『仮面ライダーオーズ』10th「復活のコアメダル」(監督:田﨑 竜太 脚本:毛利亘宏)
TV本編終了から10年。『仮面ライダーオーズ』のオリジナルキャストが再び集結してつくられた完全新作。
消滅してしまった相棒・アンクを復活させる方法を求め、映司が旅に出てから10年後の物語にして、『仮面ライダーオーズ』の完結編だ。
2022年3月から期間限定上映された後、4月2日正午からはTTFC(東映特撮ファンクラブ)にて有料配信(税込1,600円で7日間視聴可能。2022年7月31日23:59までの特別配信)が開始された。
『仮面ライダーオーズ』といえば、仮面ライダーシリーズの中でもかなりの人気作である。2021年にNHKで放送された『全仮面ライダー大投票』では、作品部門で3位(1位は『電王』、2位は『W』)、ライダー部門では4位に「オーズ」が入賞(1位は「電王」、2位は「W」、3位は「クウガ」)、主題歌の「Anything Goes!」も音楽部門で3位(1位は『エグゼイド』の主題歌「EXITE」、2位は『ビルド』の主題歌「Be The One」)と、軒並み高評価。
シリーズ史上屈指のラストを見せてくれたTV本編に、「続きが気になる!」というファンも多かったはず。そういった意味においても、今回の10年ぶりの完全新作、しかも完結編とまで言われれば、期待するなという方が無理。実際、本作の公開が決まった際のファンの盛り上がりようは凄まじかった。10年前と変わらぬキャストさんたちの姿もさらに期待を倍化させた。
「こんなの面白いに決まってる!」と、誰もが思ったはずだ。もちろん私もそう思った。
ところが、映画は公開直後から賛否両論の嵐。というより、否定派の方が多い。映画のレビューサイトでは5点満点で平均1.8点などといった評価すらある。
『オーズ』に何が起こったか?
この作品の良かった点、気になった点を、ネタバレを厭わず本音でレビューする。最後までおつきあいいただければ幸いだ。
キャスト・スタッフ
ここでは本作のキャストをご紹介する。ウィキペディアに記載のある方については、リンクを貼っておくので、是非他の参加作品もチェックしていただきたい。オリジナルキャストに関しては、TV本編終了後10年の歩みがわかって興味深い。
なお、使用している画像は全て「仮面ライダーオーズ10th復活のコアメダル」から引用している。
【キャスト】
火野映司
渡部 秀
アンク/泉 信吾
三浦 涼介
泉 比奈
高田 里穂
後藤慎太郎
君嶋 麻耶
伊達 明
岩永 洋昭
里中エリカ
有未 麻祐子
ウヴァ
ヤマダユウスケ
カザリ
橋本 汰斗
メズール
矢作 穂香
ガメル
松本 博之
少女
寺田 藍月
白石知世子
甲斐 まり恵
メズールの声
ゆかな
古代オーズの声
谷 昌樹
ゴーダの声
日野 聡
鴻上 光生
宇梶 剛士
ナレーション:中田 譲治
【スタッフ】
監督:田崎 竜太
脚本:毛利 亘宏
音楽:中川 幸太郎
アクション監督:宮崎 剛
終始、不穏なストーリー
物語はアンクが復活するところから始まる。
これが本作のミソでもある。アンク復活まで、を描くのではなく、アンクが復活するところから描かれる。アンクを蘇らせたいと誰よりも願っていたのは映司だ。その映司が姿を現す前に、アンクが復活する。それも、誰がどうやったのかまるでわからないのだから、復活した、というよりも復活させられてしまった、と言う方が正しいかもしれない。ここから既に不穏な空気が流れる。
復活したアンクを待っていたのは、平和な世界などではなかった。800年前に消えたはずの古代オーズが復活した荒廃した世界。
さらに倒したはずのグリードたちも王の手によって蘇っており、懐かしい仲間たちは、レジスタンスとして銃器を手に命懸けの戦いを続けている。ふと、『北斗の拳』を思い浮かべてしまうほどの世紀末感だ。
しかし、これだけではない。
ようやく出会えた映司は、違和感ありあり。10年前とはまるで違う。一番変わらなさそうな映司だけが、唯一変わってしまったという不思議。それもそのはず。鴻上ファウンデーションが創り出した人造グリード・ゴーダによって、意志も肉体も乗っ取られていたのだ。映司は古代王との戦いの中で、一人の少女を救うために瀕死の重傷を負ったのだ。その映司の身体をゴーダが乗っ取ったことで、映司はかろうじて生きているという状況。今、ゴーダを追い出してしまったら、映司は死んでしまう・・・。アンクは苦悩する。
一方、復活したグリード4幹部は、古代オーズに吸収されて退場。オーズと戦って敗れたウヴァはまだしも、他の3人は大した見せ場もなく消えてしまう。
さらには、その古代オーズでさえ、ゴーダに吸収されてしまう。弱肉強食の世界といえば聞こえはいいが、次々に小さなものを大きなものが飲み込むという図式は、まるでマトリョーシカみたいである。
最強とも言える力を手に入れたゴーダを倒すため、アンクは映司に憑依し、一心同体で究極の変身を遂げる。最高のバディが、10年越しに、ついに一つとなったのだ。その瞬間、我々のボルテージも最高潮に達する。
しかし、現実は甘くない。ラストは、映司の死亡という、なんともやるせない最後が待ち構えている。あのアンクが、意識の中で消えゆく映司と対峙し、ボロボロと涙を流すシーンには、こちらも落涙を禁じ得ない。
不穏な空気が漂う中で始まった物語は、最後にカラッと晴れ上がることもなく、締め括られる。しかし、ただ暗いだけでないことは唯一の救いだ。過去の回想シーンや、アンクがアイスを食べるシーンなど、懐かしいシーンもふんだんに盛り込みながら、『オーズ』の世界を堪能できる。
もっと長く見ていたかった、という想いはあっても、短かすぎてワケがわからないとは思わなかった。きっちりとまとまっている。60分足らずとは思えない濃密なストーリーである。
相変わらず魅力的なキャラクター
「ゴーダ(の声)」と「少女」を除けば、主要なキャラクターは全てTV本編そのままである。
しかも、10年前とほとんど変わらない姿を見せてくれたことには驚きしかない。ぶっちゃけ、里中ちゃんだけは、ちょっとふっくらしたかな? とは思ったが、他のメンバーは本当にあの時のままだ。もちろん、アップで見たら、それ相応の年齢は感じるのかもしれないけれど、さすがにそんな意地悪は言いっこなしである。
中でも、映司とアンクの変わらなさに驚く人たちは多いけれど、個人的には伊達さんに一番驚いた。
というのも、『ジオウ』のスピンオフ「ゲイツ、マジェスティ」に登場した際は、年齢相応に渋くなっていたからだ。
あのままなんだろうな、と思っていたら、『オーズ』の頃のままに戻してきた。これには本当にびっくりした。ひょっとして、今も『オーズ』の頃と変わらないのが本当の姿であって、「ゲイツ、マジェスティ」に出演した時の姿が造られたものだったのだろうか? いずれにしても、役者さんて凄え、とひたすら感心した。
お互いに変わらぬ関係性を見せてくれたのも、また嬉しい。
映司とアンクと比奈。伊達さんと後藤ちゃん。鴻上会長と里中くん。そしてグリードの4幹部(特にガメルとメズール)。
「10年ひと昔」なんてのは、移り変わりの早い現代では、古臭いだけの言葉なのかもしれないが、それでも10年という時を超えて、変わらぬ姿、変わらぬ関係性を再び見せてくれたことには価値がある。
ただし、グリード4幹部のうち、ウヴァ以外の3人が、ほとんど活躍の場もなく古代オーズに取り込まれて消えてしまうところは少し残念。オリジナルキャストの無駄遣いという気もするが、とはいえ、作品の尺を考えると、他に方法がなかったことは想像に難くない。変に終盤まで4人も一緒になってわちゃわちゃしてしまうのは、むしろ逆効果だったろう。それに、グリードを演じる4人のキャストさんたちが、再び元気そうな姿を見せてくれた、というだけで、ファンとしては嬉しかった。
本作上映前に、さまざまなメディアでキャストさんたちのお話を聞く機会もあったが、そのどれもに『オーズ』という作品への思い入れや愛が感じられた。
主演の渡部さんは、TV本編当時から「オーズを歴代最高の仮面ライダーにしたい」という想いを語っていた、と聞いたことがあるけれど、『オーズ』を名作たらしめている最大の要素は、間違いなく、こういった作り手側の想いだろう。
キャラクターたちが、10年経っても、変わらぬ魅力を放ち続けているのは、設定や脚本の力ばかりではないと、本作を観れば誰もが思い知るはずである。
新ライダーは4人!
高々60分ほどのスピンオフに、4人もの新しいライダーが登場する、というのは破格だ。これぞ人気作。気合の入り方が違う。
まず一人目。
復活した「古代王・仮面ライダーオーズ」は、当初はマスクにヒビが入ったタトバコンボ(複眼のカラーは赤)。これも凄みがあって好きだったが、物語後半で、4人のグリードを吸収してパワーアップする。
両肩に大きなツノ状の突起を持つ姿は、映画「オーズ・電王・オールライダー レッツゴー仮面ライダー」に登場したタマシーコンボ(タカ・イマジン・ショッカー)を彷彿とさせる。
二人目は、その古代オーズを取り込んで生まれた「仮面ライダーゴーダ」。
ムカデ、ハチ、アリという、刺されたら痛そうな3つのコアメダルで変身。
古代オーズにもあったが、胸には4人のグリード幹部たちが描かれている。
その戦闘力は圧倒的。重戦車のような威圧感もラスボスにふさわしい。
三人目の「仮面ライダーバースX」は、後藤ちゃんが変身するバースの強化形態。
いつものセルメダルではなく、エビ、カニ、サソリの3つのコアメダルをバースドライバーXに装填する。右腕に装備するのは、エネルギー弾を発射するカニアーム。
今回は敵が強力すぎることもあり、ほとんど活躍はできなかったが、今後配信が予定されているスピンオフ(これも贅沢)で、その勇姿を堪能できるだろう。
そして四人目が、オーズの究極フォーム「タジャドルコンボエタニティ」。
最後はやっぱりタジャドルコンボ、というのが熱い。しかも今回はアンクベースとなるため、額のタカの右目を前髪で隠すようなデザインになっている。
また、マスクの翼部分が赤、黄、緑、紫とグラデーションになっているのだが、レゲエなどでよく使われるラスタカラー(赤・黄・緑・黒)の配色に近く、世界を旅する映司のイメージに似つかわしい。
戦闘力は圧倒的すぎて、ゴーダさえ瞬殺。そのため、ほとんど活躍する姿が見られなかったのは、唯一の不満かも知れない。
スーツアクターの世代交代
オリジナルキャストが再び集結したのに対し、それが叶わなかったのが、アクションシーンを支えるスーツアクターである。
当時、『オーズ』に出演していたスーツアクターで、本作にも出演しているのは、なんと藤田 慧さん唯一人。
とはいえ、これは仕方のないことだろう。
オリジナルのオーズを演じていた、高岩成二さんは、『ゼロワン』で演じた仮面ライダー滅を最後に、スーツアクターからは身を引いているし、バースやアンクの腕などを演じていた永徳さんは『リバイス』真っ最中(というのが出演していない理由なのかはわからないけれど)。
しかし、今回アンクの腕を演じている藤田さんは、TV本編でも一部代役としてアンクの腕を演じたことがあるので、こちらは役をそのまま受け継いだと言って良いのではないか。
そして、オーズを受け継いだのは、浅井宏輔さん。今やレジェンドとなった、ミスター平成ライダー・高岩さんのバトンを受け取るというのは、プレッシャーも大きかったとは思うけれど、そもそも浅井さんも特撮史上に名を残す名アクターである(スーパー戦隊のレッドと、仮面ライダーの1号(主人公)ライダーを演じたスーツアクターは、新堀和男さん、高岩成二さんに続いて史上3人目)。演技そのものには、文句のつけようもない。
少なくとも、以前からの『オーズ』ファンが今回のアクションシーンを見て、がっかりするとか、違和感を覚えるといったことは無いだろう。冒頭からシリアスなストーリー展開上、以前のようなコミカルな所作は見られないけれど、きちんとカッコいいオーズは、確かに存在している。
完結編として、どうだったか?
おそらくはここが最も物議を醸した部分だろうと思う。
「何故、映司を殺さねばならなかったのか?」
10年前、エンディングを迎えた『仮面ライダーオーズ』。
TV本編、最後の戦いでアンクが消滅してしまったことには驚きもしたし、哀しくもあったけれど、映司が旅立つシーンには、その哀しみを超える希望が垣間見えた。
いつか必ず映司がアンクを復活させる。
冷静に考えれば、死者が蘇るなんてことはあり得ないのだけれど、アンクは人間ではなくグリード。800年の時を経て、一度は蘇った存在である。それがいつになるかはわからないけれど、もう1回くらい、そんな奇跡が起こったっておかしくはない。ぼんやりしてはいるけれど、しかし間違いなく存在はしている六等星のような確信がそこにはあった。
「愛しさと切なさと心強さと」なんて90年代のミリオンセラーのタイトルが、ふと浮かぶような幕引きは、歴代仮面ライダーシリーズの中でも屈指のものであったと思う。
つまり、あの時点で『オーズ』の物語は完結していたし、完結させるべきだったのかもしれない。あの余韻こそが『オーズ』を傑作たらしめていたはずだ。
それが、10周年というアニバーサリーイヤーをきっかけに、その封印は解かれてしまう。
個人的には素晴らしい作品だったと思う。
『仮面ライダー4号』が、実は『仮面ライダー555』の10年越しの完結編として名作であったように、本作もまた『仮面ライダーオーズ』の10年越しの完結編として、きちんと成り立っている。あの日、届くことのなかった映司の手が、今度はしっかりと届いていた。
一人の少女を救い、アンクを蘇らせることができた。自らの命よりも、自らの欲望を満たすことを選んだのだ。その代償はあまりにも大きかったが、これ以上、映司らしい最期もなかったように思う。
しかし、ファン目線で言えばどうだろう?
その後の物語として、ファンが見たかったのは、こういった結末だったのか? という部分には疑問が残らないではない。TV本編で消滅したのはグリードであるアンクだったために、「いつか復活するかもしれない」という期待も持てたが、今回死んでしまったのは人間・火野映司である。同じライダーでも、『仮面ライダーゴースト』なら、また復活することもあるだろうが、残念ながら本作は『オーズ』であって『ゴースト』ではない。一度死んだ人間が蘇ることはないのである。
10年前の作品からオリジナルキャストを集結させてまで、わざわざ火野映司の命を奪う必要があったのか? 多くのファンが見たかったのは、こんな公開処刑などではなく、復活したアンクと映司の変わらぬ姿、ただそれだけだったろう。
しかし、だとしたら、他にどんな終わり方があっただろう? とも思うのだ。アンクが復活し、ラスボスも倒して大団円。変わらぬ毎日が続いていく・・・といったハッピーエンドだったら良かったのだろうか? それでは、打ち切りマンガのテンプレ「俺たちの戦いはこれからだ!」エンドとさほど変わらないのではないか? 少なくとも、私はそんなありきたりな完結編を見たいとは思わない。
本作の最後に見せた、アンクが憑依した映司。あれこそが唯一残された希望のカタチだったのかも知れないが、そうなると、今度はお馴染みのアンクが姿を消してしまうため、それもまた何か違う。
そもそも、ファンが見たい作品と「傑作」とはイコールではないと思うし、期待通りの展開でなかったからといって「駄作」と烙印を押すのも違うと思う。
本作は、ファンの期待を裏切っただけだ。
“期待を超える”か、“期待を下回る”か。それは水準の問題であって、“期待を裏切る”こととは違う。“期待を裏切る”のは悪いことばかりでない。
復活したアンクと映司のハッピーなドラマがまた見たい、という期待を裏切ったことで、批判するファンも多い。
しかし、純粋に1本の作品としてみれば、完成度は高い。ファンの期待を裏切ってでも、強いメッセージを持って、『オーズ』という欲望の物語に終止符を打ったことは、クリエイターとしては非常に勇気ある行動だと思うし、称賛したい。
「映司なら、どうする?」と考えれば、あの時、少女のために身体を張ったことは映司としては当然のことであったろうし、何とかアンクを蘇らせたいと願ったこともまた、当然のことであったろう。
アンクたちにとってみれば、映司の死はハッピーエンドではなかった。しかし、映司にとっては、自らの命と引き換えに、一人の少女の命を救い、アンクを復活させることができたのはハッピーエンドだったに違いない。
ラストシーン。泣きそうな顔で、それでも少しだけ微笑むアンクの顔が、それを理解したことを物語っている。語らずとも通ずる。本物の相棒の姿が、ここにある。
長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。
\ 僕と握手! /