1966年4月3日放送『ウルトラQ』第14話「東京氷河期」(監督:野長瀬三摩地 特技監督:川上景司 脚本:山田正弘)
異常気象によって、まるで氷河期のような様相を呈した東京に現れた巨大怪獣。
その影でひっそりと繰り広げられる、とある親子の物語をレビューする。
最後までおつきあいいただければ幸いだ。
キャスト
ここでは第14話のキャストをご紹介する。
なお、以下で使用する画像は全て『ウルトラQ』より引用している。
万城目 淳
佐原健二
戸川一平
西條康彦
江戸川由利子
桜井浩子
関デスク
田島義文
沢村照男:有馬昌彦
沢村治夫:佐藤英明
毎日新報・秀山記者:野本礼三
凍てつく東京
晴れた空。
羽田空港に着陸準備をする旅客機。
それを見守る管制官たちも笑顔だ。
ところが、事件は唐突に起こる。
旅客機の主翼にあるフラップ(高揚力装置)が開かない。
大勢の乗客を乗せた旅客機は、そのまま空中爆発を起こしてしまう。
ただのマシントラブルだろうか?
いや、そうではない。
空を覆う黒い雲。
急激に下がり続ける気温。
そこかしこから垂れ下がるつらら。つらら。つらら・・・
真夏の東京は、いつの間にか氷漬けになってしまう。
フルカラーではなく、白黒だからこそ伝わるリアリティがそこにある。
円谷プロが、(カラーで放送できるのにも関わらず)あえて白黒にこだわった、というのが理解できる。別に、このエピソードのためだけに白黒にしたわけでないことは理解できるけれども。
そして、登場したのは、第5話にも登場したペギラである。
冷凍怪獣ペギラ
身長:40m
体重:20,000t
出身地:南極
武器:冷凍光線(最大マイナス130℃)
飛行速度:マッハ80以上(非常脱出時の最高速度)
ペギラという名前にしては、ペンギン感よりもアザラシとかセイウチ感が強いデザインである。
南極に生息していたはずのペギラが何故? と思ったら、南極にある原子力発電所(架空)が爆発し、温暖化してしまったため、北極に移住する途上で東京に立ち寄った、と言われていたが真偽のほどは不明だ。
『ゴジラ』もそうだが、この頃の特撮では、原子力や環境破壊といったテーマが、わりと頻繁に扱われている。
大人の視聴にも耐えられる作品というのは、虚構の中に、いかにこうした現実をうまくブレンドできるか? というところではないか。
例えば、特撮ではないけれど、『機動戦士ガンダム』が今も多くの人たちに愛されているのは、単なる巨大ロボットによる英雄譚ではなく、戦場という極限状態の中で繰り広げられる人間ドラマが生々しかったからに他ならない。
そういった意味でも、このペギラのエピソードは、人間のあさはかな経済活動が生態系に甚大な影響を与える可能性を示唆しており、単なる虚構とは言い切れない不思議な肌触りがある。
父を探す少年
江戸川由利子が出会った、とある少年。
この少年の名は沢村治夫。
聞けば、いつまでも帰らない父親を探そうと、単身東京までやってきたらしい。
父が出稼ぎで東京に向かったことは知っていたのだが、どんな仕事をしているのかはわからないのだとか。なんとも無鉄砲な話である。
唯一の手がかりは、治夫の父は昔、零戦のパイロットだったということだけ。
毎日新報社に、その父探しの記事を掲載してもらおうとするのだが、東京は真夏にも関わらず氷漬けとなる異常気象。
さらに都心にペギラが現れ、大混乱となる。
由利子は、以前、万城目からペギラの話を聞いており、その弱点がペギミンHという南極にしか生えない苔から採取される成分だったことを思い出す。
その話を聞いた関デスクは、国にペギミンHの使用を依頼するが、「許可が降りない」という理由で拒否されてしまう。このあたりのお役所事情は、今も昔も変わらないらしい。
そうは言っても、このままでは東京が壊滅してしまう。
諦めきれない由利子たちは、ペギミンHのありかを突き止める。
そこは日本アルプスにある極地植物研究所。
ペギラのせいで電話も繋がらない状況となったため、由利子たちは万城目の元へとクルマを走らせる。
飛行機で、ペギミンHの受け取りに行ってくれるよう頼もうというのだ。
しかし、関デスクと由利子と治夫を乗せたクルマは、ペギラによる猛烈なブリザードによって横転してしまう。
氷に阻まれ、クルマのドアがわずかばかりしか開かないという危機的状況の中、治夫が、その小柄な体格を活かして、車外へ脱出。みんなの期待を一身に受けて、万城目の元へと駆け出すのだった。
父と子の邂逅
万城目 淳と戸川一平は、飛行機の運転席で、酒を飲んで眠りこけている中年男を発見する。
この男こそが、治夫の探す父・沢村照男である。
まるで浮浪者だが、昔は零戦の名パイロットだったという。
しかし、本人はそのことを語りたがらない。
それもそのはず、照男は出稼ぎと称して東京に来ていたものの、実は宝石泥棒に手を染めていたのだ。
零戦のエースパイロットだった男が、普通の生活に戻った途端、季節労働者として苦労するというリアリティに、胸が切なくなる。
保護してくれた万城目と一平に銃を向け、飛行機を奪って逃げ出そうとするが、そこにフラフラになった治夫が現れ、「日本アルプスの極地植物研究所でペギミンHを受け取って、ペギラをやっつけて・・・」といったことを伝えると、そのまま気絶してしまう。
思わぬところで息子に再会した昭男は、困惑しながらも、日本アルプスへと飛ぶ。
ペギラが巻き起こした黒雲の中を飛べるのは、自分だけだと万城目を諭して。
別れ
極地研究所では、爆薬を混ぜたペギミンHが用意されていた。
ペギラを殺す気満々じゃないか。
それを受け取った昭男は、ペギラを求めて都心へ飛ぶ。
黒雲の中を飛んでいると、そこは異常な氷の世界。複葉機の翼を支える支柱が凍って破損してしまう。
やがて目前に迫るペギラ。
昭男は覚悟を決めて、そのままペギラに突撃する。
まるでバンザイアタック。
爆発する飛行機。
あたりにはペギミンHが飛散したのだろう。
雄叫びを上げて、ペギラは何処かへ姿を消してしまう。
こうして東京は救われた。
救ったのは昭男である。
しかし、代わりに昭男は命を落としてしまった。
破損した翼では、もう無事に着陸することはできないと諦めたのだろうか?
いや、それも理由のひとつかもしれないが、一番大きな理由は、治夫のためだろう。
たった一人で助けを求めてきた、まだ小さな息子の勇気になんとしても応えようとしたのかもしれないし、息子の顔を見てしまったことで、宝石泥棒という自らの罪を恥じたのかもしれない。
いずれにしても、昭男は自らの命をもって、息子と、東京を救ったのだ。
そうして治夫は、自宅へと帰っていく。
昭男の骨壷を抱えて・・・。
視聴後に残る、なんとも言えない余韻。
国家間の争いや原子力開発、といった人間の私利私欲に翻弄された人々の物語。
『ウルトラQ』が、時代を越えて愛される理由のひとつを目の当たりにした想いがした。
なお、『ウルトラQ』を視聴するなら「TSUBURAYA IMAGINATION」一択だ。他の動画サイトなら、1話ずつバラ売りされているが、ここでなら定額で見放題である。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
\ 僕と握手! /