2022年3月13日放送『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』ドン2話「おおもも、こもも」(監督:田﨑竜太 脚本:井上敏樹)
新たな仲間の登場。そして、新たな敵として脳人の2人目(呼び名としては3人目)ソノザが登場したドン2話をレビュー。
今回もとんでもない情報量。これは事前にキャストさんたちが語っていたとおり、1話でも見逃すとついていけなくなりそうだ。これから視聴する方の楽しみは奪わない程度のネタバレも差し挟みながら、見どころをご紹介する。
キャスト
前回は登場しなかった猿原真一、犬塚 翼が登場し、一応ドンブラザーズの5人が登場したことになる。ただし、猿原については、ほんの顔見せという程度で、戦列に加わるのは次週の様子。
今のところ、5人はお互いの素性も知らないどころか、顔見知りでさえない。道でぶつかったとか、バイト先で接客したとか、家に荷物を届けたとか、お互いにかろうじて見たことがあるという程度で、同士という認識は皆無。こんな彼らが不思議な「縁」で徐々に繋がっていく様は、荒唐無稽とばかりは言えない妙なリアリティがある。
繋がる人はどうやったって繋がるし、繋がらない人はどうやったって繋がらない。そんな「縁」の不思議さを、誰しも一度ならず感じたことがあるはず。彼ら5人が、今後どうやって繋がっていくのか興味津々である。
桃井タロウ/ドンモモタロウ
樋口幸平
猿原真一/サルブラザー
別府由来
鬼頭はるか/オニシスター
志田こはく
犬塚翼/イヌブラザー
柊太朗
雉野つよし/キジブラザー
鈴木浩文
五色田介人/ゼンカイザーブラック
駒木根葵汰
ソノイ
富永勇也
ソノザ
タカハシシンノスケ
雉野みほ
新田桃子
磯野さなえ
松浦佐知子
磯野さなえ(40代)
結城さなえ
磯野さなえ(20代)
黒木百花
桃井 陣
和田聰宏
部長:滝 晃太朗
刑事:杉本凌士
同僚:植田敬仁 ・ 竹内 啓 ・ 遊佐亮介
天女:河北琴音 ・ 井田彩花 ・ 加藤萌朝
若さへの渇望が生んだヒトツ鬼
「いくつに見える?」
そんなよくある質問には、ほぼ間違いなく“若く見られたい”という願望が根っこにある。
今回のゲスト・磯野さなえはシロクマ宅配便のパート主婦。桃井タロウたち従業員全員に手作り弁当を用意してくれるという優しい女性だ。そんな彼女が、不意に「若く見られたい」という欲望に取り憑かれてしまう。
きっかけはタロウの一言。「さなえちゃんは若い」とおだてる従業員たちの声に気を良くしたさなえが、タロウに「いくつに見える?」と聞くと、嘘のつけないタロウは即座に「68だ!」と答えてしまう。タロウに突きつけられた現実を知りながらも、お世辞でも「若い」と言われることの喜びに抗えないさなえは、「若くなりたい」と一人呟く。誰にでもある、そんな欲望がヒトツ鬼・列車鬼を生んでしまうのだった。
列車鬼
身長:190cm
体重:228kg
スキン:蒸気機関車
その名のとおり、『列車戦隊トッキュウジャー』をモチーフとした列車鬼は、さなえの「もっと若くみられたい」という欲望を叶えようとする。
アンチエイジングの鬼となり、40代、20代と特急のスピードで若返る。胸の煙室に人々を吸い込むのは、他人の若さを石炭のように使うということなのだろう。「命、燃やすぜ!」というセリフがふと頭をよぎるが、あれは『トッキュウジャー』ではなく、『仮面ライダーゴースト』だった。
みるみる若返っていく自分の姿に酔いしれるさなえ。しかし、どんなに若返っても、タロウの目には68歳のさなえだとわかるらしい。「それならば、もっと、もっと・・・」と、さらなる若さを求め、壊れていくさなえ。「いくつに見える?」と呟き続ける様は、もはや、ただのモンスターである。
むかーしむかし、有名な「口裂け女」という都市伝説があったが、あれを思い出す。「私、キレイ?」という質問には、今回の「いくつに見える?」と同質の恐怖がある。
人々を襲う列車鬼に出くわし、それを止めようとする鬼頭はるかの前に現れたソノイの「若さを求める欲望こそ、自信を醜くゆがめるもの」というセリフは、「美魔女」みたいな言葉に憧れる世の女性には耳の痛い一言だろう。
この列車鬼は、一度やられると「列車鬼ング」へと変貌する。
列車鬼ング
全長:452m
体重:18532.0t
スキン:蒸気機関車(9両編成)
『仮面ライダー電王』のデンライナーのように脳人レイヤー内を線路で自在に移動できる機関車型のモンスターで、線路外の障害物は指差し確認してダークライナービームで破壊する。
最後は倒され、トッキュウジャーギアを落とすが、またもやゼンカイザーブラックによって回収されてしまう。いったい、彼の目的は何なのか?
喫茶どんぶら
前回も登場した昭和の香りを残す喫茶店の名が判明する。その名も「喫茶どんぶら」。
前作『機界戦隊ゼンカイジャー』の「駄菓子カフェ・カラフル」と同じセットをレトロなテイストでリデザインしたものである。白と黒を基調にしたシックな色合いがめちゃくちゃおしゃれ。
そこでバイトを始めたのが鬼頭はるか。制服もめちゃくちゃおしゃれ。
全国展開のファミレスでさえ、こんなレベルの制服なんてそうそう見かけないというのに、単一店舗でここまでこだわるというマスターには、ちょっと異常性さえ感じてしまう。ちなみにマスターは五色田介人。前作とはまるで別人だが、どういった繋がりがあるのかは今後のお楽しみなのだろう。
「盗作」という、あまりにも軽はずみな行為によって、一度はつかみかけたマンガ家としての栄光を棒にふってしまったはるか。そのはるかに「盗作したの?」と率直に質問する介人に「全力全開で違います」と返すシーンにはニヤけてしまう。
失ったのは栄光だけではない。周りの友だちも、イケメンの彼氏までも失ってしまったはるかは、謎の囚人・桃井 陣の「桃井タロウを見つけ、忠誠を誓え。そうすれば失ったものを取り戻すことができる」という言葉を信じ、桃井タロウを探し続けていた。
禍福は糾える縄の如し
「禍福は糾える縄の如し」ということわざがある。これは、幸と不幸は、より合わせた縄のように交互にやってくるという意味で、「人生万事塞翁が馬」のようなもの。本作はこれらのことわざを体現するかのような作品となっている。それは、マンガ家としての栄光を勝ち取った途端に盗作がバレ、一気に転落してしまったオニシスター・鬼頭はるかだけではなく、登場人物全員に光と影が見え隠れする。
キジブラザー・雉野つよしは、仕事では冴えないものの、みほというかわいい妻がいる。会社で「平凡だ、平凡だ」と上司に嫌味を言われても、家に帰れば自分を愛してくれる妻がいる。「いいこともある」という何気ないセリフが非常に深い。
リュウソウピンクへとアバターチェンジして見せたが、過去の『海賊戦隊ゴーカイジャー』と異なる点として、女性用スーツがそのまま流用されることがわかった。完全なネタ要員である。
イヌブラザー・犬塚 翼は逃亡者である。指名手配され、警察に追われる毎日。「俺は無実だ」と呟きながら逃げ回る様には人生の闇しか見えないが、偶然手に入れたであろうサングラスを使いこなして、脳人レイヤーを逃亡に利用できているところは不幸中の幸いなのかもしれない。
変身したイヌブラザーも初登場したが、小さくて、それでいて小生意気な感じが人気出そうな雰囲気。リュウソウブラックにアバターチェンジして見せたが、その途端、頭身が普通の人間と同じになることがわかった。
サルブラザー・猿原真一は、中でも一番の変わり者かもしれない。今回はほんの触り程度の顔見せでしかなかったので、まだ詳しくはわからないが、「風流人」という肩書き(当初は単に“無職“という肩書きだったらしい)が示す通り、世俗のしがらみに囚われず、自然を愛し、人を愛するような人なのかもしれない。
金に対する執着はなく(単に金がないだけかもしれない)、一杯のコーヒーの代金として俳句を残す姿は昔ながらの芸術家みたいであり、なんだか時代遅れにも思えるのだが、それが許されてしまうのは、喫茶どんぶらの持つ昭和レトロ感のなせるわざ。
そんな無茶をすんなり受け入れる介人も粋だ。本当にゼンカイジャーのあの人なのかと疑問を抱くほどに違いすぎる。駒木根さんという人は、想像以上にいい役者さんなのかもしれない。
ちなみにこの俳句は、脚本家・井上敏樹さん作らしい。
劇中で詠ませ、他のキャラクターから賛辞を送る。自作自演の極致。いや、お世辞抜きに素敵な俳句だとは思うけれど。
そして主人公である桃井タロウは、「ウソのつけない(ウソをつく機能がない、とされている)」青年で、宅配便の配達員として、「荷物だけでなく幸運も運ぶ」と自称している。
これだけ見ると、清廉潔白な人物で、まさに非の打ち所がないようにも思えるが、今回のようにお世辞ひとつも言えない、となれば、それによって傷つく人も当然いる。例えウソだとしても、相手が欲しい言葉を贈るのは悪いことばかりではない。そういったウソは、時に優しさとなるのだ。「嘘も方便」とは、昔の人はよく言ったものだと思う。
ただし、そんな馬鹿正直なタロウだからこそ、今回のラストでさなえに告げた「幸せそうな68歳に見える」という一言が、下手なお世辞よりも深く突き刺さりもするのだろう。
やはりすべては、糾える縄の如し、だ。
まだ2話しか放送されていないが、既にこれまでのスーパー戦隊シリーズとは一線を画す匂いがプンプンする。見た目とは裏腹に、明らかに対象年齢を上げた気配すらある。『ゼンカイジャー』までのここ数年の作品しか知らない人たちは戸惑いを隠せないかもしれない。
しかし安心して欲しい。
この匂いは、間違いなく良作の匂いである。脚本家・井上敏樹さんが30年以上も前に手がけた『鳥人戦隊ジェットマン』のように、末永く語り継がれる作品になる可能性は十分にある。まずはこの独特な世界を楽しもう。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
\ 僕と握手! /