2022年12月18日放送『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』ドン41話「サンタくろうする」(監督:渡辺勝也 脚本:井上敏樹)をレビュー
どこにでもありそうなベタなタイトルのくせに、その中身は『ドンブラ』らしい狂気溢れるエピソード。
それでも視聴後には、じわりと胸に染みる何かがあるのも、やはり『ドンブラ』らしい。涙が溢れるような大感動ではなく、心にできたひび割れが少し潤うような感じと言えば良いだろうか。
ネタバレも含むが、最後までおつきあいいただければ幸いだ。
※以下で使用している画像は全て『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』より引用している。
脳人の慣例
脳人の世界は、人間の波動で成り立っている。
だから年に一度のクリスマスには日頃のお礼を込めて、サンタとして子どもたちにプレゼントを配り、夢を与えるのが脳人の世界の慣例であるらしい。
そしてその役目を今年担うのがソノイ、ソノニ、ソノザの3人。
ソノイ
富永勇也
ソノニ
宮崎あみさ
ソノザ
タカハシシンノスケ
しかしサンタのことがよくわからないという3人。最初は宿敵・ドンブラザーズの面々に聞いてみようとするのだが、プライドが許さないのか、「教えてくれ」の一言が言い出せない。そんな時、3人は1人の少女・アキに出会う。
アキ
上村結羽
「サンタクロースなんていない」と訳知り顔の同級生たちに「私はサンタさんを見たことがある!」とムキになるアキ。それを聞いてもなお、同級生たちは「それは親だ」と冷めた様子だったが、偶然そのことを耳にした3人は「詳しく教えてくれ」とアキに迫る。その様子を見かけた桃井タロウたちが、ソノイたちにその真意を問い詰めたところ、そんな脳人の慣例が語られたわけである。
桃井タロウ/ドンモモタロウ
樋口幸平
猿原真一/サルブラザー
別府由来
鬼頭はるか/オニシスター
志田こはく
雉野つよし/キジブラザー
鈴木浩文
その後、「サンタを見た」と言ったアキの言葉はウソだったことがわかるのだが、今度はタロウが「サンタはいる」と言い出す。幼い頃、寝ていたタロウの部屋に現れ、そこらへんにあったものを持っていたのだとか。「タロウ、それはサンタの格好をした泥棒だよ」とはるかがタロウを嗜めるが、それは確かにそうとしか思えない。またしても『ドンブラ』らしい悪趣味な冗談かと思いきや、これがラストシーンを飾る花となる。
そんな話を黙って聞いていた喫茶どんぶらのマスター・介人も「サンタはいる」と言い出す。しかも、サンタのことを「同じヒーローとして」昔から知っているらしい。以前には桃井 陣に「トゥルーヒーロー」などと言われ敬われていたこの男、一体何歳なのだろうか?
五色田介人
駒木根葵汰
やさぐれていたサンタ
介人から紹介されたサンタは、すっかりやさぐれていた。
リアルサンタ
蛍 雪次朗
あろうことかヒトツ鬼となり、人々に嫌がらせをする毎日を送っていたのだ。
光鬼
身長:194cm
体重:249kg
スキン:燃えるオーラ
どう見ても仏像だが、1987年2月から1988年2月まで放送されたスーパー戦隊シリーズ第11作『光戦隊マスクマン』がモチーフとなっている。東洋思想の気功(作中では“オーラパワー”として表現されていた)を全面に出した作品で、オープニングのバックに登場した仏像を意識したデザインだと思われる。
ゴミ捨て場から拾い集めた空き缶や使用済みの歯ブラシ、さらには臭いが染みついた運動靴などを、まるでプレゼントのようにキレイに包装して人々にばら撒いていた。確かにサンタが闇堕ちしたらこうなるかもしれない、とは思うが、悪質すぎる。
ではいったい何がサンタをそこまで追い詰めてしまったのだろう? と言えば、これもまた“らしい”理由が用意されている。それは世界が変化したからである。文化や技術、そして生活といった人を取り巻く全てが変化した。子どもたちのおもちゃも例外ではない。けん玉だ、おはじきだ、メンコだ、なんて時代はとうに過ぎている。数万円もするゲーム機が飛ぶように売れ、そのゲームソフトもバカ売れしている。そんな時代の流れに、古い頭のサンタはついていけなかったのである。
せっかく届けたプレゼントを「こんなのいらない」とがっかりした顔でゴミ箱に放り込む子どもたちの姿にショックを受け、それならばと、事前に子どもたちが欲しいものをリサーチし始めるサンタ。もはや世の親御さんたちと同様である。
ところが、とある家で事件は起きた。
「ゲームソフトが欲しい」と言っていた男の子のためにゲームソフトを手に入れたサンタは、クリスマスの夜、その子が母親に向かって「本当はお兄ちゃんが欲しい」と駄々をこねる姿を見かけ、ショックを受ける。そして何を思ったか、いきなり玄関のインターホンを押し、玄関ドアを開けた男の子に「今日から僕がお兄ちゃんだよ」と、ハーフパンツに虫取り網という季節感ゼロの謎のお兄ちゃんルックで現れる。『ホームアローン』のマコーレー・カルキンばりの表情で悲鳴を上げる男の子。そしてサンタは変質者として逮捕されてしまうのだった・・・。
いつもの『ドンブラ』展開に弄ばれたサンタは、こうしてやさぐれてヒトツ鬼になってしまったらしい。
タロウとサンタ
そんなサンタを救ったのは、タロウだった。
もちろん、ヒトツ鬼の呪縛はいつもの鉄拳制裁で断ち切るのだが、完全に自信も希望も失っていたサンタの心に光をもたらしたのは、先述したタロウの思い出だったのだ。
タロウ(幼少期)
三浦綺羅
幼いタロウの持ち物を持ち去った男というのは、泥棒などでは決してなく、紛れもないリアルサンタだった。しかも、奪い去ったわけではなく、眠っていたタロウに「配るものがなくなったから、キミのものを貰ってもいいかい?」と問いかけて、それをタロウが了承したから貰ったということらしい。プレゼントが足りなくなるとか、足りなくなったら誰かのお下がりを配って回るなんてサンタはちょっとイヤだが、ひとりぼっちだったタロウにとっては、自分が誰かに頼られるというのは嬉しい出来事だったろう。しかもその後、サンタはタロウの遊び相手にもなってくれたらしい。
なんとも奇妙な話だが、タロウにとっては、おもちゃなどより、サンタと遊べたその夜の記憶こそが宝物だったはずだ。「モノより思い出」というキャッチコピーで人気を得たのは、日産セレナだったが、大抵の場合、モノは貰った瞬間が喜びのクライマックスであり、他にも欲しいモノができれば、すぐに忘れてしまうような頼りないものである。それに比べて、素敵な思い出は、それを思い返すたびに幸せな気分に浸れるものだ。
実際、タロウはその時の思い出が忘れられず、また配るものがなくなったサンタがいつ来ても良いように、お小遣いを貯めては、それでせっせと誰かのためのプレゼントを買い集めていたらしい。
その話を聞き、サンタは再び立ち上がる。「ありがとう」と頭をポンポンされて、照れくさそうなタロウが印象的だ。
いつもの服に身を包み、トナカイたちが引くソリで空を駆ける。
みんなが夜空を見上げる。今回は着ぐるみだけの出演かと思われた犬塚もジロウも見上げる。どことなく幸せそうな笑顔。
犬塚 翼
柊太朗
桃谷ジロウ
石川雷蔵
夢のようなドラマの最後は、はるかのツッコミで現実に引き戻されるのだが、そのツッコミまで含めて『ドンブラザーズ』だ。ベタになりがちなクリスマス回に、ここまで狂気の味付けを施すことができるのは『ドンブラザーズ』だけだろう。このままのテイストでラストまで突っ走って欲しいものだ。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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