シニカルに人間の本質を描いた問題作|『ウルトラセブン』第8話感想

雷堂

1967年11月19日放送『ウルトラセブン』第8話「狙われた街」(監督:実相寺昭雄 脚本:金城哲夫)をレビュー

たびたび「文学的」とも評される『ウルトラセブン』屈指のエピソード。それがこの第8話「狙われた街」である。

50年を超える歴史を持つウルトラシリーズの中でさえ、このように評される作品は数えるほどしかない。

本記事では、この第8話をなぞることで、いったい何が「文学的」と呼ばれているのかについても触れてみたい。最後までおつきあいいただければ幸いだ。

目次

凶暴化する人々

ウルトラシリーズといえば、敵は怪獣や宇宙人(もしくは宇宙人の操るロボット兵器など)であり、あちらこちらで暴れ回る彼らをウルトラマンが駆逐する、というのが基本的な流れである(『ウルトラQ』は除く)。

だが今回暴れ回るのは我々と同じ人間である。舞台は北川町と呼ばれる町。広場で遊ぶ子どもたちの前に、猛スピードで暴走してくる1台の車。窓を開けて「助けて!」と叫ぶ女性を車外に引き摺り出して殴りつける男。追いかけてきた警察官が取り押さえるが、男は獣のような奇声を発して暴れ続けた末、突如昏睡状態に陥ってしまう。

続いて町中で猟銃を乱射する男が現れ、北川町は大混乱。

また同じ頃、旅客機の墜落事故が報じられるのだが、そのパイロットも北川町在住という不思議。いったい北川町で何が起こっているのか。

銃乱射事件の調査からの帰り道、モロボシダンは目の前を走行するトラックから大量の砂利を撒き散らされ、あわや大事故、という状況に陥ってしまう。

何とか危機を脱し、トラックの運転席を覗くが、そこには誰もいない。

その時どこかから「ウルトラセブン、これ以上我々の邪魔をするな」という脅しの声が聞こえてくる。どうやら相手は宇宙人らしいが、この時点でその正体は不明だ。

事態はさらに悪化する。北川町から戻ったフルハシ隊員とソガ隊員までもがおかしくなってしまったのだ。フルハシは奇声を上げて暴れ回り、ソガはダンたちに銃を向ける。明らかに常軌を逸している。

そして二人とも、ひとしきり暴れた後に昏睡状態に陥ってしまうというところに、北川町で起こった騒動との共通性が見られる。

そこでダンは気づく。フルハシもソガも、おかしくなる直前にタバコを吸っていたことを。

そのタバコは、フルハシが購入したもののようだった。残りのタバコをへし折ってみると、中から小さな赤い粒々が転がり出てきた。どうやらこの物質に原因があるようだ。科学班に成分調査を依頼し、ダンとアンヌは北川町へと向かう。

メトロン星人の謀略

二人が訪れたのは、墜落事故を起こしたパイロットの自宅であった。そのパイロットは、アンヌの叔父にあたる人物。

家族によれば、彼はヘビースモーカーで、墜落事故の前日にも駅前にある自動販売機でタバコを購入していたらしい。そこでダンとアンヌは駅前に向かうが、あいにく自動販売機には「売り切れ」の文字。そこで二人はタバコを納入しに来る業者を突き止め、一軒の古いアパートに辿り着く。

何かを感じたのか、その場にアンヌを残し、アパートに一人で足を踏み入れるダン。

そこに待ち構えていたのはメトロン星人。ファンにはお馴染みの、今に至るまでウルトラシリーズの常連となっている宇宙人の一人だ。

狭い和室のちゃぶ台を挟んで対峙する2人がなんともシュール。ウルトラシリーズに残る名珍場面だろう。

この北川町を舞台に起きた一連の事件はメトロン星人による実験だったことが語られる。タバコに混入した赤い粒々は幻覚剤のようなもので、周りが全て敵に見えるようになってしまうらしい。つまり、人間が凶暴化したのは、闘争本能に火がついたと言うよりは、激しい防衛本能が働くようになったと言った方が正しいようだ。これによって人間同士の信頼関係は破壊され、人類は勝手に滅びの道を辿るのだ。自らの手は汚さず、人類を自滅させるという、なんとも恐ろしい侵略計画である。

ただし、何故この壮大な作戦を日本の小さな町で行おうとしたのかは謎でしかない。いつもの特撮あるあるだ。

変わらぬ人間の本質を突く問題作

その後、夕焼けに染まる北川町でウルトラセブンとメトロン星人の一騎討ちが始まる。派手さはない。と言うより、ハッキリと地味である。あえて迫力あるアクションシーンを封印し、それよりも夕日のオレンジに逆光気味に浮かび上がる二人の宇宙人の戦いを情緒的に見せることに重きを置いたように見える。

昼と夜とが交差する逢魔時に、地球を守る宇宙人と地球を奪おうとする宇宙人が拳を交わすシーンは、なんとも印象的で文学的な匂いさえする。

メトロン星人をセブンがアイスラッガーで両断し、静けさを取り戻す北川町。

最後にナレーターは、地球を侵略するには、人間の信頼関係を壊すだけで良いと考えたメトロン星人を「恐ろしい」と評しながらも、「安心してください。これは遠い未来のお話です」と我々に語りかける。続けて、「我々人類は今、宇宙人に狙われるほど、お互いを信頼してはいませんから」と、なんとも皮肉たっぷりに締め括る。

子ども時代には理解できなかったが、今になってみると震えるほど衝撃的なセリフである。そこには『ウルトラセブン』が放送されてから56年が経った今でも変わらない人間の本質が描かれている。

『ウルトラセブン』を名作たらしめているのは、こういった部分だ。

この時代のウルトラシリーズには子ども向け作品ではなく、面白いSF作品を作ろうという気概が感じられる。今よりも特撮が特別なものだった時代のことだ。

大人が観ても唸らされるような作品を、子どもたちも背伸びをして観ていたのだ。

実際、子ども時代の私にとっても『ウルトラセブン』は、他のシリーズ作品に比べて圧倒的に地味な作品だった。それは宇宙人が敵として登場する割合が多かったためだ。

『ウルトラマン』でもザラブ星人やメフィラス星人などの傑作エピソードがあったが、やはり自然災害的に現れる怪獣とは違い、高い知能を持つ宇宙人との戦いではドラマが重視される。するとどうしても会話が多くなってしまう。『ウルトラセブン』を初めて観た頃の私は、暴れ回る怪獣や宇宙人をカッコよく倒すセブンが見たかったのであって、登場人物たちの会話劇が見たかったわけではないのだ。

だから大人になっても、他のウルトラシリーズを観たいと思うことはあっても、『ウルトラセブン』をもう一度観たいとはあまり思わなかった。なのに周りは「セブンこそ最高傑作だ」と絶賛する。この周囲との温度差が気になって渋々観てみたら、それまで抱いていたセブンに対するイメージを見事に覆されてしまったのだ。

分別のある大人にこそ観て欲しい。使い古された言葉だけれど、『ウルトラセブン』は、まさにそういう作品なのである。

雷堂

それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。

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