2022年5月8日放送『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』ドン10話「オニがみたにじ」(監督:田﨑竜太 脚本:井上敏樹)
これは、美しい虹を追い続けた一人の女性と、虹の美しさすら忘れていた一人の少女の物語だ。
個人的にイチオシの『ドンブラザーズ』だが、今回はこれまでの中でも群を抜く神回と言っていいだろう。
ドン10話「オニがみたにじ」をレビューする。ネタバレも含むが、最後までおつきあいいただければ幸いだ。
キャスト
ここでは今回のキャストをご紹介。本作初登場で、ウィキペディアに記載のある方については、リンクを貼っておくので、他の参加作品も是非チェックしていただきたい。
なお、以下に掲載する画像は全て『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』から引用している。
桃井タロウ/ドンモモタロウ
樋口幸平
猿原真一/サルブラザー
別府由来
鬼頭はるか/オニシスター
志田こはく
犬塚 翼/イヌブラザー
柊太朗
雉野つよし/キジブラザー
鈴木浩文
五色田介人
駒木根葵汰
ソノイ
富永勇也
ソノニ
宮崎あみさ(画面左)
ソノザ
タカハシシンノスケ(画面右)
前田真利菜
片田陽依
記者
後藤公太(画面中央)
一平
金村花子
田中えみ
花村ひとし
本田響矢
女生徒
川崎帆々花(手前右)
同僚
植田敬仁・竹内 啓・遊佐亮介
狭山健児
杉本凌士
ラーメン屋の店員
中武億人(画面左)
男
久保雄司
写真の子供
藤原陽人
写真の子供
中里瑚夏
取り戻したもの、失われたもの
冗談社マンガ大賞を受賞した『初恋ヒーロー』に続き、『失恋ヒーロー』という作品でも日本マンガアワード大賞を受賞という快挙を成し遂げた若き天才マンガ家・鬼頭はるかは、学校でも大人気。いつも多くの友人に囲まれ、イケメンの彼氏までいる。まさにこの世の春・・・って、あれ? 盗作疑惑はどこ行った??
実は、これまでの戦いで獲得したキビ・ポイントを使うことで、過去の栄光を取り戻すことに成功したのだ。ドン6話で、平凡な会社員・雉野が、デキる男へと一変したが、それと一緒である。
他のメンバーよりもポイントが頭抜けて多いのは、前回、桃井タロウのピンチを救ったから、らしい。
これに際して、喫茶どんぶらのマスター・介人が、そのキジ・ポイントの管理人であることをはるかに明かしたことも大きなポイントである。しかし、世界を改変するほどの力を持つキジ・ポイントを、「ポイント貯まってるけど、どうする?」といった、ツタ◯の店員さんみたいな軽いノリで囁きかける介人の正体はいったい何なのか? ゼンカイザーブラックという存在も含め、謎は深まる一方である。
しかし、過去の栄光を再び手に入れ、ドンブラザーズも脱退してしまったはるかの前に、人気マンガ家ばかりを襲うヒトツ鬼が現れる。
そのピンチを救ったのは、なんと自分ではないオニシスターを擁するドンブラザーズだった。
彼らは、はるかが戦っていた頃よりも、ずっとまとまっていた。
相変わらず、タロウとお供たち、という関係性は変わっていないが、お互いに「キジブラザー!」「オッケー!サルブラザー!」などと、声をかけあって連携攻撃を仕掛けたりしている。スーパー戦隊らしくなっていたのだ。
その様子を見て、急にモヤモヤとした感情に襲われたはるかは、オニシスター・真利菜にドンブラザーズの取材を申し込むのだが、そこで再会したタロウたちは、はるかのことをすっかり忘れてしまっていた。
学校の仲間やマンガ家としての栄光を取り戻した代わりに、ドンブラザーズとしての絆は失ってしまったワケである。
ひとつ手に入れれば、ひとつ失う。光と影を描く『ドンブラザーズ』らしい展開だ。
才能とは
今回、登場したヒトツ鬼が海賊鬼。
「漫画家になりたい」という男の欲望から生まれた。
海賊鬼
身長:193cm
体重:232kg
スキン:海賊版パイレーツ
ぱっと見は、海賊帽を被った、髭と髪がイカかタコのような男だが、よく見ると、顔は中心線から鏡写しのように左右を向いた二つの顔でできていることがわかる。しかも、左右で色が違うのは、マンガのカラー原稿とモノクロ原稿を表現しているらしい。見れば見るほど、発見があるというのは良いデザインの証であるように思う。
海賊鬼の宿主は、漫画家にはなりたいものの、才能がない、と自覚しており、それを補うために人気漫画家を吸収し、その才能をも吸収しようとしていた。
その言葉を聞き、「才能は奪うもんじゃない!自分の努力で磨き、育てるものよ!」とキレたはるかの一言は、世のクリエイターたちの心の叫びを代弁したものだろう。
世の中の「天才」と呼ばれる人たちは、天賦の才だけで輝きを放っているわけではないのだ。
例えば、現役時代のイチロー選手がどれほど地道なことを続けてきたか、作家の村上春樹さんが毎日どれほどの文章を書き続けているかを知れば、勝手に嫉妬することの虚しさがわかるはずである。
もちろんこの二人だけが天才ではないが、大きな輝きを放つ人には、それだけの努力があるということである。
はるかもまた、漫画家として成功を収めるために努力してきたからこそ、その気持ちがわかるのだろう。
同時に、真利菜の抱えた辛さも、ここには込められている。
手放してはいけなかったもの
はるかと真利菜がレストランで食事中のこと。
真利菜が突然顔色を変えて、店に飾ってあった一枚の写真にナイフを突き立てた。
いつも笑顔を絶やさない真利菜の豹変ぶりに驚きを隠せないはるか。
それは、自分の写真の盗作だという。
真利菜は、オニシスターになる前、写真家だったらしい。
「虹の写真で、すさんだ人々の心を癒したい」と願った父の遺志を継ぎ、虹の写真家として、賞をもらったりもしていたところで、盗作疑惑が巻き起こったと聞いたはるかは、はっとする。「私と同じだ」と。
つい先日まで、自らの身に起こっていたことは、手放したからそれで終わり、ではなく、この世界に残っていたのだ。
もしかしたら、自分がそのカルマを手放したから、真利菜がそれを引き受けてしまったのではないか? と思い悩むはるか。
さらに、カメラはもう捨てたと言っていた真利菜が、実は未だに写真を諦め切れていないことにも気づいてしまう。
見て見ぬふりもできたろうが、それでおしまいにしないのがヒロインたる所以である。
初変身から、まだほんの2ヶ月程度しか経っていないが、はるかの中には既に、ヒロインとしての自覚ができていた、ということだろう。
タイミング良くかかってきた編集者からの電話に「私、マンガ家辞めます!」と告げ、喫茶どんぶらに駆け込む。
はるかのことなど記憶にない、と惚ける介人に、「(キジ・ポイントの)管理人なんだから、本当は私のこと、覚えてるんだろ? コラ!」と詰め寄る。
その剣幕に押され、「ああ・・・覚えてます」とたじろぐ介人に、「元のオニシスターに戻して!」と頼むはるか。
介人が、パソコンのDeleteキーを押した途端、戦闘中のオニシスターに重なる。どうやらリアルタイムで世界が改変される様子である。
「オニシスターはるか見参!」のポーズがかわいい。
この後、テンション上がりまくりのはるかは、オニシスターロボタロウにアバターチェンジ。
それにつられて、他の4人もロボタロウとなり、ロボタロウが勢揃いする初の回となった。
今回からオープニングでは、5人のロボタロウが合体して巨大化する「ドンオニタイジン」が登場する運びとなったが、本編では、まだおあずけ。
しかし、必殺奥義はしっかりとロボタロウバージョンに変わっている。
「前人未桃 打ち上げロボタロウ」というワケのわからぬネーミングがドンブラらしいが、サルの起こす振動で空高く飛び上がったオニの全身から発射された「トゲトゲ花火」と共にイヌとキジが突撃。最後はドンロボタロウのロボタロ斬でとどめ、という華やかなもの。
個人的には、これまでの「桃代無敵アバター乱舞」の方が好きだが、これからの季節にはピッタリな雰囲気である。
それにしても、この必殺奥義の最初に「アーバタロ斬♪ アバタロ斬♪」という一節が流れたが、これはドン1話でドンモモタロウが初めて必殺奥義を使った時にも流れたもの。その後は「モーモタロ斬♪ モモタロ斬♪」に改められたので、一旦はアバタロ斬にしたものの、やっぱりモモタロ斬の方がいいじゃん、みたいな理由で急遽ボツになったのかと思っていたが、ここに来て、まさかの復活。
来週以降も使われるのだろうか?
見上げた虹
今回は最初から最後まで、とにかく美しさに溢れていた。
マンガ大賞を受賞したはるかの「身に余る光栄です」で始まった物語が、最後は真利菜の「身に余る光栄です」で締め括られる。
はるかが、この栄光を手放したことによって、真利菜が、これまで積み上げてきた努力の結果としての栄光を手に入れることができたのだ。
栄光を手放したはるかには、同級生から再び「盗作」というあだ名で呼ばれる毎日が訪れる。
しかし、今までのように苦笑いで誤魔化すはるかはもういない。
清々しい笑顔で、そんな日常を受け入れる。
すると、空に大きな虹がかかる。
「人の心がすさんでいるから、虹を見ない」
真利菜の父が言っていたという言葉が刺さる。
「誰かのために」とか、「自己犠牲」なんて大袈裟なことではなく、自分に降りかかったものを、自分ごととして受け止める。
ただそれだけのことで、見えるものが変わる。
そんな「粋」な人生哲学がここには垣間見える。
美しい虹を追い続けた一人の女性と、虹の美しさすら忘れていた一人の少女の物語は、こうして終わりを告げる。
ひたすらに美しい物語である。
また、途中にあった画面の切り替わりも、その美しさを助長していた。
空に浮かんだ扉に海賊鬼が逃げ込んだ途端、扉が弾け、そのカケラが地上に降り注ぐのに合わせて、土砂降りのシーンへと移行する。
個人的には大好きなシーン。
本編でのはるかの台詞を借りれば、「ベタ・・・でも、いい」だ。
肝心の物語としては、前回、乗り合わせた観光バスから忽然と姿を消した刑事・狭山が、とあるラーメン屋に現れる。
何かに取り憑かれたかのようにチャーシューばかりを食い漁る。口にはわかりやすくキバまで生えている。
ソノイたちが語る「獣人(ジュウト)」の影響なのだろう。
食事を終えた狭山は、ネコの顔のようなものを折り紙で作り、「ニャー」と鳴く。
どうやら獣人とは、ネコ科の生命体のようだ。
今後、新たな敵勢力として、どのように絡んでくるのか、その姿も含めて楽しみだ。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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