していたのだ。
芸術を知りたいと願っていたソノイは、いつの間にか、それまで描けなかった絵が描けるようになっていた。
ソノイ
富永勇也
笑ったり泣いたりという人間の感情を知りたいと願っていたソノザは、鬼頭はるかの漫画を読んで、自然と涙を流すようになっていた。
ソノザ
タカハシ シンノスケ
鬼頭はるか
志田こはく
3人が3人共に、いつの間にか人に近づいていた。頭で理解したのではなく、身を持って知ったのだ。
最初は人間を見下すようなところもあった脳人たちだったが、ドンブラザーズと関わり合っていくうちに、いつの間にかそんな差別意識も掻き消え、自分たちの中に人間らしさが生まれるまでになってしまったことを改めて知った3人。
これまで感情を抑えることの多かったソノイが声を荒げるシーンからは、脳人と人間の間で苦悩する様子が満ち溢れている。
重傷を負っているにも関わらず、犬塚の姿を追うソノニの姿は、以前「犬塚 翼は愛という名の血を流す」と言っていたソノニの言葉そのものである。
言葉にならない叫びをあげるソノザも含め、人間離れしていたはずの3人が、これ以上ないほど人間らしく見える。
キジとイヌ
ムラサメによって負傷したみほは必死で家へと辿り着く。
血だらけになったみほを見た雉野は慌てふためき、すぐさま救急車を手配するのだが、みほをそんな目に合わせたのが犬塚だと知ると、いつもの闇雉野が目を覚ます。
誰もいない駐車場の屋上に犬塚を呼び出すと、犬塚がイヌブラザーだとは知らない状態でキジブラザーに変身。容赦のない攻撃を仕掛ける。
対する犬塚もイヌブラザーに変身。お互いに興奮状態なのか、その事実に特段驚くこともなく戦いを繰り広げる。
しかし、みほが絡んだ時の雉野はいつもとはまるで違う。終始犬塚を圧倒し、まさかの必殺技で仕留めにかかる。
そこに再び現れたのがソノニである。
犬塚を庇い、雉野の放った銃撃をその身に受けて倒れ込む。
その姿を見て、雉野は正気を取り戻す。そこに部外者たちが現れる。
ついに揃ったドンブラザーズ
『ドンブラ』史上最高にシリアスな展開の中で登場したのはヒトツ鬼。1984年2月から1985年1月まで放送されたスーパー戦隊シリーズ第8作『超電子バイオマン』をモチーフとした超電子鬼である。
超電子鬼
身長:195cm
体重:236kg
スキン:BM粒子8424
小野という会社員の「褒められたい」という願いが暴走した姿である。
小野
スキンのBM粒子に続く4桁の数字は、『バイオマン』の放送が始まった84年2月4日にちなんだものらしい(TTFCにて配信中のドン44話オーディオコメンタリーより)。『バイオマン』といえば、特撮ファンにとって、ある意味で伝説の作品である。それは、初めて2人の女性戦士が登場した作品であると同時に、そのうちの1人(小泉ミカ/イエローフォー)が撮影中にスタッフと駆け落ちしてしまうというまさかの事態が起こったことによる。これによって、急遽、ミカは戦死し、その代わりの戦士が登場するという展開を余儀なくされてしまう。おまけに、当人は失踪中のため、葬儀シーンを着ぐるみで行うという、なんとも後味の悪いものだった。当時の子供たちは、そんなこと知る由もないが、正義の戦士が悪の手で倒されたことは衝撃以外の何者でもなかったろう。
ちなみに、このネタは『機界戦隊ゼンカイジャー』でもひっそりとネタとして使われていた。
そこに登場したのがドンブラザーズの他の面々。
そして、44話にしてようやくドンブラザーズ全員揃っての変身シーンがお披露目となった。他のメンバーがイヌブラザーの正体をはっきりと認識したことも初めてのはずだが、そこはサラッと流している。このあたりの展開は、オチに向けてのフリでもあるが、わざわざ大仰に驚くシーンがないからこその熱さがあり、余計な言葉がないからこそ粋でもある。
さらに、かなり久々に「桃代無敵アバター乱舞」も披露される。タロウを除く4人が舞台をセッティングし、その上からタロウが敵に斬りかかる必殺技で、過去のスーパー戦隊でいえば○○バズーカみたいなものだったのだが、ドンオニタイジンやジロウが登場してからは、全くと言って良いほど出番のなかったアレである。
今回は、ジロウも並びたっての「真・アバター乱舞」となっているが、効果はいつも通りだ。
そうしてラストは、雪の降る中、衣装のように真っ白な世界の中で、ソノニが力なく倒れ込む。ソノニを抱きかかえ、必死でその名を叫ぶ犬塚。その腕の中で、息を引き取るソノニ。
そこに介人が現れる。白と黒のコントラストが映える。手にした傘はゼンカイカラーだが。
五色田介人
駒木根葵汰
そうして、溜まっていた犬塚のキビポイントのほとんどを消費してしまう。キビポイントとは、これまでに稼いだポイントを使うことで、自身の願いを叶えられるものだ。ドラゴンボールは7個集めれば願いが叶えられたが、キビポイントは大きな願いを叶えるには、それ相応の数が必要らしい。
そうして叶えられた犬塚の願い。
それは、ソノニが蘇ることだった。
犬塚の腕の中で目を覚ますソノニ。
犬塚も嬉しそうだ。
が、ふと我に返り、途端に突き放す犬塚。
「二度とお前には会いたくない!」という言葉を残し、振り向きもせず立ち去ってしまう。
単なるツンデレか。それともこれは犬塚が自分についた嘘、なのか?
いずれ夏美が戻ってきた世界で、この2人の関係がどうなるのか、最後まで目が離せない。また、いつもながらのしょうもないオチ(褒め言葉)は、是非その目でご覧いただきたい。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
\ 僕と握手! /