1966年11月13日放送『ウルトラマン』第18話「遊星から来た兄弟」(監督:野長瀬三摩地 特技監督:高野宏一 脚本:南川 竜・金城哲夫)
『ウルトラマン』が放映された1966年当時、視聴者にかなりのインパクトを与えたであろうエピソードが、今回ご紹介する第18話である。
正義の味方の偽者が登場するというアイデア自体が、当時は斬新だったのではないのか? 探偵小説などで変装する、といった描写はあったかもしれないが、そもそも素顔がわからない(ウルトラマンはアレが素顔なので、どこの誰だかよくわからないと言った方が正しいかもしれない)からこそ、成立する図式を提案したという意味では間違いなく後年の特撮ヒーロー作品に与えた影響は小さくないはずだ。これがなかったとしたら、『仮面ライダー』に偽ライダーが登場することもなかったかもしれない。
そんな印象的なエピソードをネタバレ込みでレビューする。とはいえ、未視聴の方がこれから視聴する楽しみを奪うほどではないはずだ。最後までおつきあいいただければ幸いである。
キャスト
ここでは第18話のキャストをご紹介する。
なお、以下の画像は全て『ウルトラマン』より引用している。
ムラマツ隊長
小林昭二
ハヤタ隊員
黒部 進
アラシ隊員
石井伊吉
イデ隊員※画像左
二瓶正也
フジ・アキコ隊員
桜井浩子
ホシノ少年※画像右
津沢彰秀
森田博士:土屋嘉男
防衛庁長官:高田稔
村木博士:森山周一郎
防衛会議メンバー:金城哲夫
警察長官:土屋詩朗
政府役人:山田圭介
ザラブ星人
突如、街を覆った放射能の霧。
その中を悠然と歩く姿を捉えられたのがザラブ星人だ。まるでスパイダーマンのように垂直の壁を這い回る姿はちょっとコミカルだが、科特隊のスーパーコンピューターをハックしてコミュニケーションを取ったり、それと同レベルのコンピューターを程なく持ち運べるサイズにしてしまったりと知能の高さは折り紙つき。
第8銀河系の星・ザラブから来たという。ザラブとは「兄弟」という意味だとかで、やたら馴れ馴れしくフレンドリーさをアピールするが、それがより一層怪しさを増している。人類みな兄弟しかり、友達の友達はみな友達しかり。カンタンに兄弟だとか親友だとか言う人は信用が置けないのだ。
ちなみに「ザラブ」とは、兄弟を意味する英単語”Brother(ブラザー)”を逆から読んだアナグラムになっている。親しげに振る舞ってはいても、実際には他星の住人たちを兄弟どころか、ただの侵略対象としてしか見ていないというのだから、こちらもブラザーとは真逆の価値観であるという点も面白い。「凶悪宇宙人」という別名も、そのまんますぎて、かえってエグい。
街中に立ち込める放射能の霧を除去したり、軌道を外れた土星ロケットを地球まで誘導するなど、人間の味方であるようなふりをしながら、イデ隊員を操ったり、フジ隊員に化けてアラシ隊員に睡眠薬入りのコーヒーを飲ませて情報収集をしたりと裏の顔を垣間見せる。そして、ついにはウルトラマンであるハヤタを捕らえて幽閉してしまう。
このハヤタが捕らえられてしまうシーンは、2022年5月に公開された『シン・ウルトラマン』でもリブートされている。この元ネタを知っているのと知らないのとで、作品の面白さにはなんら影響はないが、知っていることで感じる深みは間違いなく変わるはずだ。
ホシノ少年の涙
囚われのハヤタを救ったのは、ホシノ少年である。
ハヤタを縛り上げた特殊な拘束ベルトは、暴れるほどに身体に食い込み、やがてその身を引きちぎるという厄介な代物。ホシノ少年は手持ちの工具でベルトを切断しようとするが、まるで歯が立たない。
焦るハヤタとホシノ少年。
どうにもできない状況で、ホシノ少年が流した涙がベルトにポタリと落ちた途端、ベルトが溶けてちぎれてしまう。涙は女性だけの武器ではないのである。
さらにホシノ少年は、ハヤタが科特隊本部に置き忘れてきたベーターカプセルまで届けてくれた。ハヤタが不用心すぎて引くが、偶然忘れてしまったおかげで、ザラブにベーターカプセルを奪われなくて済んだのだから、結果的にはめでたし、なのだろう。
にせウルトラマン
ハヤタを幽閉した上で、ウルトラマンの偽者に化けて街を破壊するザラブ。まさかウルトラマンがそんなことをするものかと手をこまねく科特隊。
その様子を指して、科特隊とウルトラマンは手を組んで、地球征服を狙っていると言い出すザラブ星人。印象操作がお上手だ。
にせウルトラマンは、アルカイック・スマイル(古代ギリシアのアルカイック美術の彫像に見られた、口元だけが微笑んでいる表情)をたたえたはずのウルトラマンが吊り目になり、口角もいやらしく吊り上がっている。さらに顎やつま先など、あちこち尖っているので、本物とは随分印象が異なるのだが、科特隊員たちは区別がつかないらしい。
二人のウルトラマンが対峙する姿は斬新だ。
途中、にせウルトラマンのマスクにチョップしたウルトラマンが悶絶するシーンは、スーツアクターの古谷敏さんがガチで痛がっているもので、「カット」の声がかからなかったため、痛みを堪えて演技を続けたというのは有名な話だ。確かに今見ても本当に痛そう。
いつもならカラータイマーが点滅し、窮地に追い込まれたウルトラマンが起死回生の一撃として放つスペシウム光線を、ガンマンの早撃ちのようにノーモーションで繰り出すところも印象的だ。
そうして正体を露わにしたザラブはウルトラマンに倒されてしまう。
この第18話は、ザラブ星人が地球を狙った理由というのがなんとも印象的だ。美しい地球を手に入れたいとか、滅んだ母星の代わりとして移住先に選んだ、といった理由で地球侵略を企む宇宙人が多い中で、文明や生命体を滅ぼすこと自体を目的とするというザラブ星人は、愉快犯みたいなものであり、他に類を見ない悪質さだ。
しかし現実の世界においても、解消できない鬱憤を晴らすために誰かをいじめたり、命を奪ったりという人たちは後を絶たない。これを現代の寓話だとは言わないけれど、こういった作品を見て、自ら感じ、襟を正すことは大切だ。
特撮ヒーロー番組を、子ども向けの番組だと鼻で笑う人もいるけれど、それを作っているのは大人である。そこには大なり小なり何かしらのメッセージが込められているものだし、例えメッセージなど考えていなかったとしても、ひとつの作品が完成するには、それに関わった製作陣の人生観なりは自然と反映されてしまうものだろう。
小難しい説教ではなく、エンタメ作品だからこそ、より多くの人に届く。そういった意味も含めて、これからも素晴らしい特撮作品の世界を伝えていきたい、と改めて感じた次第だ。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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