1967年2月26日放送『ウルトラマン』第33話「禁じられた言葉」(監督:鈴木俊継 脚本:金城哲夫)
『ウルトラQ』から数えて、既に50年以上もの歴史を持つウルトラシリーズにおける屈指の名エピソード。
当時、40.7%(『ウルトラマン』全39話の中で2位。1位は第37話の42.8%)という驚異的な視聴率を叩き出していることからも、その衝撃の高さが窺える。
物語は、航空ショーを見物しているハヤタとフジ、そしてフジの弟・サトルの目の前で、巨大なタンカーが空を舞い、飛行機が消失するところからスタートする。そのまま何処かへと姿を消してしまう3人。これらの異変の原因は、ショーの最中、サトルに語りかけてきた者が引き起こしていた・・・。
『ウルトラマン』第33話の見どころをレビューする。「禁じられた言葉」とは? 最後までおつきあいいただければ幸いだ。
キャスト
ここでは第33話のキャストをご紹介する。
本作初登場でウィキペディアに記載のある方については、リンクを貼っておくので他の参加作品など是非チェックしていただきたい。
なお、以下で使用している画像は全て『ウルトラマン』より引用している。
ムラマツ隊長
小林昭二
ハヤタ隊員
黒部 進
アラシ隊員
石井伊吉
イデ隊員
二瓶正也
フジ・アキコ隊員
桜井浩子
ヤマモト博士:伊藤久哉
フジ・サトル:川田勝明
警官隊隊長:中島春雄
警官:岩本弘司
ナレーター:浦野 光
メフィラス星人
今回登場するのは、「悪質宇宙人」と名付けられたメフィラス星人。
悪質宇宙人メフィラス星人
身長:2〜60m(普段は人間サイズだが巨大化もできる)
体重:40kg〜20,000t
出身地:メフィラス星
その態度は慇懃無礼(インギンブレイ:うわべは丁寧に見えて、実は尊大なさま)。言葉遣いは丁寧だが、見下している感はめちゃくちゃにある。『ジョジョの奇妙な冒険』第3部に登場したダービー(弟)みたいな感じである。
フジ隊員の弟・サトルに目をつけ、「あなたに地球をあげます」というひとことを言わせることで、地球を我がものにしようとした。
IQ10,000以上とも言われる高い知能を持ち、その凶悪な容姿とは裏腹に、「私は暴力が嫌いだ」と自称する。地球同様、メフィラス星でも紳士は暴力に訴えないらしい。要するに、自分は紳士だと言いたいのだ。
暴力は嫌いだと言いながらも、タンカーを空中に浮かべて爆破したり、巨大化したフジ隊員を使って街を破壊させたりと、内に秘めた凶暴性を隠しきれていない。
カンタンに言いくるめられるだろうと高を括っていたサトル少年の頑なさに腹を立てて異空間に飛ばしたり、変身しようとするハヤタを石像のように動けなくする際に見せた、狂ったような高笑いにも異常性がほとばしる。
ケムール人、バルタン星人、ザラブ星人(虚像?)らを街に出現させ、彼らを配下のように扱うことで、自らの力を誇示した際には、「虎の威を借る狐」と言うか、「ジャイアンの影に隠れるスネ夫」みたいに見えて、最初は、「コイツ、自分で戦ったら弱いんじゃね?」といった印象を受けたが、実はウルトラマンと互角以上の戦いを繰り広げるほど、自身の戦闘力も高い。この抜け目のなさは、まるでインテリヤクザのようだ。
先述したケムール人たちにいつでも攻撃させることができると嘲笑うメフィラスに、科特隊のムラマツ隊長が「ウソをつけ!みんな、我々科特隊が退治したぞ!」と、自らウソをついた(ウルトラマンが倒した手柄をしれっと自分たちの手柄にしようとした)際には、「君たちは狭い庭を全世界だと思っている小さなアリだ」とスケール感の違いを示す。その傲岸不遜な態度も含めて悪党として超一流なのである。
フジ姉弟の悲劇
災難だったのは、フジ隊員と、弟のサトルである。
地球の平和を守る科特隊員の弟ということで選ばれたのかもしれないが、ただのポップコーン好き(?)な小学生が、唐突に地球代表として選ばれ、「地球をあげます」という一言を強要されるのだ。
常識的に考えれば、たかが一人の少年の言葉に、それほどの重みがあるとは思えない。
しかし、サトルはどうだったろう?
子どもながらに、地球を我がものにしたいと考える宇宙人の交渉相手に選ばれた、と自覚していた様子。
だからこそ、脅しにも、どんなに甘い言葉にも屈せず、断固拒否し続けたのだろう。
永遠の命をあげようとまで言ったメフィラスに、「僕だけがどんなに長生きしたって、どんなに豊かな暮らしができたって、ちっとも嬉しくなんかない」と答えるところは、大人顔負け。
メフィラスも、こんな子ども一人をどうにもできなかったのは悔しかったに違いない。
そして、姉であるフジ隊員は、意識を奪われ、巨大化させられてしまう。その身長は40m。
うつろな目をしたフジ隊員が、市街地を歩き回り、メフィラスの命令でビルを叩き壊す。
恐れ慄く警官隊がフジ隊員に発砲するのを必死に止める科特隊員たち。
私はリアルタイム世代ではないので、このエピソードを初めて見たのは、ずっと後(再放送で)。ただし、当時小学生だった私はウルトラシリーズの大ファンだったので、「怪獣大百科」的なものを読んで、巨大フジ隊員の存在は知っていた。それでもやっぱり不気味だったし、無表情で動いているシーンは、写真で見るよりずっと怖かった。
怪獣でもなく、宇宙人でもない普通の人間が、ただ非常識に大きいというだけで怖い。美しい女性でさえ怖いのだから、見た目が醜ければ、なおさらだ。『進撃の巨人』が怖いのは、当たり前というわけである。
また会う日まで?
メフィラス星人の円盤が発する怪電波をキャッチした科特隊は、姿を消したハヤタ隊員とフジ隊員とサトルの3人を救出するべく、怪電波の発信元へと急行する。
そこには、異空間に閉じ込められたフジ姉弟と、ベーターカプセルをかざしたまま動きを止められたハヤタがいたが、円盤が崩壊を始めたため、科特隊の面々は、動けないハヤタを置き去りに避難してしまう。それは仕方ないことだとしても、ベーターカプセルをかざす姿に違和感を感じなかったのだろうか?
崩れゆく円盤の振動によって倒れるハヤタ。その時の衝撃でベーターカプセルのスイッチが押され、ウルトラマンへと姿を変える。
ウルトラマンとメフィラス星人との睨み合いが続く。
お互いの光線技も、飛行能力もほとんど互角。
軽はずみには手を出せそうにない重い雰囲気は、居合斬りのタイミングを探り合う二人の侍とか、早撃ちのタイミングを狙う二人のガンマンといったところ。
動きもなく、言葉もない。
虫の声の高周波部分だけを切り取ったような不快なBGMが流れるシーンは、見ているこちらも思わず手に汗握るような緊張感が漂う。
その緊張感が最高潮に達した時、ウルトラマンが両手を交差する。必殺のスペシウム光線・・・と思った、その瞬間。
「よそう。ウルトラマン」
メフィラス星人が弛緩する。
人間の心に挑戦するためにやってきたと語るメフィラスは、たった一人の子ども(サトル)さえ思うように操ることのできなかったことを鑑みて、自らの負けを認める。なんとも潔い。と思いきや、「私は諦めたわけではない。いつか私に地球を売り渡す人間が必ずいるはずだ。必ず来るぞ!」と言い残して去ってゆく。円盤が爆破されたのに、どうやって帰還するのかと思ったら、まさかのテレポーテーション。まるで孫悟空の瞬間移動だ。円盤要らず。それができるのなら、そもそも何故、円盤でやってきたのか? と疑問は深まる。
それはともかく、メフィラスにたった一人で歯向かったサトル少年の強い気持ちには胸を打たれる。メフィラスの元ネタは、悪魔・メフィストフェレスというだけあって、甘言を操る悪魔そのものであったにも関わらず、だ。
メフィストフェレスとは?
一般にファウスト博士が呼び出した悪魔として知られ、ファウストを題材とした作品での風貌や性質がよく知られている。中でもゲーテの『ファウスト』が有名。
(中略)
ゲーテの『ファウスト』に登場するメフィストフェレスは誘惑の悪魔とされ、神との賭けでファウストの魂を悪徳へ導こうとする。
引用元:ウィキペディア
もしも、メフィラスが交渉相手に選んだ相手がサトルでなかったなら、どうなっていただろう?
しかも万が一、これが子どもではなく、大人だったら・・・? などと考えると恐ろしい。
そして、そんな「もしも」が描かれているのが『シン・ウルトラマン』ではないのか? とも思える。
まるで寓話のような物語は、こうして幕を閉じる。
もしも今、メフィラス星人が目の前に現れて、同じように囁かれたとしたら、あの日のサトル少年のように、毅然と断ることのできる地球人に私は成長できているだろうか?
なお、今『ウルトラマン』を視聴するなら「TSUBURAYA IMAGINATION」一択だ。
理由はカンタン。1ヶ月500円ほどで、ウルトラシリーズが見放題だからである。他の動画配信サービスでは、会員であっても無料視聴期間が限られていたり、1話ごとにバラ売りされているが、本家本元の円谷プロが提供するサービスなだけあって、そこはかなりお得となっている。
私も既に加入して1年が経つが、ウルトラシリーズを視聴するにはこれしかない、と思っている。
ただし、気になる点もあるので別記事にまとめた。ご参考になれば幸いである。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
↑『ウルトラマン』全39話に登場した怪獣たちを、これまでにないほどの大ボリュームでまとめた本。写真も多く、非常にオススメ。
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