1977年6月22日放送『快傑ズバット』第21話「さらば瞼の母」(監督:広田茂穂 脚本:長坂秀佳)をレビュー
22年。
そんな長い年月を超えて、幼い頃に生き別れた母親に再会する主人公・早川 健。
当時4歳だった少年は私立探偵となっていた。
母親は資産家の妻となり、何不自由ない生活を送っていた。
そんな二人がまさかの邂逅を果たす。
キザでニヒルな早川 健が、これまでに見せたことのない顔を見せる。母に会えた希望。そして、母に拒絶された絶望。常人離れした早川の人間味溢れるエピソードである。
ネタバレも含むが、最後までおつきあいいただければ幸いだ。
キャスト
ここでは第21話のキャストをご紹介する。
本作初登場でウィキペディアに記載のある方についてはリンクを貼っておくので、他の参加作品など是非チェックしていただきたい。
なお、以下で使用している画像は全て『快傑ズバット』より引用している。
快傑ズバット/早川 健
宮内 洋
飛鳥みどり※画面右
大城信子
寺田オサム※画面中央
中野宣之
鶴間千代
鶴間冴子
夜叉丸
コック伊魔平
老女中※画面左
若い女中※画面右
前原美代子
首領L
はやみ竜次
東条進吾※画面左
斉藤 真
ナレーター:青森 伸
母との再会
物語は、いつもの黒服の男たちに襲われている裕福そうな女性を早川 健が救い出すところから始まる。
お決まりの白いギターを片手に、悪党共を追い返した早川は、お礼を言って立ち去ろうとするその女性の顔を見て、ハッとする。
それは22年前に生き別れた母だった。
今は資産家の妻として、何不自由ない生活を送っているらしい。娘も一人いるようだ。早川の妹、ということになる。
まさかの再会に、これまで見せたことのないようなはしゃぎようを見せる早川。アラサー男性がスキップする画というのは、マンガやアニメならさほど違和感を覚えないが、実際に目にすると、なかなか気味が悪い。しかし、早川がやると、笑って観ていられるのだから不思議だ。男は寡黙で難しい顔をしているばかりが魅力ではないのだ。
母のため、そしてまだ見ぬ妹のためにプレゼントまで用意して、東条刑事と共に母・鶴間千代の元へと向かう。気に入ったプレゼントを見つけるのに、デパートを何件もハシゴしたと語る早川が微笑ましい。
だが、母にも色々と背負っているものがある。
「お母さん、健です」と呼びかける早川に、一瞬、泣き笑いのような表情を浮かべる千代だったが、娘・冴子の前であることを意識して「人違いです」と態度を一変させてしまう。隠し子、ではないにせよ、資産家の妻として、離婚歴があるといったことは、今よりも体裁の悪いことだったのかもしれない。
有頂天から地の底へと真っ逆さまに突き落とされた早川は、一人、哀しみに咽び泣く。
しかし、母が狙われていることは事実。
そこで早川は、母と妹が悪党に狙われないよう、ひっそりと見守るのだった。泣けるほど健気であるが、一歩間違えたらストーカーである。
ちなみに、本作の空気ヒロイン・みどりと謎の家出少年・オサムの二人は、この場面のみ出演している。夕日に向かって咽び泣く早川に駆け寄ろうとするオサムを東条刑事が嗜める。「あれほどの男でも泣きたい時はある」というセリフは、いかにも昭和臭いが悪くはない。
夜桜組
鶴間千代を狙っていたのは、夜桜組という風流な名前の暴力団だった。
制服には、桜の花があしらわれている。穴を塞ぐアップリケだろうか。大の男が身につけるのは、なかなか抵抗があるアイテムだ。
そのボスの名は夜叉丸。銃が得意なのか、単なるガンマニアなのかは不明だが、ライフルを愛用している。
用心棒は“殺人コック”の異名を持つ伊魔平(イマヘイ)。他の用心棒と同様、顔色が悪い。出立ちは確かにコックのようだが、皿をブーメランのように投げて攻撃するという謎の殺人術には、コックらしさは微塵も感じられない。それどころか、木の幹に突き刺した皿の上に、瀬戸物の皿を複数枚、割らずに次々と投げ重ねるという技には、殺しの技術よりも大道芸的な魅せる技術が溢れている。
この夜桜組が千代を狙っていた理由は、身代金が欲しいからである。
悪の大組織ダッカーへの上納金を迫られた夜叉丸は、千代を誘拐し、30億円もの身代金をせしめんとしていたのだ。
ちなみに1970年代の貨幣価値は、日銀の発表した消費者物価指数で比較すると、昭和40年(ズバットは昭和52年の作品なので全く一緒ではないことは注記しておく)と令和3年とで4.2倍の違いがあるとされている。つまり、当時の30億円は、今なら126億円ほどとなるのだ。たかが一人の身代金としては破格である。
いくら資産家の妻とはいえ、それほど高額の身代金が本当に支払われるのかは微妙なところだが、夜桜組としては一度の失敗で諦めるわけにはいかない。だが、早川が目を光らせているため、迂闊に手出しはできない。
そんな中、千代の娘・冴子が攫われてしまう。
生き別れていた息子だと名乗り出てきたにも関わらず、千代に「知らない」と一蹴され、それでもなお、物陰から鶴間家のために見張を続けている早川に同情した冴子は、早川のためにおにぎりを届けようと屋敷の外へと飛び出す。
その瞬間を夜桜組は見逃さなかった。
クルマで拉致して夜桜組のアジトへ。
一方の早川は、どうやったかはわからないが、走ってそれを追い詰める。
だが、冴子が人質とされてしまってはどうにもならない。
潔く抵抗をやめ、ひたすらボコられる早川は、夜叉丸の命令に従い、自らダムへと身を投じる。
絶体絶命の冴子
早川の姿がダムの下へ消えてしまっても、冴子が解放されるわけもなかった。それどころか、最近手に入れたというライフルの試し撃ちのマトにされてしまう。
冴子の両耳と額を花で飾ると、それを一つ一つ撃ち抜くという悪趣味なことを始める夜叉丸。人質なのに、生かしておくという選択肢はゼロの様子だ。本気で身代金を奪い取る気があるのだろうか。
いよいよ冴子も最期・・・というタイミングで、いつものロケットエンジンの爆音が響き渡る。
ズバッカー登場。
そして、ズバット参上。
「罪もない者をさらって巨額の身代金を奪い取り、あまつさえその人質を殺そうとする夜叉丸、許さん!!」
いつもの前口上と共に、夜桜組、伊魔平たちをボコり、夜叉丸を追い詰める。
追い詰められた夜叉丸にズバットが問う。
「2月2日、飛鳥五郎という男を殺したのは貴様だな?」
「違う。その頃、俺は・・・香港にいた!」
いつもながらに記憶力の素晴らしい悪党たちである。『やわらかあたま塾』でも愛用しているのだろうか?
用無しであることを告白した夜叉丸は、そのままズバットアッタァックで轟沈する。
そうして冴子を無事に取り戻すことのできた千代が、ようやく早川のことを自分の子どもだと認めるのだが、時既に遅し。早川はいつも通り、人知れず旅に出る。千代の早川への謝罪がこだまするラストシーンは、なかなかに胸が痛い。
全体的にイロモノ感満載ではあるけれど、昔ながらの時代劇の文脈に則っているズバットには、じわりと胸に迫るエピソードも数多い。まだ観たことがないという方には、是非一度ご覧いただきたい特撮の名作である。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
\ 僕と握手! /