劇場短編『仮面ライダーセイバー 不死鳥の剣士と破滅の本』を観てきた。
例年ならば、夏映画があって、そこで『ゼロワン』から『セイバー』へのバトンタッチが行われるはずだったが、今年はコロナ禍により、大幅なスケジュール変更を余儀なくされ、『セイバー』の劇場版デビューがこの作品となった。しかも、冬映画ではおなじみの共闘もなし、という異例中の異例。
単に、劇場版『仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』と同時上映というだけの作品になっただけでなく、”短編”と銘打たれている通り、上映時間22分という極めて短い作品。TV版の1話分程度の長さしかない。この尺で、果たしてどのような映画になっているのか? かなり辛口なレビューになるが、最後までおつきあいいただければ幸いだ。
スタッフ・キャスト
ここでは本作の主要スタッフとキャストをご紹介。
ウィキペディアに記載のある方はリンクを貼っておくので、他の参加作品も是非チェックしていただきたい。
【スタッフ】
監督:柴﨑貴行
脚本:福田卓郎
アクション監督:渡辺 淳
特撮監督:佛田 洋
音楽:山下康介
【キャスト】
神山飛羽真/仮面ライダーセイバー:内藤秀一郎
新堂倫太郎/仮面ライダーブレイズ:山口貴也
須藤芽依:川津明日香
富加宮賢人/仮面ライダーエスパーダ:青木 瞭
尾上 亮/仮面ライダーバスター:生島勇輝
緋道 蓮/仮面ライダー剣斬:富樫慧士
大秦寺哲雄/仮面ライダースラッシュ:岡 宏明
田中逸樹:内山そうた
飯島美香:山口美月
森崎和夫:中村公隆
森崎の妻:緒方ありさ
公園で遊ぶ子供:宮岸泰成
タッセル:レ・ロマネスクTOBI
バハト/仮面ライダーファルシオン:谷口賢志
【主題歌】
「多重露光 feat.川上洋平」東京スカパラダイスオーケストラ
作詞:谷中 敦 作曲:NARGO 編曲:東京スカパラダイスオーケストラ
不死鳥の剣士がもたらす破滅
「全てを無に還す」
ワンダーワールドで破滅の本を開き、不敵に微笑む男。彼の名はバハト。
唐突すぎて、何が起こっているのかさっぱりだが、タッセルの説明によれば、バハトというのは封印されていた不死身の剣士らしい。その封印を何故か解かれてしまったバハトが、破滅の本の力によって、この世を消滅させようとしているとのこと。空にポッカリと開いたブラックホールのような穴(?)に、ワンダーワールドが徐々に飲み込まれていくのだが、このままではワンダーワールドだけでなく、現実世界も共に消滅してしまうらしい。実際、現実世界でも空に同様のものが現れ、人々はパニックに陥る。
その消滅現象を止め、世界を守るために立ち上がる剣士たち。同時上映の『ゼロワン』でも5人同時変身があるのだが、『セイバー』はそれを上回る6人連続変身を見せてくれる。ただし、大した前置きもなく変身するので、カッコいいといえばカッコいいが、YouTubeで変身シーンの詰め合わせを見ているような感覚に近い。
こういうのは、傷つき、倒されながらも、絶体絶命のピンチをみんなの力で逆転するところにカタストロフィーがあるわけで、世界のピンチだからみんなで変身だ! と、傷ひとつない状態で変身されても、全然ピンとこない。確かに、世界のピンチは大変だけれども。
そもそも、敵が不死身の剣士というだけで既にクリア不可能の無理ゲーなわけだが、そういった詳細は何も知らされないまま、バハトに挑みかかる剣士たち。いや、知らされていないからこそ、立ち向かえるのかもしれない。
このバハトを演じているのは、「仮面ライダーアマゾンズ」の鷹山仁/仮面ライダーアマゾンアルファを演じた谷口賢志さん。
「アマゾンズ」では、鬼気迫る演技で、悲しみを背負ったダークヒーローを見事なまでに演じ切ってくれたが、作品が変わっても、あの怪演は健在。見事に存在感たっぷりの悪役を演じてくれている。これは本作最大の救いと言って良い。ただし顔の右側に施されたひび割れのようなメイクを見ると、どこか「筋肉少女帯」の大槻ケンヂさんを思い出す。
なお、バハトが変身する仮面ライダーファルシオンも、トゲトゲ感を増したセイバーみたいだが、雰囲気は悪くない。
主人公以外、全部ザコという惨状
そうして映画開始から6分ほどで頂上決戦が始まるわけだが、剣士6人で立ち向かったはずなのに、飛羽真とバハトのタイマンバトルがはじまり、他の5人は、大量に湧き出るザコの始末に終始する。ただしこれは、スーパー戦隊と仮面ライダーの違いであり、正義の名においても、リンチではなく、正々堂々1体1の戦いを重んじる仮面ライダーの流儀ではあるかもしれない。
ド派手なエフェクトの大技でシミーという大量のザコを一掃する様子は、まるで「戦国無双」を見ているよう。
どれほど控えめに言っても、重そうで動きづらそうなライダーの衣装を身につけて、縦横無尽に動き回るスーツアクターさんたちのアクションは圧巻だが、それだけだ。バハトと飛羽真の死闘の隙間にちょこちょことザコと戦っている姿が映し出されるのは、なんだかカリスマボーカリストを擁するロックバンドのライブ映像みたいである。
要するに飛羽真以外は全てザコ扱いなのだ。後述する新フォームも、セイバー以外には用意されないことからも、それは窺える。
人とは? 世界とは? 力とは?
「争いは無くならない」
そう語るバハトに対し、「争いは、俺たちが止める!」と斬りかかる飛羽真。
「ならばお前は今、私と何をしている?」と、もっともなツッコミを入れるバハト。あからさまに動揺する飛羽真は、それ以上、まともな返答ができないでいる。
「人がいるから、世界があるから、力があるから争いが起こる。それが人の歴史だ」というのがバハトの見解。つまり、これ以上人類が先に進む(争いのない世界を創る)ことはできない。だから無に還すという理屈らしいが、何様だよ? という話である。
ただし、「存在の心理は無。全ては何もないところから始まった。だから無に還す。」とも言っているので、より良い世界を創るためにリセットしたいという思いがあるのかもしれない。しかし、そこでまた人が生まれ、世界が生まれ、力が生まれたら、また同じことの繰り返しになりそうではある。自身の不死身を活かして何度でもやり直そうとでもいうのだろうか? 気の遠くなる話である。
それを聞いて、「そらが生きていく世界を、未来を、守る!」と叫ぶ尾上。そこはウソでも「子供たち」って言えよ。
「人は過ちを犯す。それを償うことができるのも人だ!」と叫ぶ賢人。いかにも優等生的な回答ではある。
「強さに果てはない。挑み続ければ、どこまでも強くなれるんだ!」と叫ぶ蓮。質問に対する答えにはなっていない。ただ自分の人生観を語っただけ。やはりこの子は残念なキャラだ。
「僕は、僕自身もホモサピエンスの未来も、絶対に諦めません!」と叫ぶ倫太郎。これ以上のホモサピエンス推しは、もうお腹いっぱいである。
「人の歴史は争いだけじゃないぜ! 受け継がれていく技術や想いは、最高の歴史のサウンドだァ〜!」と叫ぶ大秦寺。いいこと言っているんだが、どこか趣旨がズレているように聞こえる。
こうして、よくわからない戦いは続いていく。
謎の傍観者たち
消滅する世界を逃げ惑う人々。
その中で、なぜか足を止めてライダーたちの戦いを見つめる人たちがいる。中心にいるのは、本作のヒロイン・芽依である。
「あの人たちは?」と聞く少年に、「人知れず世界を守るために戦っている剣士、仮面ライダーよ」と答える芽依。
「キミが友だちと遊んでいるときも、実はどこかで戦っている仮面ライダーがいるわけ。当たり前にくる明日は、彼らには無いの」と続ける。
なんだか、仮面ライダーセイバーQ&Aみたいだ。Yahoo!知恵袋かも知れない。
バハトにやられてぶっ飛ぶ飛羽真を見て、「世界が終わっちゃう!」と逃げ出そうとする少年を無理やり引き止めて「飛羽真は最後まで諦めない!」というくだりは、なんだか鬱陶しかった。
新フォーム爆誕
何度やられても立ち上がる飛羽真。
これはエフェクトではなく、本当に燃えさかる剣を持っているらしい。確かに迫力が全然違う。
この諦めない姿勢が奇跡を生む。
飛び出したブレイブドラゴンが、空に浮かぶ破滅の書に体当たりをかますと、そこから白と黒の2体のドラゴンが飛び出す。
「何が起こっている・・・?」と、困惑しているバハトの目の前で、新たなライドブックが姿を現す。それが、「エモーショナルドラゴン」。
「勇気、愛、誇り。3つの力を持つ神獣が、今、ここに」
飛び出す絵本のような仕掛けは面白い。
劇場版限定(だったはずだが、後にTV本編にも登場する)フォーム・セイバーエモーショナルドラゴン爆誕である。
1冊の本に3体のドラゴンの力が宿っていると言うことで、3冊のライドブックを使ったワンダーコンボと同様、全身が統一されたデザインとなる。これがなかなかカッコいい。これまでに登場したセイバーのフォームの中では最高である。左腕に装着されたシールドが、またいい感じである。
こうなると、ここからは当然のごとく、ずっと飛羽真のターンである。
最後は破滅の書から飛び出した2体のドラゴンによって、破滅の書に封印されて終了。
不死身だからこそ、封印するより他になかったということなのだろう。これには納得せざるを得ない。
最初から最後までクライマックス! ただし・・・
この作品を一言で表現すると、「最初から最後までクライマックス!」という、まるで『仮面ライダー電王』の決め台詞みたいになってしまう。ただし、この場合は、あまり良い意味ではなく、どちらかといえば悪い意味で。
曲で言えば、イントロ直後にAメロもBメロもすっ飛ばして、いきなりサビに入り、最後までサビで押し通すような作り。一応、最後にはちょっとした余韻としてのアウトロは用意されているが、本当にそれだけだ。
もちろん、22分という極めて短い上映時間の中で深みのある物語を表現するというのは並大抵のことではない。
それに『仮面ライダーセイバー』という作品自体が、大勢の仮面ライダーが共闘するところをセールスポイントにしている作品なので、それぞれのライダーの活躍シーンを盛り込むだけでもそれなりの尺が必要だ。余計な前置き無しに本作のラスボスが登場し、その野望を挫くために戦うというストーリー展開は必須だっただろう。
実際、全体の8割がバトルシーンと言って良く、「ドラゴンボール」のフリーザ編を20分弱の総集編にしたような全開バトルムービーになっているので、とにかくアクションシーンが見たいという方にはオススメだ。
ただし本当にそれだけで、「ドラゴンボール」で多くの読者(もしくは視聴者)が感情を揺さぶられた、クリリンがフリーザに殺されてしまうシーンほどのインパクトは皆無。視聴後、物語を思い返そうと思ってもビックリするほど「戦ってたなー」という記憶しか残らない。
子供たちの未来を守るカッコいいヒーローたちのバトルを詰め込んだだけなので、ストーリーを期待する方は軒並み低評価かと。
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それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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