2022年7月3日配信開始『オーズ10th 仮面ライダーバース バースX誕生秘話』(監督:田崎竜太 脚本:毛利亘宏)
『仮面ライダーオーズ10th復活のコアメダル』に登場した新ライダー・バースXの誕生にまつわる物語がスピンオフとして、TTFC(東映特撮ファンクラブ)にて限定配信が開始された。
非常にシリアスな内容で締め括られた『復活のコアメダル』とは真逆で、終始コミカルな雰囲気が漂う作品。
そこには、キャストたちの笑顔が溢れ、見ているこちらも思わず笑顔になる。
17分弱という短編だし、主人公も映司とアンクではなく、後藤ちゃんということで、決して王道ではない。
しかし、「ひょっとしたら、ファンが待っていた10年後の物語は、こういうものだったのではないか?」と感じる内容だった。
ネタバレありのレビューだが、最後までおつきあいいただければ幸いだ。
キャスト
ここでは本作のキャストをご紹介する。
それぞれ、ウィキペディアのリンクを貼っておくので、『オーズ』以降の出演作品などもチェックしていただきたい。
なお、以下の画像は全て『オーズ10th 仮面ライダーバース バースX誕生秘話』より引用している。
後藤慎太郎
火野映司
アンク
泉 比奈
伊達 明
里中エリカ
白石知世子
井坂仁美(仮面ライダーGIRLS)
ウヴァ
カザリ
メズール
ガメル
メズールの声
鴻上光生
ナレーション:中田譲治
迷い込んだパラレルワールド
バースXは、仮面ライダーバースの強化形態で、セルメダルではなく、鴻上ファウンデーションが完成させた人造コアメダル(エビ、カニ、サソリの3枚)をバースドライバーXに装填して変身する新たなライダー。
変身者は、後藤慎太郎。「後藤ちゃん」だ。
物語は、バースXの起動実験をした際、後藤ちゃんがパラレルワールドに飛ばされるところから始まる。
そこは、消滅したはずの恐竜グリードが暴れ回る世界。
『復活のコアメダル』には登場しなかった真木博士が10年ぶりに登場か? と思いきや、その正体は意外な人物。
それどころか、この世界にも存在するオーズは、なんとヒロインの比奈。
3枚のコアメダル(タカ、トラ、バッタ)を両脇に2枚、次いで真ん中に1枚挿入する様は、映司そのもの。変身シーンが初めてとは思えないほど板についている。
まさか10年越しで比奈の変身シーンが拝めるなんて、ファンには嬉しい誤算だろう。
ただし、当然ながら戦闘スタイルはオリジナルのオーズとはまるで異なる。肉弾戦よりも、剣を使った流れるような動きが目立った。
『オーズ』といえば、アンクが投げた3枚のメダルを映司がキャッチして変身するのがお約束なわけだが、このパラレルワールドにおける映司は、比奈の代わりにヒロイン役(?)を担当している。本編での勇ましい雰囲気はどこにもなく、ちょっとオネエみたいである。
だとすると、本作ではアンクが投げたメダルを比奈がキャッチするという、夢の兄妹コンビ誕生か? と思いきや、メダルを投げたのは、まさかのウヴァ。
なんでも映司の兄の身体に憑依しているらしい。兄・・・だと?
本編でアンクが比奈の兄・信吾に憑依したのと同じように、だ。
ウヴァに対して冷たく当たる比奈に、「お兄ちゃんの身体なんだから大事に扱って」と諭す映司は、完全に本編のパロディ。その後も比奈のウヴァに対する冷たいあしらいが続く。
では、アンクは?
まさかの真木博士枠。
肩に乗せた不気味な人形「キヨちゃん」も健在。本当に何を演じさせても上手い。
あれ? 伊達さんは? と思ったら、鴻上会長枠として、伊達ファウンデーションの会長になっていた。違和感がなさすぎて凄い。
里中は、秘書のまま。ただし、後藤に対して「後藤さま」と呼びかけるなど、本編のだるそうな雰囲気はなく、カッチリしている。髪型もカッチリしているが、なんだか昔の友近さんみたいにも見えてしまう。
はちゃめちゃな展開
パラレルワールドに飛ばされた後藤は、目の前に現れた恐竜グリードと戦おうとするも、3枚のコアメダルは輝きを失っており、変身することができない。
そのピンチに現れたのが泉 比奈。
ウヴァからメダルを受け取り、オーズとなって恐竜グリードを撃退する。
比奈から話を聞いたドクターアンクは、後藤が元の世界に戻るには、グリードたちの力で、3枚のコアメダルにパワーを充填するしかない、と言う。
ここで言うグリードたちとは、ウヴァ、カザリ、メズール、ガメルの4人。
先述した通り、ウヴァは比奈たちの仲間になっている。
では、他の3人は? といえば、これも比奈たちに敵対しているわけではなく、むしろ比奈にメダルを投げる役割を巡ってお互いに争っている、という謎の展開。
しかも、この3人のグリードたちも、ウヴァのように映司の親族に憑依しているらしい。カザリは映司の弟に。メズールは映司の妹に。そしてガメルは近所のおじさんに(一人だけ親族ではない。完全なネタ要員)。ここまでふざけ倒せば、ありがちなパラレルワールド設定とした意味もあろうというものだ。
そんなグリード4人の力を集結させようとする比奈たちの前に現れたのは伊達会長。恐竜グリードへと姿を変えて、後藤が元の世界に戻るのを阻止しようとする。
変身できない後藤に代わって恐竜グリードを止めようと、比奈が4人のグリードたちにメダルを要求する。
「メダルを」と手を伸ばした途端、4人がありったけのメダルを放り投げる。
「そんなにいっぱい要らない」と困り顔を見せる比奈。
展開も秀逸だが、高田さんのコメディタッチな演技も最高だ。それに加えて、後藤ちゃんのツッコミが冴え渡っている。
そこに白石千世子が現れて、まさかのバースに変身。その出立ちは、本編での伊達そのものである。
オーズとバースが共闘する中、グリードたちの力によって輝きを取り戻した3枚のコアメダルを使い、後藤はバースXへと変身を遂げる。
変身音声は、「エビ!カニ!サソリ!(ここで流れるカポーン♪というサウンドが心地よい)ババッババース!バッバッバッバース!X!ソカビ!」というもの。
このバースドライバーXがカッコいい。既に『復活のコアメダル』で見ているが、改めてアップで見ると、凄く良い。
バースドライバーの横に、コアメダルを縦に3枚入れるスロットがついただけのようにも見えるが、デザインとしてはオーズドライバーよりこっちの方が好みだ。
バースXは・・・まあ、そうなるよね、といった感じ。取り立ててカッコいいという感想はなかった。
笑顔で締めくくる『オーズ』
バースXが戦い始めると、「後藤さん、強い」と、比奈と千世子は変身を解除。
確かにバースXはめちゃくちゃに強い。
オーズとバースの二人がかりでも苦戦していた恐竜グリードをたった一人で圧倒する。
それを見た映司たちは応援グッズを手に応援を始める。カオスだ。
さらに映司たちの背後では、グリードたちがラインダンス。さらにカオスだ。
しかし、みんなめちゃくちゃ楽しそうだ。『復活のコアメダル』を見た後だから尚更なのかもしれないが、キャストさんたちの満面の笑顔が印象的だ。
その応援の甲斐あってか、バースXは恐竜グリードを倒す。
途端に、バースXの身体が薄れていく。元の世界に戻る時が来たようだ。
パラレルワールドのみんなに、ここまでのお礼を述べる後藤ちゃん。
「みなさんのことは、きっと・・・たぶん・・・おそらく忘れない・・・」
そんなフワッとした別れの台詞と共に掻き消える。
気がついた時には、元の世界に戻っていた。
そこは、伊達会長ではなく、鴻上会長の「ハッピーバースデー!」が轟く、いつもの世界。
こうして『オーズ』は幕を閉じる。
どこまでもシリアスなタッチで描かれ、まさかの最後を描いた『復活のコアメダル』は、『オーズ』の新作を待ち望んでいた多くのファンからすれば、10年ぶりに再会できた憧れの人から、いきなり刃物を向けられるようなショッキングな出来事だったに違いない。
ファンが望んだ結末は、そこにはなかっただろう。
しかし裏を返せば、そこにはファンに迎合するのではなく、ひたすら『オーズ』らしい幕引きを考え抜いた末に生まれた製作陣のプロとしてのクリエイティビティーが垣間見えた。
それに対し、本作『バースX誕生秘話』は、おそらく『オーズ』ファンが望んでいた形に近かったのではなかろうか。
先述した通り、この作品は後藤慎太郎であり、本編の主人公である火野映司とアンクは、ほんの脇役であるため、これが『オーズ』最後の正統作品となることには違和感がある。
だが、これはスピンオフでしかない。そして、登場人物たちは皆楽しそうだ。まるでコントのようなやりとりがいくつもある。
振り返れば、こういったコメディ要素が秀逸だったこともまた『オーズ』を『オーズ』たらしめていた。
本作には、それがある。
パラレルワールドというご都合主義の中だからこそ繰り広げられる、ぶっ飛んだ設定の数々と、キャラ変の面白さ。
それが17分弱という短い尺の中にみっしりと詰まっている。
多くのファンが望んでいた『オーズ』の未来は、やはり、大好きな登場人物たちが笑顔で帰ってきてくれる、こんな作品だったのではないかと思う。
『復活のコアメダル』を見て、ショックを受けた方にこそ、見て欲しい。『復活のコアメダル』がダークサイドを描いた作品だったとすれば、本作は『オーズ』のサニーサイドといった雰囲気である。
あちらも確かに『オーズ』だったが、こちらもまた紛うことなき『オーズ』である。
『オーズ』はまだ終わってはいないのかもしれない。
そんな可能性を見せてくれる作品である。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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