2022年9月18日放送『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』ドン29話「とむらいとムラサメ」(監督:諸田 敏 脚本:井上敏樹)
桃井タロウの元へ届けられた謎のメッセージ。それは前々回、タロウが倒したソノイの葬儀への招待状だった。
ドンムラサメによって脳人世界の元老院へと運び込まれたソノイの弔い。ソノイと共に戦うソノニとソノザさえ呼ばれない中、タロウが唯一の賓客として招かれた理由はいったい何か。
ソノイの亡骸を運んだ褒美として「自由」を求めたドンムラサメの抱えるものとはいったい何か。
ドン29話をレビューする。ネタバレも含むが、これを読んだから物語が楽しめなくなるほどではないので、未視聴の方も安心して読み進めていただきたい。最後までおつきあいいただければ幸いだ。
キャスト
ここではドン29話のキャストをご紹介する。
本作初登場でウィキペディアに記載のある方についてはリンクを貼っておくので、他の参加作品などもご参照いただきたい。
なお、本記事で使用している画像は全て『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』より引用している。
桃井タロウ/ドンモモタロウ
樋口幸平
猿原真一/サルブラザー
別府由来
鬼頭はるか/オニシスター
志田こはく
犬塚 翼/イヌブラザー
柊太朗
雉野つよし/キジブラザー※画面右
鈴木浩文
桃谷ジロウ/ドンドラゴクウ
石川雷蔵
ソノイ
富永勇也
ソノニ
宮崎あみさ
ソノザ
タカハシシンノスケ
ドンムラサメ(声)
村瀬 歩
長老1(声)※画面右
飛田展男
長老2(声)
辻 親八
雉野みほ
新田桃子
狭山健児
杉本凌士
バスガイド
三輪晴香
同僚
植田敬仁・竹内 啓・遊佐亮介
社長・永井
若杉宏二
黒天女
河北琴音・渡辺 望・井田彩花・加藤萌朝
幼いジロウ
後藤りゅうと
幼いルミ
林田美優嘉
幼いジロウの友人
豊田温大・鈴木かつき・宇都宮太良
マザー(声):能登麻美子
せっかちの鬼
とある会社の社長・永井から生まれた爆竜鬼。
2003年2月〜2004年2月に放送されたスーパー戦隊シリーズ第27作『爆竜戦隊アバレンジャー』をモチーフとしたヒトツ鬼である。
爆竜鬼
身長:194cm
体重:228kg
アバター:アバレミックス
自社の社員に対し、何かにつけて「もっと早く行動しろ」と、恫喝も暴力も厭わず強要し続けるパワハラ社長の欲望が爆発。人を超えたせっかちの鬼となり、人々を吸収しはじめる。
見た目はティラノサウルスを意識しており、これまでに登場したどのヒトツ鬼よりも純粋にモンスターっぽい。おそらくヒーローショーに登場したら、間近で見た子どもたちは泣き出すレベルである。
それで言うと、私が子どもの頃に地元商店街でたまたま見かけた『電撃戦隊チェンジマン』ショーは凄まじかった。冒頭のお姉さんの「こーんにーちはー!」のかけ声を合図に飛び出してきた戦闘員たちによって、ちびっこたちは阿鼻叫喚の地獄に叩き落とされた。『チェンジマン』の戦闘員ヒドラー兵の顔の怖さは歴代トップクラスだ。爆竜鬼には、それと似たものを感じる。
そんな爆竜鬼は、やがて爆竜鬼ングへと姿を変える。巨大化した途端、デザインのイメージがちょっと変わるタイプもあるが、爆竜鬼はそのまま変わらぬタイプである。
爆竜鬼ング
身長:52.5m
体重:2152.5t
スキン:ティラノサウルス
物語はあくまでもソノイとタロウの絡みがメインなので、ほぼ活躍する場面はなく、前回から登場しているトラドラオニタイジンの強さを引き立てるためのかませ犬としての役割を全うして消えていくのだった。
ソノイの葬儀
タロウが購入したカツサンドにホログラム付きメッセージカードを差し込んでおくという、なんとも手の込んだ方法でソノイの葬儀への招待状が届けられる。
これは罠だ、と警戒する仲間たちだったが、ソノイを倒したのは自分だからと、タロウは単身、葬儀に参列することを決める。その刹那、タロウの身体は見知らぬ場所へと転移してしまう。
そこには、これまでタロウの神輿を担いでいた男たちや、それに帯同していた天女たちが黒い衣装に身を包んで待っていた。役者さんは一緒だが、物語の設定として同一人物なのかは不明だ。
風呂に浸かり、マッサージを受け、用意された食事を摂る。食事は、どう見ても綿菓子だが、味はしないらしい。
しかし不思議なのは、ここまでもてなしをしておいて、何故か礼服のようなものは用意されない。タロウは普段着のまま、棺に納められたソノイと対面する。
そうしてソノイの亡骸を前にしたタロウの頭を掠めたのは、たった一つの後悔。
ソノイとおでんを食べたかった。
「もしも・・・」という空想の中、屋台で肩を並べておでんをつつく二人。まるで子どものように質問ばかり繰り返すソノイと、「いいから食べてみろ」と、まるで父親のようなタロウ。二人ともとても幸せそうだ。現実にこんなシーンを目にすることは、もうできないのだろうか。
そんなタロウの前に、変身したソノイが現れる。ソノイの遺体は変わらず棺の中だというのに。
剣を交える中、このソノイが抜け殻であることに気づいたタロウは、容赦なく首を斬り落とし、胸を刺し貫く。
その途端、突き刺した剣を通じて、タロウの生体エネルギーがソノイの抜け殻に吸収されてしまう。変身解除したタロウは、そのまま人間界へと転移されてしまう。
戻ったところは、ちょうど戦いの最中。ヒトツ鬼と戦う仲間たちを援護しようとアバターチェンジを試みるも、ドンブラスターからは煙が立ち昇るだけで変身ができない。力を失ってしまったタロウは、どうやってこの難局を乗り越えるのだろうか。
未完のムラサメ
元老院から強引に自由を掴み取ったドンムラサメだが、さほど嬉しそうな様子はない。
声だけの“マザー”の指示に従い、アノーニを襲う獣人に戦いを挑む姿は、これまで通りでしかない。
そこに現れたのは、桃谷ジロウ。以前もそうだったが、ドントラボルトはムラサメから哀しみを感じるらしい。ドンドラゴクウよりも敏感のようである。しかも今回は哀しみどころか、死にたがっているような感じを受けるという。
自らの心を読まれたことに驚いたのだろう。「(ジロウに)興味を持つな」と諭すマザーを無視して、ムラサメはジロウと対話を始める。そこでは、ジロウの過去に関する情報が明らかになる。
どうやら、桃谷ジロウの本体はドントラボルトとして現れる、いわゆる“危ないジロウ”であるようだ。この世に生まれ落ちた時から、目の前に立つもの全てを圧倒する戦士を目指していたジロウ。
ところが幼いジロウの前に立ったのは、戦うべき敵ではなく、同じ村に暮らす同年代の子どもたちだった。
彼らと一緒の時間を過ごす中でジロウに変化が訪れる。もう一人のジロウが生まれたのだ。
それは、これまでのジロウが目指してきた生き方では決して手に入らない人生を実現する新たなジロウ。
前だけを向き、目の前の相手を倒し続ける人生では、振り返った先に残るのは倒した屍の山だけ。そこにあるのは自分と、勝ち残ろうという強烈なエゴだけだ。
しかし新たなジロウの歩む生き方はそうではない。これから出会う者とも、これまでに出会ってきた者とも笑い合う人生。
「勝ち組」「負け組」といった言葉が登場して久しいが、子どもの頃から厳しい競争に晒され続ける人生の果てに何が残るのだろう? そんな示唆に富んだ設定だ、というのは考えすぎだろうか。
人も動物も弱肉強食の理の中で生きているのは事実だ。だからこそ、わざとらしく生ぬるい状況を作り上げる“ゆとり教育”みたいなものには1ミリの賛同もできないが、甘えたり、ふざけたり、ただひたすら時間を浪費してみたりする経験もまた必要であるはずだ。
自由と生きる理由を求めて思い悩むムラサメと、自らの意志こそが正しいと信じているかのようなマザーの関係は、間違いなく歪んだ親子の関係そのものだろう。
どちらが良いなどと簡単に結論づけることはできない。両極端な二人のジロウも、どちらが正で、どちらが誤、と決めてかかっているわけではなく、あくまでも二人で生き方を模索しているという。その言葉によって、ムラサメの心は少しラクになったようにも見えるし、そんなムラサメを見て、「これからはあなたの言葉にも耳を傾けましょう」と伝えたマザーにも変化が現れたようである。
そんなムラサメの力として今回明らかになったことが二つある。
一つは、脳人たちが「不可殺(殺すことができない)」と言っていた獣人を殺す力を持っていることだ。ここまで登場し続けてきたバスガイドを倒し、これまで誰も傷一つつけることのできなかった狭山刑事の頬を切り裂いた。
そしてもう一つは、剣へと姿を変えたムラサメを手にした者は、凶暴化してしまうというものだ。それも、力を持たない普通の人は・・・なんて注釈無しに、犬塚も猿原も、ソノニまでもが我を忘れてしまっていた。
ただ一人、タロウだけはムラサメの力を我が物とし、元老院の策略で失った力を取り戻すことに成功していたが、これはタロウの力が別格だからなのか、それとも、同じ「ドン」の名を冠するが故なのか。そのあたりは不明である。
ソノイの目覚め
ソノイが納められた棺の脇にソノイの抜け殻がそっと横たえられる。頭部を抜き取ると、それが甕(かめ)のようになっていて、そこから淡い桃色の液体が流れ出し、棺の中をなみなみとを満たす。先ほど吸収したタロウの生体エネルギーだろう。
その途端、カッと見開くソノイの両眼。
ドンムラサメの力によって蘇ったタロウのように、タロウの力によって蘇ったソノイ。
振り返ってみると、先ほどのタロウへの一連のもてなし(風呂→マッサージ→味のない食事)は、汚れを落とし、肉を柔らかくし、臭みを取っていたということのように思える。ソノイが更なる力を持って復活するためには、そのソノイを凌駕したタロウが必要だったということなのだろう。それ自体は理解できるが、戦いを終えた戦士に、安らかに眠る自由さえ与えない元老院の身勝手さがくっきりと浮かび上がる。
新たな命を得て目覚めたソノイは、今度こそタロウと共におでんをつつくことができるのだろうか。今後の二人からは、これまで以上に目が離せない。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
\ 僕と握手! /