2022年7月24日放送『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』ドン21話「ごくラーメンどう」(監督:山口恭平 脚本:井上敏樹)
サルブラザーこと、猿原真一が誘拐されてしまう。
誰が? 何の目的で?
さらに、オニシスターこと鬼頭はるかも誘拐されてしまう。
しかも相手は脳人のソノザ。いったい何の目的なのか?
謎だらけ。しかも、シリアスな展開はほぼ無縁なギャグ回と見せかけて、「生きる」ことの本質を問うドン21話をレビュー。視聴前の方の楽しみを奪わない程度のネタバレもあり。視聴後の方なら、きっともう一度見返したくなるはず。最後までおつきあいいただければ幸いだ。
キャスト
ここではドン21話のキャストを紹介する。
本作初登場でウィキペディアに記載のある方についてはリンクを貼っておくので、他の参加作品なども是非チェックしていただきたい。
なお、以下で使用している画像は全て『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』より引用している。
桃井タロウ/ドンモモタロウ
樋口幸平
猿原真一/サルブラザー
別府由来
鬼頭はるか/オニシスター
志田こはく
犬塚 翼/イヌブラザー※画像左
柊太朗
雉野つよし/キジブラザー※画像右
鈴木浩文
桃谷ジロウ/ドンドラゴクウ
石川雷蔵
五色田介人
駒木根葵汰
ソノザ
タカハシシンノスケ
ドンムラサメ(声)
村瀬 歩
白井/先代サルブラザー
松井
狭山健児
杉本凌士
宇都宮テツ
お嬢様
岡本夏穂
組員
染川 翔・小笠原 覚
ラーメン屋店主
プリティ望
女性
真木すみれ
コーラちゃん
三谷あかね
マザー(声):能登麻美子
人まちがい
川原でサッカーに興じる少年たち。蹴ったボールが誤って川へと飛んでいく。
それを観ていた猿原真一は、サルブラザーに変身してボールを少年たちに返して上げるのだった。以前は、木に引っかかった風船を取ろうとしてあげたこともあった。猿原の優しさは本物だが、毎回つまらないことで変身しすぎだ、とも言える。
その様子を偶然見かけた強面の男たちに連れ去られる猿原。
気がつくと、さらに強面の男が目の前に立っていた。
「違う。こいつじゃない」
どうやら人違いの様子。
そこに飛び込んでくる1台のワンボックスカー。ホンダ・ステップワゴンだ。よく見ると、ご丁寧にフロントの「H」のエンブレムが「N」に書き換えられているのは豆知識だ。
運転していたのは見知らぬ男。しかし、猿原を助けにきたのは確かなようだ。「早く乗って!」と猿原を乗せてステップワゴンは去っていく。そして、この運転手こそ、強面たちが探していた男らしい。
男は白井と名乗った。なんと、先代サルブラザーだという。
しかし猿原とは違い、白井は自分だけのためにその力を使いまくったらしい。それも、夜景のキレイな場所に女の子を連れて瞬間移動したり、スポーツ大会で優勝するために力を使ったり、アイドルの握手会でも行列に並ばないよう瞬間移動をしてみたりと、めちゃくちゃつまらないことにばかり力を費やしていたようだ。
そして、白井を探していたのは「松井組」というラーメン屋だった。
白井は元々、松井屋で働いていたらしい。ところが、サルブラザーの力を得てからというもの、遊び惚けるようになった白井を松井がクビにした。その際、松井が大切にしていた俳優・宇都宮テツのサイン色紙を奪って逃げたため、松井たちは白井を血眼になって探していたのだそうだ。こちらも心底どうでもいい話である。
マンガの続き
喫茶どんぶらを訪れた珍客。
なんと、脳人のソノザだ。
それも、店にはるか一人だけのタイミングで現れる。偶然なのか、狙ってのことなのか。
そのまま強引にはるかを連れ去ってしまう。しかし、はるかがオニシスターだということには気づいていない様子である。それでは何故?
はるかが目を覚ますと、そこは見知らぬ場所。
ソノザは、はるかに「初恋ヒーロー」の続きを描けと迫る。どうやらドン19話で偶然手にした「初恋ヒーロー」にどハマりしたようである。無感情に近いソノザが「胸がザワザワする」というのだから、そのハマりようはかなりのものだ。
マンガによって、人間以外をも熱狂させてしまったはるか。自称だとばかり思っていたが、天才漫画家という肩書きは、あながちウソではないのかもしれない。
ドンブラザーズとしての活動に本腰を入れるために漫画家は引退したはるかだったが、調子に乗って続きを描くことにする。
ところが、そうして描いた続きは、「キャラが立ってない」「展開に無理がある」とソノザに酷評されてしまう。・・・やっぱり天才漫画家は自称でしかなかったのかもしれない。
戦う理由、生まれた理由
サルブラザーの力を手に入れながらも、ヒトツ鬼と戦うことなく、自らの欲望のためだけにその力を使った白井は、猿原が何故戦うことができるのか、その理由を知りたいと切望し、その想いがヒトツ鬼を生んでしまう。
侍鬼は、スーパー戦隊シリーズ第33作『侍戦隊シンケンジャー』をモチーフにしたヒトツ鬼だ。
侍鬼
身長:190cm
体重:239kg
スキン:文字武者
禍々しい「死」という文字が顔に刻まれたデザインは、『シンケンジャー』でおなじみの「モヂカラ」を想起させる。さらに「死」の横棒が兜の額についた飾りとなっているなど、巧みである。手にした太刀が武器であり、刀身に炎をまとわせて衝撃波のように放つこともできる。
ネタで装飾された本質
喫茶どんぶらのマスター・五色田介人のネタキャラ化が凄まじい。
前回、ジロウが結成した暴次郎戦隊ドラゴンファイヤーズの長官として顔が売れた介人のファースト写真集を、喫茶どんぶらで店頭販売しはじめる。
しかもレジ前。お会計時に目に止まるよう配置している。しれっとした顔で、きちんと消費者心理を読んでいる。こんな個人商店で、たった一人しかいないバイトにカスタムメイドの制服(しかもかわいい)を用意する時点で只者ではない。金銭感覚がおかしいとも言える。しかも無茶苦茶やる気なさそうなのに、きちんと経営が成り立っているのは、実は卓越したビジネススキルを持っているゆえ、なのかもしれない。
それはそうと、今回のエピソードはサラッと観ると、本当にどうでもよくて、取り立てて感動があるとか、そういったものでもない。「つまらなかった」という感想を持つ人も多いだろう。
しかし、ギャグとして描かれた白井のどうでもいい欲望の数々や、サイン色紙一枚にこだわる松井の姿は、同じようにどうでもいいことにこだわっている私たちへのアンチテーゼだ。命の危機に晒された時、たった1杯の水のために自らの執着を捨てた松井の姿こそが「生きる」ことの本質だろう。
一見すると、ただのネタキャラにしか見えない猿原だが、金だグルメだと目の前の欲望に取り憑かれた醜い私たちの姿を暴き出す、『ドラゴンクエスト』に登場する「ラーの鏡」みたいなものだ。数多くの装飾に彩られていてわかりづらいところはあるけれど、そう考えて見直してみると、とんでもなく深い物語となっている。
物語の中で、これまで5,000人もの人たちがドンブラザーズの能力を手にしてきた中で、ようやく今の4人が選ばれたという話があったが、確かにそんなものかもしれない。例えば、『ドラえもん』の秘密道具の中で一つだけ手に入るとしたら、何が欲しい? といった話をしたことのない人はいないと思うのだが、あなたは何を欲するだろう? そして、それを使って何をしたいと考えるだろう? おそらく大抵の人は、「どこでもドアがあったら遅刻しない」とか「透明マントがあれば悪さができる」とか、目の前にあるつまらない欲望を満たすためだけに使ってしまうだろう。
一方で、「何のために生まれてきたのか?」と悩むドンムラサメが描かれているのも印象的だ。人工生命体である自身の生まれてきた理由、そして、生きる意味を求めるムラサメを描いたことも、どうでもいいことに現を抜かす人たちの姿を色濃く浮き上がらせる重要なファクターとなっている。
さて、次回ははるかメインの回。どうやら今回のようなはちゃめちゃな展開が待っているようで楽しみであるが、その陰に潜むテーマを見逃さないよう、目を凝らして見ていきたい。
ちなみに私が『ドラえもん』の秘密道具を一つ手に入れるとするなら「ウソ800」である。これを飲んで口にした言葉は必ずウソになる(真逆の結果が現れる)というものだが、「これから一生お金に困る」と口にすれば、一生遊んで暮らせるだろうから・・・って、ああくだらない。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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