2022年3月27日から5月22日にかけて全5話が配信された『リバイスレガシー 仮面ライダーベイル』(監督:坂本浩一 脚本:毛利亘宏)をレビュー
『仮面ライダーリバイス』のスピンオフにして、『仮面ライダーリバイス』よりも『仮面ライダー』の遺伝子を色濃く受け継いだ作品。それが、『リバイスレガシー 仮面ライダーベイル』である。
これまで、数多くの作品が創られてきた仮面ライダーシリーズのスピンオフの中でも、間違いなく歴史に残る屈指の作品だ。
本記事では、全5話を通してネタバレレビューしてみたい。最後までおつきあいいただければ幸いだ。
キャスト
まずは本作のキャストをご紹介する。
ウィキペディアに記載のある方についてはリンクを貼っておくので、他の参加作品なども是非チェックしていただきたい。
なお、以下の画像は全て『リバイスレガシー 仮面ライダーベイル』より引用している。
白波純平/仮面ライダーベイル
五十嵐幸実
狩崎真澄
伊良部正造
東山(アガリヤマ)
五十嵐一輝
五十嵐大二
五十嵐さくら
伊良部正造
ベイル(声)
赤石英雄
五十嵐幸実
五十嵐元太
白波純平
今から25年前、バイクで崖の下に転落し、瀕死の重傷を負った青年。それが、本作の主人公・白波純平。後の五十嵐元太である。
彼が運び込まれたのは、ただの病院ではない。
科学研究組織ノア。
そこでは、悪魔を軍事利用するという恐るべき人体実験が行われていた。これは初代『仮面ライダー』におけるショッカーの設定に近い。
そこで純平は記憶も名前も消され、悪魔ギフの細胞を移植された「被験体071号」として蘇る。若き日の狩崎真澄が考案したバイスタンプシステムを実用化するためのモルモットとして。
ノアでは、このような実験を日々繰り返していた。事故に見せかけて重傷を負わせた青年を研究施設に運び込み、悪魔の細胞を植え付けて兵器化する・・・。しかし、成功例は未だゼロ。ほとんどは悪魔と中途半端に融合し、顔が溶けたような醜い怪物へと姿を変えてしまっていた。
その中で、純平は初の成功例だった。
狩崎が完成させたベイルドライバーとカブトバイスタンプを使って仮面ライダーベイルへと姿を変え、凄まじい戦闘力で悪魔を消滅させる。
その悪魔との戦いの中で、純平は失われた記憶の断片を思い出す。
それは「赤い悪魔に両親を殺された」という凄惨な記憶。
そんな純平に語りかけてくる謎の存在が現れる。それが「ベイル」。姿は見えないが、純平の中にいるというその存在は、純平の復讐を手伝うバディだと語りかける。
その日から、赤い悪魔を探し出して復讐を遂げることが、純平のモチベーションとなる。
来る日も来る日も醜い悪魔と戦い続ける毎日。しかし、赤い悪魔はどこにもいない。それはそうだろう。その赤い悪魔は、純平の中にいるのだから・・・。
ただ繰り返すだけの殺戮の日々に、純平の心はやがて壊れ始める。
ある日、出現した悪魔を倒すために駆けつけた現場で、助けた人々から自分まで「悪魔」呼ばわりされたことでショックを受けた純平は、意図せず周囲の人々まで巻き添えにしてしまい、自らも瓦礫の下敷きとなって身動きが取れなくなってしまう。
そんな純平に救いの手を差し伸べてくれたのが、五十嵐幸実だった。
五十嵐幸実
亡くなった両親から受け継いだ「しあわせ湯」という銭湯をひとりで切り盛りしていたのが、五十嵐幸実である。
瓦礫の中から純平を救い出し、傷の手当てをしてお風呂にまで入らせる。
「人間、どんなことがあっても、熱いお風呂に浸かれば復活できるのよ」というお約束の台詞も、『リバイス』名物・餃子入りカレーも、既に25年も前から存在していたことがわかる。
ふたりきりの食卓。
随分前に両親を事故で亡くし、ずっとひとりぼっちだという幸実の抱える寂しさと、両親を悪魔に殺され、記憶まで失った純平の孤独感が重なる。似たもの同士、という言葉は適切ではないかもしれない。しかし、この時点でそれなりのシンパシーは感じていたはずだ。
会話は続く。名前を聞かれ、「記憶がない」と答えた純平に、「じゃあ元太って呼んでいい?」と微笑む幸実。後に、この元太という名の由来が、昔飼っていた犬の名前であったことが判明するが、この時は「秘密」の一言でごまかされてしまう。大久保さんのいたずらっぽい笑顔がかわいい。
その後も「世界一のおせっかい」だと自称する幸実に、思わず笑顔がこぼれる純平。既にめちゃくちゃ良い雰囲気の二人だが、穏やかな時間は長くは続かない。
ノアの戦闘部隊が襲いかかる。
必死で抵抗するも、身柄を確保され、ノアの独房へ閉じ込められてしまう二人。
隣り合った独房の壁越しに再会するシーンは本作屈指の名シーンである。
ノアに捕らえられ、無事では戻れないだろうという状況の中で、お互いの気持ちを伝え合う。「あんたと家族になれたら幸せだろうな・・・」とつぶやいた純平。
振り返ってみれば、純平が人々に「悪魔!」と恐れられる姿に変身して悪魔を倒すシーンを目撃していながら、「俺が怖くないのか?」と聞かれても「怖くない。だって怪物を倒してくれたじゃない」と怯むことなく幸実が答えたあの時から、既に純平の心は幸実に奪われていたのかもしれない。
このまま処分されるのを待つばかりか、と思った矢先、純平の身体に異変が起こり、事態は急転する。
ベイル
純平の身体を襲ったのは、移植されたギフの細胞に対する拒否反応であった。
その様子を見たノアの所長・東山は「できぞこないの悪魔になる前に処分しろ」と言い放つ。酷いヤツだ。顔は、ザ・イエローモンキーの吉井和哉さんっぽい雰囲気もあるが、酷いヤツだ。しかし、それを邪魔したのはベイルだった。
純平から生まれた悪魔・ベイルは、純平が生きているからこそ存在できる。つまり、純平が死んでしまっては自分も消滅してしまうのだ。
「あなたには生きなければならない理由があるはずだ」と、再び純平の復讐心を煽り、力を貸し与える。
ノアの戦闘員たちを次々に倒し、脱出する純平。凄みのある素面アクションが堪能できる。このあたりの演出は、いかにも坂本浩一監督らしい。
しかし、今の純平が生きる理由は、幸実であった。復讐心がなくなったわけではないが、真っ先に浮かんだのは幸実の顔。
倒した戦闘員から奪った独房の鍵を使って幸実を救い出し、二人の逃避行が始まる。
途中、二人の逃走に手を貸してくれるのが、ノアの戦闘部隊長・伊良部正造、つまり若き日のぶーさんである。若くてめっちゃイケメンなぶーさんは、そもそもノアに潜入していたレジスタンスの一員だったらしい。天才科学者・狩崎真澄に道徳を説いて改心させることはできなかったが、被験者となった純平と幸実だけはなんとか助けようと思ったらしい。
とはいえ、ノアも純平たちをカンタンに見逃すわけにはいかない。追手を執拗に差し向ける。その最中、幸実が流れ弾で負傷してしまう。
それを目の当たりにした純平は逆上し、ベイルに変身し、戦闘員たちを痛めつける。純平の怒りに任せた攻撃は、明らかに度を超えており、戦闘員たちを殺してしまうほどの勢い。「まるで悪魔だ・・・」とつぶやくぶーさん。幸実の「やめて!」という悲痛な叫びが純平に届き、ようやく我に帰ったと思ったその時、ベイルが囁く。
「(痛めつけられて苦しんでいる)彼らを救う方法があります。ドライバーを左右から押し込んでください」
言われるがままにドライバーを左右から押し込むと、変身が解け、一体の悪魔が姿を現す。
赤い悪魔・・・。そう、ベイルのお出ましである。
実体化したベイルは、苦しみもがく戦闘員たちに次々ととどめを刺していく。
それを見た純平の記憶が蘇る。目の前で両親の命を奪った赤い悪魔。それがベイルだったと。
ギフの細胞を移植された純平から悪魔・ベイルが生まれた。当時は、その悪魔をドライバーに常駐させることでしか、バイスタンプシステムを制御することができなかったため、純平を復讐心でドライバーに縛りつけようと、ベイルに純平の両親の命を奪わせたということらしい。
全てはノアの計画だった。
怒りに燃える純平にベイルが再び囁く。「次は、あいつら(ノア)の番だと思わないか?」
仮面ライダーベイル VS ベイル
ベイルに身体を乗っ取られた純平は、幸実の制止も振り切ってノアを強襲する。
狩崎真澄が、自らの罪も、目の前に迫る死も、そういった全てを受け入れ覚悟を決めた時、「やめて!」と幸実の声がこだまする。
狩崎への攻撃の手は止まるが、そのままその手を幸実へと伸ばし、首を絞める純平。薄れゆく意識の中、「私も元太と家族になりたかった・・・」と幸実が口にした時、ベイルの呪縛が解け、変身も解除される。
「幸実・・・」とつぶやく元太に、「やっと私の名前、呼んでくれた・・・」と答える幸実。この上もなくベタだ。だがそれがいい。
そこに現れたのは所長の東山。
純平たちに銃を向けた瞬間、純平の中からベイルが飛び出し、東山の身体を刺し貫く。東山は即死。向かった先は天国か地獄か楽園か。
ここからクライマックス。仮面ライダーベイルとベイルの対決である。ベイルを生み出した自分に責任を感じ、決着をつけようとする純平は、「俺を殺せばお前も死ぬぞ」というベイルの脅しにも屈せず、「お前も悪魔だ」という揺さぶりにも動じない。
「だったら俺は、俺自身も許さない。俺は、俺の悪を断つ!」と、これもベタだが、この場面では、最上の決め台詞を口にして変身する純平。あれ? ベイルがいないのに変身できるの? と疑問を抱くが、すぐにベイルが「それは、今はただの重い鎧だ」とフォローする。
それでも構わないと、ベイルに挑みかかる純平。差し違えてでも、という覚悟の違いなのか、ベイル不在の仮面ライダーベイルでベイルを追い詰める。「ベイル」ばかりで何を書いているのかよくわからなくなってくる。
しかし、このままではベイルを倒すことができたとしても、純平もまた命を落としてしまうという状況で、狩崎が取り出したのは「デモンズドライバー」だった。
純平がベイルにとどめを刺す。と同時に、消滅を始める純平。そこで狩崎がデモンズドライバーをかざすと、ベイルがその中へと吸い込まれていった。デモンズドライバーの中に封印しようということらしい。
だが、ベイルの力は凄まじく、デモンズドライバーをかざす狩崎の身体は炎に包まれる。25年後の現代に置いて、狩崎が顔を隠している理由はこの時の大火傷が原因だったということだろう。
ノアの崩壊、そしてベイルの封印。こうして事件は終焉を迎える。
哀しみの過去、幸せな現在
その後、純平は傷を治し、ノアの残党に狙われることのないよう顔を変えるが、またもや記憶を失ってしまう。そこで与えられたのが五十嵐幸実の夫・五十嵐元太という名前である。
記憶喪失に乗じて、いつの間にか家族となった二人の物語、なんて書き方をすると悪意があるように思われるかもしれないが、そんなことはない。劇中未遂で終わったキスシーンも含め、本当に良い作品だったと思う。ただ、とにかく切ない。
ずっと陰鬱な空気が漂っていた過去の物語は、家族の笑顔に包まれた幸せな現在の映像で幕を閉じる。
そして流れる主題歌も切ない。限りなく切ない。
25年前と現在の五十嵐幸実を演じた、大久保さんと映美さんが二人で歌う主題歌「MY DREAM」(作詞:渡辺紫緒 作曲・編曲:坂部 剛)。この破壊力が凄まじい。
特に、映美さんのひたすら優しい歌声には、全てを赦し、抱きしめてくれるような温かさがある。五十嵐幸実という女性の半生がそのまま込められているように感じられ、なんだか泣きそうになってしまう。
『ベイル』という作品に漂う陰鬱な空気が、歌い出しの一節でキレイに浄化されてしまう。作品の評価を星で表すようなことはしていないが、もしも星をつけるとしたら、この楽曲があることで、間違いなく星が1個はプラスされるだろう。そのくらい本作にはピタリとハマっている。
『仮面ライダーリバイス』は、ライダーシリーズとしては珍しく「家族」をテーマにしており、当初はウソみたいな幸せ家族っぷりを疎ましく思うこともあったが、こうして過去の歴史を紐解けば、五十嵐一家が家族にこだわる理由が明確になった。これほどの経験があれば、家族に対する思い入れが尋常ならざるものとなることも理解できる。
スピンオフだから、この物語はあくまでも後付けなのだろうとは思うが、まるで当初からこういう背景が設定されていたのではないかと思うほど自然だ。
一方、自らが生み出した悪魔の力で悪魔と戦い、最後は自身の悪魔と決着をつけるという図式は、『仮面ライダー』そのものであると言って良い。
「仮面ライダーはダークヒーローである」といった原点を深く刻みつけてくれる作品であり、設定の奥行きを感じさせてくれる名作。それが『リバイスレガシー 仮面ライダーベイル』だ。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
\ 僕と握手! /