『仮面ライダーW FOREVER A to Z /運命のガイアメモリ』感想

雷堂

2010年8月7日公開『仮面ライダーW FOREVER A to Z /運命のガイアメモリ』(監督:坂本浩一 脚本:三条 陸)をレビュー

冬休みになって、お子さんたちと何か映画でも観たい。しかし、映画を観に行くには、チケット代はもとより、交通費やら上映中のポップコーンやらジュースやらの出費が必要だが、本作はなんと、Amazonプライムビデオの会員特典で観ることができてしまうのだ(2022年12月時点。タイミングによっては、別途レンタル料が必要になる可能性もゼロではない)。

それに、お金がかからないからと言っても、しょうもない作品を観て2時間も過ごすのは苦痛でしかない。同じ映画体験をするなら、やはり面白いと評判の作品を観たいと思うのが当然である。

そこでチェックしていただきたいのが、本作『仮面ライダーW FOREVER A to Z /運命のガイアメモリ』である。

これは数ある劇場版仮面ライダーシリーズの中でも白眉と言える存在で、「平成ライダーの中では・・・」とか、そんなつまらないエクスキューズは一切無しに、現時点でシリーズ最高傑作と言って良い。ちなみに“A to Z”とは、アルファベットのAからZまでのイニシャルを持つ26本のガイアメモリ(『仮面ライダーW』のキーアイテム)のことを示す。

本記事では、そんな名作の魅力についてネタバレも含めながら語って行きたい。最後までおつきあいいただければ幸いだ。

※なお、以下で使用している画像は全て『仮面ライダーW』もしくは『仮面ライダーW FOREVER A to Z/運命のガイアメモリ』から引用している。

目次

不死の傭兵“NEVER”

まずはなんと言っても、悪役が強くて魅力的なところが良い。

特撮ヒーローに限ったことではないけれど、魅力的な物語には必ずと言って良いほど魅力的な悪役(もしくはライバル)がいるものだ。パッと思いつくところで言えば、『機動戦士ガンダム』のシャア・アズナブル。『ドラゴンボール』のベジータ、『ジョジョの奇妙な冒険』のディオ・ブランドーなどは、作品自体のファンでなくとも、どこかで一度は見聞きしたことのある名前ではないだろうか?

『仮面ライダーW(TVシリーズ)』もまた、園崎琉兵衛と井坂深紅郎というシリーズ屈指の魅力的な悪役(しかも二人も!)の存在が作品価値を何倍にも跳ね上げていたことは間違いない。

園崎琉兵衛

寺田 農

井坂深紅郎

檀 臣幸

そして本作では、“NEVER”と呼ばれる不死の傭兵たちが作品に華を添える。

リーダーの大道克己はもちろん、その他のメンバーも良い意味でクセが強い。以下、ざっくりと紹介してみる。

大道克己/仮面ライダーエターナル

松岡 充

16歳の頃、交通事故で命を落とすが、科学者の母の手でネクロオーバー(生ける屍のこと)実験体第1号として蘇る。蘇生後は薬品投与によって細胞を増殖し、人為的に成長を促されたため、よくあるゾンビのように、いつまでも死んだ頃のままではなく、年相応の外見となっている。身体が腐らないのも薬品の効果である。

財団Xの投資対象とされ過酷な訓練を受けるうちに元の性格は消失し、「風都史上最悪の犯罪者」と呼ばれるほどの冷酷非道さを身につける。

コンバットナイフの扱いに長け、輸送中のT2ガイアメモリの中から“E(エターナル)”のメモリを奪い、仮面ライダーエターナルへと変身する。

画像引用元:仮面ライダーW

これがかなり強いライダーで、ファングジョーカーとアクセルを同時に相手してもなお圧倒する。変身することで能力値が上がるとはいえ、やはり元々の戦闘に対する練度の高さが如実に現れると言うことだろう。

親指を下に向かって突き下げるサムズダウン(ブーイングの時に見るジェスチャー)と共に発する「さあ、地獄を楽しみな」が決め台詞となっている。

「さあ、お前の罪を数えろ!」というWの決め台詞に対し、「今さら数え切れるか!」と返すシーンは最高だ。ソフィアのボーカル・松岡 充さんが演じている。

泉 京水/ルナ・ドーパント

須藤元気

常にダンスのステップを踏むような軽やかな動きと、ねっとりとした台詞回しが印象的なゴリゴリのオネエキャラを須藤元気さんが怪演している。中でも、次作『仮面ライダーオーズ』の火野映司がフライング登場するシーンで見せる「誰? このイケメン」「嫌いじゃないわ!」という台詞の破壊力が凄まじい。

ルナのT2ガイアメモリを入手し、ルナ・ドーパントに変身するが、変身前は関節技と鞭(ルナ・ドーパントも両手が鞭のように伸びてしなる)を使った攻撃を得意とする。関節技のネーミングも「フライング二丁目固め」などと、そっち系を意識したものとなっており、完全なネタキャラ。

羽原レイカ/ヒート・ドーパント

八代みなせ

ホットパンツ姿のセクシーお姉さん。長い脚を活かしたキック技がめちゃくちゃ映える。華麗な素面アクションが見ものだ。

死者ゆえに体温がないことをコンプレックスとしており、そのことを指摘されると激昂する。

ないものねだりのようにヒートのT2ガイアメモリに固執し、ヒート・ドーパントに変身する。最後は、克己に助けを求めるも、「用済み」とされ消滅してしまうという悲しい結末を迎える。

芦原 賢/トリガー・ドーパント

出合正幸

寡黙な性格のスナイパーで、銃器の扱いに長けている。

無口ゆえ、NEVERの中では最も影が薄いが、その実力は本物で、トリガーのT2ガイアメモリでトリガー・ドーパントに変身し、仮面ライダーアクセルをも一度は倒してしまう。

最後はトライアルに変身したアクセルに攻撃を全てかわされ敗北してしまう。

変身後、「ゲームスタート」と呟く姿から、彼にとって戦闘とはゲーム(FPS)のようなものかもしれない。

堂本剛三/メタル・ドーパント

中村浩二

NEVERきっての脳筋キャラ。鍛え抜かれた肉体と得意の棒術が武器である。メタルのT2ガイアメモリを使って、メタル・ドーパントに変身するが、変身せずともWと互角に戦えるほどのパワーを持つ。

特撮ファンには今さら言うまでもないが、平成ウルトラシリーズ『ティガ』『ダイナ』『ガイア』の中の人である。

つまり、ここでひっそりとミスター平成ライダー(高岩成二さん)とミスター平成ウルトラマン(語呂が悪い)とのレジェンド対決が繰り広げられたことになる。最後はライダーパンチのカウンターで消滅する。


彼ら5人がどうして不死の身体を手に入れたのか。

大道克己以外の4人の経緯については、本作のヒットを受けて制作されたスピンオフで明かされているのだが、それを知らずとも、人為的に不死の身体を与えられたことの悲劇性は十分に伝わってくる。「死にたくない」というのは、古来より誰しもが一度は持ち得る感情だろう。だからこそ不老不死を巡って、さまざまな伝説が生み出されてきたわけだ。しかし、死なないことが本当に幸せなのかはわからない。

これは、初代『仮面ライダー』の頃から描かれてきた改造人間の悲哀に近い。人間を超える力を求めて、化け物としか思えない姿を手に入れた改造人間たち。その能力ゆえ、世界征服の先兵としてショッカーに利用された彼らは本当に幸せだったのだろうか。

不死の身体を手に入れたがゆえ、都合の良い殺戮マシーンとして重宝される傭兵部隊NEVERにも同種の匂いを感じざるを得ない。

本作には、昭和も平成もなく、仮面ライダーシリーズに通底するテーマがしっかりと描かれている。

母と息子

我が子を想う母の愛。そして、母を想う子の愛。

そんな愛についても考えさせられるのが本作だ。

傭兵部隊NEVERを追って来日した国際特務調査機関員・マリア。

マリア・S・クランベリー

杉本 彩

フィリップは、彼女に母(シュラウド)の面影を見る。

フィリップ/仮面ライダーW

菅田将暉

マリアもまた、フィリップを気遣う素振りを見せるものだから、その想いはさらに加速していく。

だが、彼女の本当の名は大道マリア。つまり、NEVERのリーダー・大道克己の実の母親なのである。

遺伝子工学の権威である彼女は、交通事故により16歳で命を落とした息子の克己を甦らせるため、死者蘇生という禁断の研究に手を染める。莫大な資金を持つ財団Xの支援を受けながら実験は成功するが、それと引き換えに克己は財団Xのモルモットとして過酷な訓練や仕打ちを受け続け、冷酷非道な殺人マシーンになってしまった。

そんな息子への贖罪として、マリアは克己の望むもの全てを手に入れてやろうという歪んだ愛情表現をするようになる。

26本のT2ガイアメモリを手に入れようとしたのも、フィリップに思わせぶりな気遣いをしてみせたのも、全ては克己が欲したものだからだ。

克己には計画があった。

それは、風都の住人全員をネクロオーバー(不死者)にするというもので、そのために26本のT2ガイアメモリとフィリップが不可欠なのだった。

そんな計画のためにフィリップの気持ちを弄んだマリアだったが、16歳の頃の克己に瓜二つなフィリップに対し割り切れない想いが生まれていた。

そのため、エクスビッカーと呼ばれる装置に26本のT2ガイアメモリを装填し、その制御装置としてフィリップが繋がれた際には、克己にNEVERにとっての毒となる細胞分解酵素を注入し、その凶行を止めようとするが、克己の無慈悲な銃撃に倒れ、フィリップの腕の中で息を引き取るという、なんとも後味の悪い結末を迎える。

だが、この届かなかった母の愛という悲劇が、物語のクライマックスをさらに盛り上げる。この後に登場するWの新フォーム・サイクロンジョーカーゴールドエクストリームには3対となる6枚の羽がある。

画像引用元:仮面ライダーW

これは風都のシンボル・風都タワーの風車をイメージしたとあるが、私には、身も心も地獄へと堕ちた克己を正しく死者の世界へと導くため、天界より舞い降りた熾天使に見える。物語の展開からすれば、絶体絶命のWに対し、風都の人々が寄せた勝利への祈りが奇跡を生んだということになるのだろうが、最後まで克己のことを想い続けたマリアの気持ちが、まるで天使を思わせるような姿へWを変化させたようにも思えるのだ。消滅した克己と共に向かうのは地獄かもしれないが、母子が再び心を通わせる日が来ることを祈るばかりである。

完璧な導線

そして何より、二つの完璧な導線を持つことが、この作品を稀有なものとしている。

物語冒頭、「雨漏りがする」と眉を顰める左 翔太郎。

左 翔太郎/仮面ライダーW

桐山 漣

レトロ趣味を極めた探偵事務所なので、そもそもの築年数がどれほどのものかはわからないが、建物自体が決して新しくないことは理解できる。雨漏りだってするに違いない、くらいに思っていると、これがとんでもない伏線であることが後にわかる。

大道克己によって、空輸の途中で強奪された26本のT2ガイアメモリ。克己が手にしたエターナル以外の25本のメモリは、そのまま地上へと落下してしまう。これが今回の事件の発端である。

克己は自らの目的のため、26本全てのメモリを集めるのだが、どうしてもあと1本が見つからない。そこで法外な懸賞金をかけて、街の人々に探索をさせるのだが、それでもどうしても見つからない。それが、ジョーカーのメモリ。改めて言うまでもなく、翔太郎がいつも使っているあのメモリ(ただし、探しているのはT2。翔太郎が所持しているのは旧型)だ。

仮面ライダーエターナルの能力によって、T2以外の全てのメモリが無力化してしまい、仮面ライダーに変身できない翔太郎の元に、NEVERのレイカが現れる。しかもフィリップはNEVERによって連れ去られており、完全に孤立無援の状況だ。ヒート・ドーパントでもある彼女に、素の状態で立ち向かって勝てるはずもない。

「冷たい身体がイヤで、きっと私はヒート(メモリ)と引き合ったんだ」と語るレイカの言葉にハッとする翔太郎。

「メモリと引き合う?」

ふと見上げた天井には、小さな穴。

ああ、ここから雨漏りが・・・

ではない。

風都のあちこちに落下した25本のT2ガイアメモリ。

見つからないジョーカーメモリ。

事務所の屋根の穴。

これらの点が繋がる。

屋根の穴の真下。

そこに、ジョーカーメモリは落下していたのだ。

その少し前に都合よく登場した仮面ライダースカルの幻影と共に翔太郎が手にしていたのは、いつものWドライバーではなく、メモリを1本だけ装填できる片割れのロストドライバー。ここは伏線も何もなく、単なるご都合主義でしかなかったけれど、愛弟子・翔太郎のピンチを救ったのが、今は亡き鳴海荘吉であったという展開は全然悪くない。

画像引用元:仮面ライダーW

「どうやら切り札は、常に俺のところに来るようだぜ」

この決め台詞までの展開があるというだけでも、本作を観る価値は十二分にある。

翔太郎は、いつものハーフ&ハーフではない新フォーム・仮面ライダージョーカーへと変身する。これが身震いするほどカッコいい。実は能力的には、パンチもキックもジャンプもサイクロンジョーカーの半分しかない。だが、Wの究極フォームは、誰がなんと言おうとコレだと声を大にして言いたい。

画像引用元:仮面ライダーW

さらにもう一つ、素敵な導線も用意されている。

鳴海亜樹子と、照井 竜の淡い恋の物語だ。

鳴海亜樹子

山本ひかる

照井 竜

木ノ本嶺浩

物語序盤で、風都の花火大会に行こうと約束を交わす二人だったが、風都は飛び散ったT2ガイアメモリが自ら宿主を探し、ドーパント化させるという異常事態が起こったため、お預け状態に。

さて、照井はNEVERとの最終決戦を無事終えて、亜樹子と共に花火を見ることはできるのだろうか?

画像引用元:仮面ライダーW

まるで中学生のような幼さの残る恋模様に心が洗われる想いがする。


ここまで書いてきたように本作は、脚本の三条 陸さんが描く人の心の機微と、坂本浩一監督によるド派手なアクション(特に、ワイヤーを使ってのバイクアクションは本当にカッコいい)とが、ガッチリと噛み合った傑作である。観る者の心も身体も震わせる作品となっている。「感動できる映画が観たい」という方も、「ド派手でカッコいいアクション映画が観たい」という方も満足できる仕上がりとなっているはずだ。

画像引用元:仮面ライダーW

なお、TTFC(東映特撮ファンクラブ)というアプリでは、ディレクターズカット版も視聴できる。通常版だけでは満足できなくなったら、こちらも視聴してみていただきたい。

雷堂

それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。

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この記事を書いた人

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