2022年3月27日放送『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』ドン4話「おにぎりのおに」(監督:中澤祥次郎 脚本:井上敏樹)
世界の光と影を描く『ドンブラザーズ』。
今回は、雉野つよしがメインとなるエピソードだが、それと同時に、主人公・桃井タロウの光と影を描く回にもなっている。
何をやってもソツなくこなし、変身すれば天下無双の強さを誇る。そんな桃井タロウに隠された苦悩が、タロウの少年時代のエピソードと共に描かれている。今回のレビューも最後までおつきあいいただければ幸いである。
キャスト
まずは今回のキャストをご紹介。本作初登場の方で、ウィキペディアに記載のある方についてはリンクを貼っておくので、是非、他の参加作品などもチェックしていただきたい。なお、使用している画像は全て『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』から引用している。
桃井タロウ/ドンモモタロウ
樋口幸平
猿原真一/サルブラザー
別府由来
鬼頭はるか/オニシスター
志田こはく
犬塚 翼/イヌブラザー
柊太朗
雉野つよし/キジブラザー
鈴木浩文
五色田介人
駒木根葵汰
ソノイ
富永勇也
ソノニ
宮崎あみさ
ソノザ
タカハシシンノスケ
雉野みほ
新田桃子
タロウ(幼少期)
三浦綺羅
水野幸雄
きづき
部長
滝晃太朗
おにぎり屋スタッフ
奥田夢叶 ・ 川合 諒
警官
高田将司
桃井 陣
和田聰宏
ドン1話で、犬を散歩させる女性として、オニシスターのスーツアクター・下園さんがひっそり出演していたが、今回はゼンカイザーのスーツアクター・高田さんが警官役として出演している。今後もこういったファンにしかわからないサプライズは用意されていくのだろう。楽しみである。
タロウと雉野
前回の照明泥棒の件で、何故か休業することになったシロクマ宅配便。
その休業中の繋ぎとしてなのか、タロウが短期のバイト先としてやってきたのが「フェズント・コンサルタント」。雉原の所属するコンサル会社である。
ここでタロウと雉原は偶然再会するが、お互いに変身できることはまだ知らない。
“Pheasant”とは、会社のシンボルマークを見ればおわかりの通り、「雉」のことである。こうなると、もう雉原が経営者でもおかしくないのだけれど、何故か当の本人は一社員でしかない。しかも部長からは“使えないヤツ”認定をされているようなところもあり、入ったばかりのタロウと一緒に、売れないおにぎり専門店の業績改善に行け、と指示されてしまう。
初対面の店長・水野に名刺を渡して自己紹介をしようとする雉野を制し、いきなり試食。出されたおにぎりを「80点」と評し、店長には食べ歩きを命じ、やる気のないスタッフには掃除や挨拶といった基礎をスパルタで叩き込むタロウ。
その様子を見て、「厳しいだけじゃダメですよ。嘘でも少しは誉めないと・・・」と助言する雉野には、「言葉は心の声」だと断ずる。やはり嘘はつけないようだが、そのまっすぐな生き方が胸に突き刺さる。「嘘も方便」という言葉を、いつの間にか当たり前のように受け入れている自分に気づく。
雉野も同じことを感じたらしい。
厳しすぎるタロウに反発し、「適当にやりましょうよ」と囁くおにぎり屋のスタッフたちだったが、「桃井さんは間違っていない。これまで、何をやってもダメだった自分を本気で変えたい」と自ら率先して汗を流す雉野に感化され、徐々に意識が変わっていく。
人を巻き込むことができるのは、一握りのインフルエンサーみたいな人ばかりではない。なんでも器用にこなすタロウが光り輝くインフルエンサーなら、平凡の極みのような雉野は日陰者である。しかし、日陰者だからこその光もあるのだ。ここでも、人生の光と影が表現されている。
ドン1話でタロウが「ダメなヤツなどいない」と言っていたが、それがここでも生きている。テーマとしては首尾一貫している。
猿原とはるか
こちらも偶然再会したのが、猿原真一と鬼頭はるかの二人。
散策を楽しむ猿原と、ランニング中のはるかは、目の前でバイクに轢かれそうになった子どもとその母親を救うため、アバターチェンジしたところをお互いに目撃してしまう。
そのまま喫茶どんぶらで共に食事をする二人。
前回、仲間であるはずのドンモモタロウが自分たちにまで斬りかかってきたのは何故? と問いかけるはるかに、戦いの素人である自分たちを鍛えるためでは? と推理する猿原は、今度は二人で協力してドンモモタロウに対抗しようと提案する。
はるかはその意見に賛同し、二人だけの特訓を始めるが、その結果は・・・?
超力鬼
おにぎり専門店「おにぎりごろごろ」の店長・水野の「100点のおにぎりを作りたい」という欲望が生み出した怪物。
超力鬼
身長:198cm
体重:238kg
スキン:王のピラミッド
『超力戦隊オーレンジャー』の力を持つ超力鬼。三角錐のピラミッドがおにぎりっぽいというだけで選ばれた気もする。
「俺(オーレ)のおにぎりは何点だー?」と叫びながら、超力ずくで怯える人たちにおにぎりを食わせ続けるというダジャレのような設定は、ドン2話に登場した若さを奪う列車鬼とは違い、世界の貧しい地域や災害被災地などに派遣すれば喜ばれそうな怪物である。相撲部屋でも重宝されるかもしれない。見た目はなかなか怖いけれど。
ソノザに消滅させられそうになったところを、ドンモモタロウに救われる。前回、ソノニが快盗鬼を「かわいい」と言っていたので、3人の脳人の中でも価値観にズレがあるのかと思っていたが、やはり脳人は、人間の欲望の権化であるヒトツ鬼を消滅することを目的としているようだ。
タロウの苦悩
ドン1話で、桃井タロウは生まれたばかりで、異次元(?)から桃型のカプセルに乗って送り込まれてきたことが描かれている。誰が何のために? といった詳細はまるで不明だが、そのタロウを拾って育ててきたのが桃井 陣。
その桃井 陣の口から、タロウの幼少期のことが語られたが、どうやら幼い頃から、とんでもない力を発揮していたようである。何をやっても大人顔負け。それだけなら、天才少年として評判になりそうな感じもあるけれど、「ダメなものはダメ」と言わなければ気が済まないという性格が災いし、孤立してしまう。
住んでいた団地で、反タロウ運動が巻き起こる。住民たちが手に「NO‼︎TARO‼︎」「タロウ出ていけ!」などと書かれた看板を手に声を上げる様子は滑稽だが、小さな子どもがその意味を理解した時のショックはどれほどのものだろうか。
実際には、タロウはその反タロウ運動の意味は理解できなかったものの、その後、他の住民たちが次々と去っていく様を見て、ようやく自分が疎まれていたことを知ったのだが、そんな時でさえ、ずっとそばにいてくれた陣の存在はどれほど大きかっただろう。
そして、成人した今もまた、おにぎり屋を立ち直らせるために良かれと思ってやったことが、スタッフたちには理解されず、陰口を叩かれている場面に遭遇したりもする。
善意が伝わらない哀しさ。本気が理解されないもどかしさ。そこにあるのは、圧倒的な孤独だ。
まるで、世の中の「空気が読めない」とか「浮いてる」と言われて孤独を感じている人たちの姿を映し出しているようにも見える。一見、華やかなヒーローに、いわゆる社会不適合者の看板を背負わせることで描き出す、強い光と色濃い影。
先ほども少し触れたが、ドン1話でタロウが言った「ダメなヤツなどいない」という言葉には、自らを「ダメだ」「できない」と嘆く人たちに差し伸べる優しさが見える一方、その裏側には「ダメなところがないヤツなどいない」という意味も込められているように思う。
以前から完全無欠のヒーローを描かないことで有名な脚本家・井上敏樹さんだが、本作でもそれは健在。そこには、単なる皮肉や逆張りなどではなく、あまねく全ての人に対する「同じ人間同士」という優しさが垣間見える。
『桃太郎』という誰もが知る昔話をモチーフに、永久不変の「人間」について描く『ドンブラザーズ』。この作品に込められた意味は、想像以上に深い。その深いテーマを、子どもたちにもわかりやすく描くというのが、いかにも昔話的というか、スーパー戦隊的で面白い。
次回は未だ謎に包まれた5人目の犬塚 翼がメインとなるエピソード。こちらも楽しみだ。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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