2022年10月23日放送『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』ドン34話「なつみミーツミー」(監督:加藤弘之 脚本:井上敏樹)をレビュー
震えた。
スーパー戦隊の異端児、『ドンブラザーズ』の真骨頂。
通常なら怪人側に求める物語の駆動役を主要メンバーに託してきた結果、仲間同士でわちゃわちゃしているだけで話が進まない等、これまでのスーパー戦隊シリーズファンをも二分するほどの賛否両論となっている本作だったが、だからこそ生まれた展開がここにはある。
うんざりするほどの悪ふざけの中に、微かに見える人間の本質。
表裏一体の光と影。
これだから、『ドンブラザーズ』はやめられない。
ネタバレも含むが、最後までおつきあいいただければ幸いだ。
キャスト
ここではドン34話のキャストをご紹介する。
本作初登場でウィキペディアに記載のある方についてはリンクを貼っておくので、他の参加作品なども是非チェックしていただきたい。
なお、以下で使用している画像は全て『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』より引用している。
桃井タロウ/ドンモモタロウ
樋口幸平
猿原真一/サルブラザー
別府由来
鬼頭はるか/オニシスター
志田こはく
犬塚 翼/イヌブラザー
柊太朗
雉野つよし/キジブラザー
鈴木浩文
桃谷ジロウ/ドンドラゴクウ
石川雷蔵
五色田介人
駒木根葵汰
ソノイ
富永勇也
ソノニ
宮崎あみさ
ソノザ※画面右
タカハシシンノスケ
雉野みほ/夏美
新田桃子
鬼頭ゆり子
三輪ひとみ
おでん屋のおやじ
大高洋夫
刑事
藤田洋平
警察
高田将司
言葉で蘇った記憶
「などと申しており」
犬塚と、恋人・夏美の回想シーンでおなじみのセリフ。仲睦まじい二人が、お互いの愛の言葉に対して発する照れ隠しの言葉。「などと申しており」の後にハートマークをつけると、そのニュアンスが伝わる。
二人が幸せだった頃を象徴するこの言葉が、記憶の扉をこじ開ける鍵となった。
1年前、謎の怪物(獣人)によって何処かへ連れ去られた夏美。
「1年間、誰にも言わなければ再び彼女に逢える」という怪物の言葉を信じ、逃亡者として生きてきた犬塚の前に現れたのは、夏美に瓜二つな女性・みほだった。彼女は犬塚のことを知らないばかりか、偶然知り合った雉野つよしの妻だという。
混乱するばかりの犬塚。
みほが美容師であることを知った犬塚は、前回、美容室でみほに髪を切ってもらったのだが、その時に思い出したのは、昔、美容師志望だったと言って、自分の髪を切ってくれていた夏美のことだった。切られている感覚だろうか、何か癖のようなものだろうか。やはり、みほは夏美だ。そう実感しながらも、確かな証拠はない。なんと言っても、彼女は犬塚のことを本気で知らない様子である。
そこで犬塚は、雉野に奥さんの手料理を食べさせて欲しいと持ちかける。ドン8話「ろんげのとりこ」で、妻のことを惚気たい雉野が犬塚に提案した、あの食事会を改めてやって欲しいというのだ。
ついに実現した雉野家での食事会。食卓に並んだみほの得意料理を見て、犬塚の疑念は確信に変わる。ボンゴレ・ビアンカと豚肉のリンゴソース。それは犬塚が夏美に教えた料理だったのだ。
ゲストの犬塚をそっちのけで、みほと二人で盛り上がる雉野。遠慮がちに言っても最悪の部類だが、そんな雉野が「犬塚さんにも愛する人がいるんですよね」と、夏美の話題を振る。「素敵な人なんでしょうね」と無邪気に微笑むみほに「みほちゃんの次くらいに素敵な人だよ」と、不躾に惚気る雉野。
そんな雉野に「などと申しており」と呟く犬塚。視線はみほに釘付けだ。口癖になっていたのか、それとも、夏美なら気づくはずだと考えたのかはわからない。
途端に、両手でテーブルから少し浮かせて持っていたマグカップが滑り落ちる。目を見開くみほ。
そして雉野家を後にする犬塚を追いかけ、「翼!」と呼びかけて抱きつくみほ。いや、もはや彼女は雉野みほではなく、倉持夏美なのだろう。
何度も繰り返し使ってきた言葉によって、記憶を呼び覚まされたのだ。
みほを追ってきた雉野の姿を見つけ、「行こう!」と手に手を取って走り去る二人。
その様子を、ただ黙って見つめ続ける雉野。
その表情からは感情が読み取れない。
涙も言葉もない。
ただ、少し揺れている。
揺れているのは、カメラか、雉野本人か。
左右に。
ゆらり。
ゆらり、と。
その不安定さが、雉野の心をこれ以上ないほどに表している。
一方、犬塚は、以前助けた田辺という男の部屋に転がり込む(田辺は彼女と旅行中らしく、犬塚にその部屋を使っていいと言ってくれたらしい)。
1年前に姿を消した夏美。
あれから何があった? と問いかける犬塚だが、夏美は何も覚えていない様子。それどころか、まるで1年前に戻ったかのような会話を自然と始める。その様子を見て、ただ再会を喜ぶ犬塚。
しかし、我々は知っている。
夏美は獣人だ。これが演技なのか、それとも素なのかはわからない。ただ一つ確かなのは、このままでは終わらない、ということだけだ。
そして、夜が明ける。空は気持ちよく晴れ渡っている。
カーテンを開く雉野が映し出される。
日の光に目を細める雉野の様子は、いつもと何も変わらない。
昨夜のことなどなかったかのように。
心が壊れてしまったのだろうか。
それとも、心を壊しかねない絶望を忘れるために、昨夜の記憶を脳が消してしまったのだろうか。
ただ一つ確かなのは、このままでは終わらない、ということだけだ。
涙で蘇った記憶
タキシードにドレスに紋付き袴。
バラバラの正装に身を包んだ脳人の3人がリムジンで向かったのは“特別な店”。この世で一番美味いものらしい、とソノイが言うその店は、屋台のおでん。
完全に桃井タロウの影響である。一度は死んだソノイが蘇ったのは、吸収されたタロウのエネルギーを注がれたためだ。その時にタロウの性質までも注がれてしまったのだろう。余談だが、事故で大怪我をし、大量の輸血で命を取りとめた人が、その後、性格がガラッと変わって周囲を驚かせた、という話を聞いたことがある。今回のケースはそれに近い匂いがする。
しかも、その屋台には先客がいた。タロウと猿原、はるかの3人である。
一瞬、険悪な空気が流れるが、おでんを頬張ることで、その緊張はすぐに解れてしまう。ソノイだけでなく、ソノニもソノザも満足した様子。美味いものは、世界を繋ぐのだ。
その直後、「使え」と、タロウから辛子を渡されたソノイに異変が起こる。辛子を知らなかったのだろう。それなりの量の辛子をそのまま口に含んだソノイの目から一筋の涙がキラリ。途端に、それまで赤かった瞳は青くなり、言葉遣いも、俺様系の強い口調から、落ち着いた口調へと変化する。いつの間にか髪のメッシュ(赤)も無くなっている。
元に戻ったのだ。
ソノイの完全復活に抱き合って喜ぶソノニとソノザ。嬉しかったのは、ソノイが元に戻ったことに対してか、それともお供生活が終わったことに対してか。
初登場!ゴールドンオニタイジン
おでんを「初めて食べたのに故郷を思い出す味」と詩的に表現するソノイに負けじとタロウが繰り出した言葉は、「このおでんは32点だ」という、いつも通りのしょうもないものだった。
その言葉に打ち震えるおでん屋のおやじは、ヒトツ鬼へと姿を変えた。
2004年2月〜2005年2月まで放送されたスーパー戦隊シリーズ第28作『特捜戦隊デカレンジャー』をモチーフとした特捜鬼。デザインは、両肩にパトランプを取り付けた犬。デカマスターを意識したものだろう。
特捜鬼
身長:188cm
体重:221kg
スキン:地獄の看板犬
自分の料理に文句を言わせたくない、という欲望を叶えようとする。
一度倒された特捜鬼は、脳人レイヤーで巨大化し特捜鬼ングへとなる。
特捜鬼ング
身長:52.3m
体重:2150.7t
スキン:デカい警察犬
二足歩行できるくせに、わざわざ四足歩行して敵の足元に強烈な犬技を叩き込む。散歩の途中、電柱の根元にかますアレである。
対するドンブラザーズは、オミコシフェニックスを加えたゴールドンオニタイジンへとオミコシ大合体を遂げる。
ゴールドンオニタイジン
全高:56.0m
全幅:57.5m
胸厚:31.5m
重量:3,700t
スピード:350km/h
出力:3,000万馬力
左手のゴールドンシールドで敵の攻撃を撥ね返し、右手のゴールドンランスで攻撃する。ランスを軸に両足で繰り出す最強オニキックも、必殺技の不桃不屈・ドンブラユートピアも強力だ。ドンオニタイジンとは比べようもないほどのパワーアップを果たしており、このままではトラドラオニタイジンの出番がなくなるんじゃないか、と余計な心配をしてしまうほど。
胸の両側に開いたオミコシフェニックスの羽根パーツによって、右肩のキジ、左肩のサルの視界を遮っているというのはご愛嬌である。
それにしても、いつもオマケのようにしか用意されないロボ戦なのに、ドンオニタイジンのカッコ良さは異常だ。ムダの極みとも言える。もちろん、褒め言葉だ。
雉野と犬塚
ドンブラザーズとして大勝利を迎えた後、オープンテラスで向き合う雉野と犬塚。
のっけからバチバチの修羅場を予想していたのに、驚くほど穏やかな雉野が、かえって恐ろしい。
嵐の前の静けさ。
「そろそろ、みほちゃんを返してください」
にこやかに、そう切り出す雉野に、「あれは俺の彼女の倉持夏美だ。みほは元々存在しない」と雉野に冷たい事実を突きつける犬塚だが、その表情は暗い。あれほど愛妻家であった雉野のことを思えば、その理不尽な現実が容易に雉野の心を壊してしまうだろうことは想像に難くない。だから犬塚が雉野に対して「同情する」といった言葉は、きっと嘘ではない。
しかし、雉野は納得しない。当然だ。結婚してもうすぐ1年にもなる。これまでの幸せな二人の時間は幻だったとでも言うのだろうか。何の前触れもなく、唐突に消された未来。そんなものを、いきなり信じろと言われて、素直に頷ける者などいないだろう。それが雉野であろうとなかろうと。
それでも必死に言葉を紡ごうとする犬塚。彼は雉野の大切な人を奪ったわけではない。本人もわからない状態で他人の妻になっていた自分の恋人を取り戻しただけなのである。既に結ばれた婚姻関係はどうなってしまうのだろう? といった疑問は残るが、犬塚だって困惑しているに違いない。しかし、「雉野、お前は悪くない」と声をかけるところを見れば、犬塚が雉野に対して精一杯の誠意を見せようとしていることは明らかだ。
だが、状況は一変する。
「犬塚 翼だな?」
突如、警察に取り囲まれる犬塚は、逃げ出す間もなく手錠をかけられてしまう。
無実を訴える犬塚に「有罪ですよ」と唇の端を吊り上げる雉野。
「お前、俺を売ったな!」
絶望の表情を浮かべ連行される犬塚を見ながら、満面の笑みを見せる雉野。サイコパスな匂いがぷんぷんする。
犬塚が逮捕されたことで、一人残された夏美。次回、夏美に雉野の魔の手が迫る??
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
\ 僕と握手! /