2022年2月27日放送『機界戦隊ゼンカイジャー』最終カイ「俺の世界、みんなのセカイ」(監督:中澤祥次郎 脚本:香村純子)
ついに最終カイ。
『ゼンカイジャー』がはじまった当初には想像できないほど、さまざまな感情を揺さぶられたこの1年の締めくくりは、これ以上ないほどに清々しいものだった。そして、現実に始まってしまった戦争を目にして感じることも・・・。ネタバレ込みで最後までおつきあいいただければ幸いだ。
キャスト
まずは、最終カイのキャストからご紹介。これまでは役名なしでクレジットされてきたスーツアクターさんたちが役名つきでクレジットされたので、ウィキペディアに記載のある方についてはリンクを貼っておく。是非、他の参加作品もチェックしていただきたい。
【キャスト】
五色田介人:駒木根葵汰
ジュラン/ゼンカイジュラン(声):浅沼晋太郎
ジュラン/ゼンカイジュラン:竹内康博
ガオーン/ゼンカイガオーン(声):梶 裕貴
ガオーン/ゼンカイガオーン:蔦宗正人
マジーヌ/ゼンカイマジーヌ(声):宮本侑芽
マジーヌ/ゼンカイマジーヌ:下園愛弓
ブルーン/ゼンカイブルーン(声):佐藤拓也
マジーヌ/ゼンカイマジーヌ:岡田和也
ゾックス・ゴールドツイカー/ツーカイザー:増子敦貴
セッちゃん(声):福圓美里
ステイシー:世古口 凌
フリント・ゴールドツイカー:森 日菜美
五色田 功:川岡大次郎
五色田美都子:甲斐まり恵
人カッタナー 人リッキー:須東煌世
警備員:若園尚哉
スーさん:喜多川2tom
コメンテーター:渡部遼介
子どもキカイノイド:黒岩竜之介 野地祐翔 小竹結梨 永島叶和 清水麗羽
ゼンカイザー:高田将司
ツーカイザー:伊藤茂騎
ステイシーザー:神前 元
五色田ヤツデ:榊原郁恵
これまでは写真のみの登場だったカッタナーとリッキーが、ついに人として登場。
そして何より、スーツアクターさんたちもきちんと役名としてクレジットされた。これは戦隊史上はじめての出来事ではないだろうか? 本作は、ゼンカイジャー5人のうち、4人が、いわゆる“被りもの”という異色作だったワケで、アクションだけでなくドラマパートでも出ずっぱりと、スーツアクターさんの力はいつも以上に大きかった。それをこうしたカタチで労うとは、なんとも粋である。
穏やかすぎる世界
朝が来て、家族4人で囲む食卓。それを見守るセッちゃん。
よくある家族団欒の風景だが・・・4人?
両親はいつも通り、大学の研究室へ。目的は並行世界を見つけることらしい。・・・ん?
介人はスカイツリーへと向かう。てっぺんからバンジージャンプをし、「世界初」の称号を手に入れるためだ。長いロープを背負っているところを怪しまれ、警備員たちにつまみ出されてしまうが、どこかで見た光景である。介人も警備員たちも、何やら思い出せそうで思い出せない。
しかし、我々視聴者は知っている。これは第1カイの冒頭に登場したシーンである。そして、先ほどから消えない違和感の正体はただひとつ。キカイノイドたちの姿がまるで見えないのだ。街のどこにもいない。もちろん、ジュランたちもいない。
時間が巻き戻ったのだろうか? まるで第1カイを再び見ているような気分になる。
しかし、決定的に違うのは、介人の両親がいることだ。これまで48カイ分の歩みが、なかったことにはなっていないのは確実だ。では、キカイノイドたちはどこに行ってしまったのだろう。「神」を名乗る存在が、ここしばらく、キカイノイドやゾックスたちなど、並行世界から来た者たちを、あるべき場所に戻そうとしていたことに思い至る。
前回のラストでは、再びトジルギア装置が作動し、世界がトジルギアへと封じ込められてしまった。これが、「神」の望んだ結末だったのだろうか? 「神」は姿を現さない。ただ、猛烈な違和感だけが残る。そして介人は、その違和感の正体に気づく。様変わりしてしまった世界に気づいてしまう。
「神」再び
違和感に気づいた介人の前に、再び「神」が姿を現す。今度はこれまでのように誰かの意思を乗っ取ったわけではない。介人の頭の中に、介人の姿を借りて現れる。白い介人だ。
介人と白い介人の会話が始まる。ここでようやく理解できたのは、この「神」だと名乗る者の正体が、本物の「神」だったということだ。調子に乗って、自分を「神」と名乗る自意識過剰な何者か、だと思っていたのだが、正真正銘の「神」だったのだ。
彼は世界を創り、壊すことができるらしい。思いつくままにさまざまな世界を創り上げてきたものの、ふと創り過ぎたことに気づき、さて、せっかく創ったそれらを壊そうかどうか迷っていた時、イジルデが研究中のトジルギアに注目。これなら、壊さずにコレクションできる、と考えたらしい。
さて、その話を聞いた介人は「神」を許すことができない。勝手に世界を創って、勝手にトジルギアに閉じ込めて。「この世界は残ったんだからいいじゃないか」と微笑む「神」に、「そういうことじゃない!」と怒りをあらわにする。
全ての世界が「神」の気まぐれで創られたものだったとしても、そこで息づく人々がいることを知り、仲間たちにも出会えた。そのことを胸に、介人は「世界を解放しろ!」と「神」に迫る。
何を言っても聞き分けのない介人に「神」は、「じゃあ、僕に勝ったら教えてあげる」とゼンカイザーの姿を借りる。ゼンカイザー同士の戦いの幕開けだ。
一歩も退かない介人を「さすが、トジテンドを倒した人間」と称賛する「神」だが、そのトジテンドを倒せたのは、仲間たちがいたからだという介人の叫びは、ジュランたちのイマジネーションを生み出す。
それでも終わらない戦いに終止符を打つべく、介人が「神」に挑んだのは、ジャンケンの1本勝負。さすがの「神」も拍子抜けした様子だが、世界の命運をジャンケンで決めようとする介人を「面白い」と評し、その勝負に乗る。思い返せば、介人はいつもそうだった。ゾックスと知り合った時も、殴り合いではなく、ゲーム(名前がわからない。ジャンケンで勝ったほうがピコピコハンマーで相手の頭を叩き、負けたほうはそれをヘルメットなどで防ぐヤツ)で勝敗を決めようとしたりもしていた。
それにしても、この介人と白い介人とのやり取りのシーンが素晴らしい。駒木根さんの演じ分けがとても上手くて唸らされる。これを見ると、次作『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』に継投というのも頷ける。単なる神(プロデューサー)の気まぐれというワケではなさそうだ。
蘇った日常。そして・・・
「神」との勝負に勝った介人は、スカイツリー上空にトジルギア装置が隠されていることを聞き、ゼンリョクゼンカイキャノンで破壊。その瞬間、全ての並行世界が解放され、あの賑やかで、カラフルな日々が戻ってきた。
平和の戻った世界では、並行世界同士の交流も活発となり、介人たちの世界は「全力トピア」と名付けられる。
そして、皆それぞれに、これから生きていく道を見つけはじめていた。キカイトピアの復興に力を注ぐステイシー、学校の手伝いをするブルーン、集団生活になじめない子どもたちに手を差し伸べるマジーヌ、弱者からお宝を奪うことをやめたゾックスたち・・・彼らを見て、目を細める介人だが、どこか寂しそうでもある。
そんな様子を見て、功と美都子、そしてヤツデは、介人を送り出す決心をする。本来、好奇心に満ち満ちた介人が、毎日同じ場所で同じことの繰り返しで満足できるワケがないことを、みんな知っているのだ。
そうして介人は、全ての並行世界を巡る旅に出る。旅のお供はセッちゃん・・・だけではない。ジュランとガオーン、さらに、それぞれ自分の道を見つけたかに見えたマジーヌとブルーンもである。
ジュランの「みんな、敵を倒すためだけに集まったんじゃない。介人が好きだから一緒にいるんだ」の一言が、なんだかやけに胸に刺さる。
思い返してみれば、これほどコメディタッチに振ったスーパー戦隊は、『非公認戦隊アキバレンジャー』を除いて他になかった(脚本家・香村さんは『アキバレンジャー』も手がけていた)。子どもたちの憧れである変身シーンで踊り狂う追加戦士。見せ場となるはずのアクションシーンで「ちょあー!」と叫ぶ主人公と、最初のうちは「この戦隊、大丈夫か?」と心配になった。
しかし、気づいたらその登場人物たちが愛おしくてたまらなくなっていた。中でも、五色田介人の存在は大きい。その明るさで周りを巻き込み、まっすぐに相手と向き合おうとする。その健気さに心を打たれる。1年間もそんな姿を見せられて、好きにならずにいられるワケがない。そして、その大好きな介人を支えるジュランたち4人のキカイノイドもまた大好きなのである。
私がこの1年、『ゼンカイジャー』を視聴してこられた理由は、「スーパー戦隊だから・・・」といった習慣や惰性ではなく、登場人物たちが好きだから、だったのだと、このセリフを聞いて痛感した。
こんな戦隊は他にない。一見すると、王道を外れたかに見えるが、「一人ひとりは小さいけれど 一つになれば ご覧 無敵だ」(『バトルフィーバーJ』主題歌より)という言葉通り、実はスーパー戦隊の王道をひた走っていた。わかりやすいカッコよさが少ないことで途中離脱する人もいたかもしれない。しかし、きちんと向き合えば、そこには溢れんばかりのヒーローイズムがあることに気づくはずだ。
従来のスーパー戦隊を期待すると、肩透かしを食らったような気分になるのはわかる。しかし、不恰好でも不完全でも、人種が違っても、お互いを信じて苦難の道を突き進むその姿は、今の世の中に光を与えてくれる気がしてならない。
「それぞれの世界に、それぞれ生きている人がいる」
介人の言葉だ。この最終カイを撮影している時に、戦争が本当に起こってしまうと考えて書かれた言葉ではなかったろう。しかし、今だからこそ、噛み締めたい言葉である。世界に平和を。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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