1971年に誕生し、変身ヒーローブームを巻き起こした『仮面ライダー』は、NHK大河ドラマの2倍となる約2年間に亘って放映され、次作『仮面ライダーV3』では、最高視聴率38%という、今では考えられないほどの人気を誇っていたお化けコンテンツであった。
ところが、その後のシリーズは、それほど奮うことがなかった。マンネリだと思われてしまったとか、アニメに人気を奪われたとか、色々と言われてはいるが、その本当の理由はわからない。私などは、リアルタイムで『仮面ライダースーパー1』を見ていたものの、当時は、演出や映像がずっと派手だったウルトラマンシリーズやスーパー戦隊シリーズ(当時はそんな呼び方ではなかったけれど)に夢中で、仮面ライダーにハマったとはお世辞にも言えなかった。
そんな私を仮面ライダーという沼へと誘い込んだのは、紛れもなく『仮面ライダーBLACK』であった。
ここで、『BLACK』の魅力について語ることは辞めておくが、1年間の放映終了後、その続編としてスタートしたのが『仮面ライダーBLACK RX』である。
おそらく、仮面ライダーと、その原作者・石ノ森章太郎先生に興味のない人なら、ひとめ見ただけでギョッとするデザインであるはずだ。だって、バッタ男なんだもの。
少なくとも、BLACKとRXを見比べて、RXの方がカッコいいという人は少ないはずだ。石ノ森先生の『キカイダー』や『イナズマン』などを見慣れた目からすれば十分にカッコいいのだが、万人受けするには程遠い。
そんなRXのわかりづらいカッコよさを紐解いてくれるアイテムが、少し前にプレミアムバンダイで登場した「アルティメット・アーティクル」だ。
本記事では、このアイテムを題材として、RXのデザインを紐解いてみたいと思う。丁寧に紐解けば、RXのカッコよさが必ず理解できるはず。どうぞ最後までお付き合いください。
アルティメット・アーティクル
アルティメット・アーティクル:仮面ライダーBLACK RXとは、その名のとおり、“究極”を目指して作られたフィギュア。
凡百のフィギュアとは一線を画するクオリティが写真からも伝わってくる。フォルムの完璧さは当然として、スーツのしわなども本物と見紛うばかり。
しかもその大きさは40cm! 身長198.8cmという設定からすれば5分の1のスケールである。15cm程度のものが多い他のフィギュアに比べたら、迫力満点だし、再現度が段違いなのも頷ける。
ただし、“究極”と銘打たれたフィギュアにも関わらず、動作はかなり限られている。なんと、名乗りの際のポーズと、リボルケイン(剣)で敵をぶっ刺した後の決めポーズという2通りだけだ。「え?」と思う方もいるかもしれない。しかし、このフィギュアのウリは他にある。
台座のスイッチを入れると、目が光り、手にしたリボルケインの刀身が光り、そしてサンライザー(ベルト)が光るのだ。特にベルトは、ただピカッと光るのではなく、本編同様、2つの発光部分がクルクルと徐々にスピードを上げながら回転する様が再現されている。
上の画像のとおり、ベルトの発光部分にそれぞれ3つずつ設置されたLEDを順に点灯させることで回転を表現しているのだ。
詳しくは以下の動画をご参照いただきたいが、価格も30,800円(税込)と、かなりアルティメットな設定となっている。
各部デザインをチェック
それにしても異質なデザインだ。
1号から始まり、連綿と続いてきた仮面ライダーのデザインの系譜であることはひと目でわかるが、歴代ライダーを並べてみると、明らかに目立つ。もちろん、どのライダーも個性的ではあるのだけれど、群を抜いて目立つ。
あの「アマゾン」より目立つと言っても過言ではない。
その理由は、他のライダーよりも怪人度の高いデザインだろう。
このように横から見るとハッキリわかるのだが、後頭部から背中へのラインなどは、バッタの力を持つ改造人間として誕生した仮面ライダー1号をも凌ぐバッタ感。前作『仮面ライダーBLACK』で、変身の途中に一度、異形のバッタ男になるのだが、それに近い。ちょっと猫背にも見えてしまう。
次に各部をチェックしてみよう。
「サンライザー」というのが、いわゆる変身ベルト。平成ライダーでいうところの「ドライバー」だ。これまでのライダーたちのベルトと比べると、圧倒的にシンプルでコンパクト。それゆえ、未来感が強い。迫力はないけれど、個人的には嫌いじゃあない。
左手首に巻かれたアイテムは「リストビット」と呼ばれるブレスレットで、テレパシーを増幅する力があり、それによって、アクロバッター(バイク)とライドロン(クルマ)を呼び寄せることができる。前作『BLACK』でも、バトルホッパー(バイク)は呼べばすぐにやってきたのだが、どうやってその声、もしくは意志を伝えているのかが不明確だったため、これによって理由づけができたということだろう。
額のアンテナの名前は「ソーラーレーダー」。デザインどおり、昆虫の触覚の役割を果たしている。電波や音波をキャッチし、敵の居場所を探し出すことができる。頭部との取り付け部が球体となっており、アンテナ先端は赤く塗られている。生物感が強いデザインにも関わらず、こういった細部にはあえてメカメカしい感じを出しているのがRXの特徴だろう。
「サイコインジケーター」とは、額にあるランプのこと。バッタでいう単眼の部分である。相手の脳波を感知し、人間に化けた敵を見破ることができるらしい。これまでのライダーにも見られたパーツではあるのだが、RXでは他より上に設置されているように見えるのは、アンテナの取り付け位置とランプの取り付け位置が他のライダーとは逆だからだろう(他のライダーはアンテナの方がランプより上)。これによって、RXの面長なデザインを強調(パーツを顔の中心部分に集中させるのではなく分散させる)する狙いがあったのかも知れない。
「マクロアイ」と呼ばれる複眼が異常に大きいのがRXの特徴だ。赤外線など、人間には見えない光を見ることができるという設定なのだが、面長なマスクの5分の3ほども占めるこの眼が、生物感を強調している。
腹筋部分に配置された六角形のパーツは「サンバスク」と呼ばれる太陽電池。太陽の光を吸収してエネルギーに変えたり、そのエネルギーを蓄えることができる。当時は未来感の強かった太陽電池を、人体の腹筋に置き換えてしまうというこのセンスには、ただただ驚くしかない。
緑と黒の表皮にも「RXフォーム」という名前がついている。6,000度の高熱や絶対零度にも耐えられるという優れもの。仮面ライダーZXのように、全身のタイツ感が増した感じ(太もも部分など)で、スーツアクターさんのボディラインが分かりやすくなったのは、スーパー戦隊っぽいデザインと言っても良いだろう。ただし、腰のパーツが、どうにもオムツみたいに見えて仕方ないのは、個人的にはマイナス。
未来から来たバッタ男
こうして細かく見てみると、これまでの仮面ライダーのデザイン文法に則りながらも、より(当時の)未来感のあるパーツを配することで創り上げたデザインということになる。
生物感がかなり強いため、とっつきにくさは確かにあるが、「悲劇の改造人間」という仮面ライダーの原点に立ち返るようなデザインには共感できる(もっとも、BLACKからRXになったのは太陽エネルギーによる突然変異みたいなものであって、わざわざ改造手術を受けたワケではないのだけれど)。
実際、この手のデザインは、後年発表された『真・仮面ライダー序章』でも継承(怪物度合いは遥かに上)されているから、仮面ライダーという物語で描きたかったヒーロー像のひとつだったのだろうな、とは感じた。
そもそもデザインなんて、誰かに言われた良いとか悪いなんて無関係に、自分が好きか嫌いかというだけ。そこからすれば、私にとってのRXは、当時、胸を熱くさせてくれたヒーローの一人であることは間違いなくて、やっぱりカッコいいとしか言いようがない。
本記事でRXのデザインについて、何かしら共感してもらえたなら嬉しい限り。それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。