2022年12月25日放送『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』ドン42話「ドンびきかぞく」(監督:渡辺勝也 脚本:井上敏樹)をレビュー
年内最後の放送。残りの放送期間は2ヶ月。1月1日はお休みなので、今回を除いて日曜日は残り8回ある。要するに、どんなに長くとも、あと8回で終わりなのだ。
そんなタイミングでもなお、相変わらずシチュエーションコメディを続けるという狂気。と言っても、別にディスっているわけではなく、やはりこれこそ『ドンブラ』だという心からの賞賛である。
しかもタイトルが「ドンびきかぞく」。大ヒット映画・某「万引き家族」のパロディである。どこまでも悪ふざけが過ぎている。控えめに言っても最高だ。
ネタバレも含むが、最後までおつきあいいただければ幸いだ。
詐欺師と偽装家族
ある日、仕事で預かった荷物を届けようと、猿原の家を訪ねた桃井タロウ。
桃井タロウ/ドンモモタロウ
樋口幸平
当然、猿原が現れると思っていたら、姿を見せたのは、まさかのはるか。普段とはまるで違うギャル系ファッションに身を包んでおり、まるで『ジョジョ』のようなモデルポーズまで披露する。このあたりの悪ふざけ具合は、すっかり板についている。
鬼頭はるか/オニシスター
志田こはく
しかも猿原を「お兄ちゅわん」と呼んでいる。「お父さん」と呼ばれて出てきたのは、扮装した雉野のようだ。いったい何が起こっているのか?
猿原真一/サルブラザー
別府由来
混乱するタロウは、喫茶どんぶらを訪れ、介人に「イヌとオニとキジは家族なのか?」と尋ねると、「そうだよ」と当然のように答えられ、さらに混乱してしまう。そんなわけはないのだ。
五色田介人
駒木根葵汰
実はこの状況というのは、猿原が作り出したものだった。
それというのも、猿原の家を訪ねてきた一人の怪しげな男のためだ。その男の名は亀田 勉。
亀田 勉
チカトプライド
山伏の格好をし、霊能力者という肩書きの名刺を持って歩いているこの男、詐欺師だった。「悪霊に取り憑かれている」などと言って他人の家に入り込み、最終的には金品を巻き上げるらしい。猿原は、以前この男についての相談を受けたことがあったため、名前を見てピンときたのだ。そこで、はるかや雉野の協力を取り付けて家族を偽装し、この亀田をとっ捕まえてやろうとしていたのだ。
しかし、父親と母親の二役を雉野に任せたのはクレイジーだ。こんないかにもコントな状況にも違和感を持たない亀田もまたコントの登場人物である。
雉野つよし/キジブラザー
鈴木浩文
さらに犬塚やジロウなど、猿原たちに縁のあるキャラクターも登場し、彼らもまたその茶番につきあわされていくことになる。しかも犬塚とジロウは、はるかが二股をかけている彼氏という設定だ。
犬塚 翼
柊太朗
桃谷ジロウ
石川雷蔵
ジロウはいつも通りの自然体で違和感はまるでないのだが、「俺は役者だ」とドヤっていた犬塚はゴミのような演技力を見せつける。フリがあってオチがある。まさにコントの見本のような展開である。
さらにタロウももう一人の「お兄ちゅわん」として参加することになるなど、猿原家はカオスの極みといった様相となる。
動き出す詐欺師
さて、ここでようやく詐欺師が本気を出し始める。
まずは家族全員に悪いものが憑いていると脅しをかけるのだが、この手口は詐欺師、もしくはインチキ占い師のリアルな手法。「昔、動物を飼っていましたね?」という問いかけに続き、「犬?・・・いや、猫?」と少しだけ具体的にする。犬でも猫でもなければ、ウサギやハムスターや亀、それでもヒットしなければ鳥や金魚やカブトムシといった具合にどんどん小動物の名を出していくと、大抵どこかで引っかかるそうである。何故なら子ども時代に虫や動物を全く飼ったことがない人の方が珍しいからだ(ちなみに私の通っていた小学校では、蚕の幼虫を何匹かあてがわれて家で飼育をさせられた。桑の葉を食べてスクスク育った芋虫が、やがて繭を作り、蛾として飛び立っていく。貴重な経験だとは思うが、虫嫌いな親御さんのいる家庭では大事件だったに違いない)。
そして思い当たる節のある人たちに、こう囁くのだ。
「悪いものを祓うには、あなたにとって最も大事なものを差し出すのです」と。
ところが、相手はドンブラザーズの面々。普通なら、親の形見の指輪だとか、家だとか、そういった高価なものが出てくるのだろう。しかし、俳句が一番大事と微笑む猿原、生まれて初めてもらったラブレターを指し示すはるか(ラブレターがLINEなのが今っぽい)、みほちゃんが一番大事と言う雉野(一応、猿原家の母親を演じているので、みほとは既に亡くなった長女という設定で、その思い出が一番大事と言っているのだと亀田は勘違いしている)など、高価どころか、金目のものがひとつもない。
これで諦めるかと思いきや、流石は詐欺師。それほど甘くはない。
ここからは詐欺師としてではなく、単なる泥棒として深夜に猿原家に忍び込む。だが、家中探しても金目のものなど何一つない。しかも、寝ぼけたはるかがオニシスターに変身するシーンを目撃したり、ウソをついたタロウが目の前でいきなり死亡したり、悪いジロウに襲われたりと、散々な目に逢ってしまう。
「このヤバい家族から助けて欲しい」という想いが暴走し、ヒトツ鬼へと姿を変えてしまう。1975年4月から1977年3月まで放送されたスーパー戦隊シリーズの記念すべき第1作『秘密戦隊ゴレンジャー』をモチーフとした秘密鬼である。
秘密鬼
身長:197cm
体重:243kg
スキン:五連者仮面
モチーフがわかりづらいヒトツ鬼も多い中で、今回の秘密鬼はめちゃくちゃわかりやすい。ムチを振るい、弓を放ち、ブーメランで斬りつけ、ハート型の爆弾を放り投げる。かけ声も「トイヤー!」と、どこから見ても『ゴレンジャー』である。
一度倒され脳人レイヤーで巨大化すると5人に分裂し、「ゴレンジャーハリケーン」ならぬ「秘密鬼ングハリケーン年末大掃除」で襲いかかる。
秘密鬼ング
身長:52.7m
体重:2158.8t
スキン:バリバリドリブル
2022年最後の放送ということで、年末大掃除をネタにしたのだろう。5人でパスを回し、最後に放ったボールがホウキとチリトリとなってドンブラザーズに襲いかかる。果てしなくくだらないが、『ゴレンジャー』を忠実にトレースしたネタであるのだから仕方ない。『ゴレンジャー』を観たことがないという方には信じられないかもしれないが、実際にこういったしょうもないネタでとどめを刺していたのだ。
対するドンブラザーズは、秘密鬼ングからボールを奪い、それを利用する。5人で五体を形成しているドンオニタイジンなので、リフティングの要領で次々にパスを繋ぎ、最後にヘディングを決めると、ボールは掃除機となって秘密鬼ングに襲いかかる。どこまで行ってもくだらない(褒め言葉)。
捕まった詐欺師
こうして詐欺師・亀田との騙し合いは終わる。
ラストシーンでは、この亀田が捕まったことに関する新聞記事が映し出されるのだが、どうやら出頭したらしい。記事によれば「鬼の化け物や幽霊を見たことに恐怖を感じ逃げ出した」のだそうな。出頭したのは交番だということなので、いつもの出たがりの巡査(高田将司さん)が捕らえたという裏設定になっているのだろう。
どこまで行ってもくだらないが、このくだらなさこそ『ドンブラ』の真骨頂である。
最終回が近づこうとも、緊張感の欠片もない。ひょっとすれば、これまで盛大にばら撒かれてきた伏線も一切回収されないかもしれない。と見せかけて、いきなり真面目に締めくくるかもしれない。
これほどまでに先の読めないスーパー戦隊は初めてのことである。賛否あるだろうが、歴史に名を残すことは間違いない。泣いても笑っても残り2ヶ月。最後まで楽しませてもらいたい。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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