2023年1月8日放送『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』ドン43話「トキかけナゾかけ」(監督:田﨑竜太 脚本:井上敏樹)をレビュー
天才漫画家として華々しい道を歩んでいた鬼頭はるかが転落してしまった理由。それはウサギの着ぐるみを被った謎の漫画家・椎名ナオキのせいだった。
椎名ナオキのせいで、はるかは盗作者のレッテルを貼られ、漫画界を追われてしまったのだ。
一度は直接の漫画対決を挑むが、完敗。しかし、負けたことより、二人の絵柄がまるで同一だったことに疑問を持つ人も多かったはずだ。
今回、その謎がついに明かされる。
ネタバレも含むが、最後までおつきあいいただければ幸いだ。
※本記事で使用している画像は、引用元の記載のないものは全て『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』より引用している。
犬塚を救った者
指名手配を解かれた犬塚 翼/イヌブラザー(演:柊太朗)だったが、迷い込んだ獣人の森からどうやってこちらの世界に戻ってこられたのか、それについては一切の記憶を失っていた。
しかし、街でチラシ配りをしているクマの着ぐるみを見かけた途端、獣人の森での記憶が蘇る。
蔓で縛り上げられていた犬塚を助けてくれたのは、ウサギの着ぐるみだった!
このことを思い出した犬塚は、どういうわけか一目散に喫茶どんぶらに向かい、マスター・五色田介人(演:駒木根葵汰)から紙とペンを借りて下手くそなウサギの絵を描き始める。いや、耳が長いからおそらくウサギだろうとは思うけれど、お世辞にも上手いとは言えない絵だ。しかし、それを見た鬼頭はるか/オニシスター(演:志田こはく)は即座にそれが漫画家「椎名ナオキ」であると理解する。
ちなみに犬塚が縛り上げられた蔓を切る際に使った刃物はデザインカッターと呼ばれるもので、漫画家がスクリーントーンを切ったり削ったりする際に使用するものだ。犬塚はそんなことには気づいてもいなかったのだが、こういう画を入れておくことで、あのウサギの着ぐるみはどうやら漫画家であり、だとすれば椎名ナオキで間違いなさそうだと視聴者に印象づけておくことはできただろう(デザインカッターを知っているという前提は必要だが)。
椎名ナオキの家や仕事場を知っているはずもない二人は、一か八か出版社前で待ち伏せることに。すると、狙い通りに姿を現す椎名ナオキ。犬塚に声をかけられると、慌てた様子で逃げ出す椎名ナオキ。追いかける犬塚とはるか。
そこに、いつもとは少し雰囲気の異なるドンムラサメも現れ、椎名ナオキを追いかけ始めるのだが、さらにもう一人のドンムラサメも現れる。こちらはいつものドンムラサメだ。マザー(声:能登麻美子)は、最初に登場したムラサメを「存在してはいけない者」だと言う。そういえば、最初のムラサメはマザーの指示を仰いでいない。完全に単独行動しているように見える。
椎名ナオキの正体
大混乱の中、椎名ナオキの被り物が外れ、中の人が露わになる。
椎名ナオキの正体、それは未来の世界からやってきた鬼頭はるかだった。
ドンブラザーズとして戦い続けることに疲れてしまった未来のはるかは、自身が漫画家として売れっ子だった時代に戻りたいと望んだのだという。ただし、それは永続的な願いではなく、あくまでも休暇として。
そこでキビポイントを使って過去へと飛ぶのだが、時空が混乱して今のはるかが存在する時代にやってきてしまったらしい。デビュー作『初恋ヒーロー』で天才漫画家の名を欲しいままにしていたはるかと共存することになった未来のはるかは、どうしても売れっ子漫画家としての生活を取り戻したかったのだろう。ウサギの着ぐるみを被って、椎名ナオキとして活動を始める。それによって、現代のはるかは売れっ子漫画家から一転、“盗作者”という汚名を着せられてしまったわけだ。漫画のタッチが似ているのも、同一人物であれば当然のことだろう。
盗作問題についてツッコまれた未来のはるかは現代のはるかに「すみません。成り行きで・・・」と謝ったが、少し考えてみれば、自分が売れっ子漫画家として活躍するために、過去の自分を蹴落としたということになる。
それにしても、「成り行きで・・・」という言葉は便利だ。とりあえずこう言っておけば誤魔化せてしまう、というか、「それ以上聞くなよ。察しろ」といった意味が込められているように思う。全てを言葉で表現するのではなく、お互いに空気を読み合うようなところは、非常に日本的な感じがして興味深い。
もう一人の未来人
さらにもう一人、未来からやってきた人物がいる。猿原真一/サルブラザー(演:別府由来)である。
いつもの質素な作務衣ではなく、やけに煌びやか。こうしてオシャレな格好をさせると、普通にイケメンなんだなと思う。素材の良さを活かすも殺すも、味付け(この場合は装飾と言って良いかもしれない)次第というわけである。しかし、首に巻いたネジネジは変わらない。もはや、このネジネジこそが猿原本体であるかのような普遍性を感じる。
この未来の猿原は、はるかを迎えに来たらしい。しかも二人は恋人同士。さらに桃井タロウ/ドンモモタロウ(演:樋口幸平)に対しては憎しみを抱いている様子だ。未来で何事かがあったらしい。
それでいて、「いつでもどこでも、変わらないな…キミは」と言うのだから、今もこの先も変わらぬタロウと、変わってしまったドンブラザーズの面々との間に何があったのかは興味深い。いずれどこかで明かされる機会があるかもしれないが、おそらくはどうでもいいことだろう。なんて書くと、「ディスってる」と思われるかもしれないが、そうではない。「どうでもいい」とか「くだらない」というのは、『ドンブラ』らしさを賞賛する言葉だ。ファンは、そのしょうもない感じを熱望しているはずだ。
ところで、ここで名言が飛び出す。
「夢よりも目の前の現実の方がずっと大事だ」とド正論を説くタロウに、「キミは夢を持つほど不幸ではない。だから幸せを知らない」と、少し寂しそうに語る猿原(未来)。
言われたタロウは、「意味がわからない」と突き放すが、その後のバトルでソノイに「お前には夢があるか?」と問いかけている。どうやら、引っかかってはいるようだ。
ソノイ※画面右
富永勇也
桃井タロウは、なんでもできるがゆえに一般人の感覚がわからない。だから彼のこれまでの人生は孤独に彩られていたのである。本作は、そんな超人・桃井タロウが、極々普通の人たちとの触れ合いの中で、人として成長する物語でもあったはずだ。この終盤において、それが再提示されたことは興味深い。このまま伏線回収など放り投げて終わってしまうかもと思われていただけに、ラストに向けて期待の持てる展開となった。
ゴールドンオニシスター爆誕
これまで、強化フォームとして登場していたのはオミコシフェニックスを使ったゴールドンモモタロウだけだったが、今回、未来から来たはるかがゴールドンオニシスターに変身する。
胸部にサングラス型のプロテクターが装着され、背中にはマントがひらめく。よく見れば、頭のツノも通常のシルバーからゴールドに変わっている。
実は、このように女性メンバーで主人公と同等の専用装備が与えられるのは、47年もの歴史を持つスーパー戦隊史上初の出来事。これまでにもスーパーシンケンジャーなど、女性メンバーが強化装備を身に纏うことはあったが、あれはそもそも誰でも使えるものだったため、今回とはまるで違う。
物語当初から、実は本作の主人公と目されていたはるかなので、この特別待遇には納得しかない。
それでいて、良い話風に終わるのかと思いきや、結局、盗作問題は解消されずに終わるなど、相変わらずの扱いを受けるはるかの姿にも納得しかない。
ただし、未来のはるかが最後に残した「私の漫画の中に・・・」という一言が引っかかる。まだ何か大きな謎が残されているのだろうか? 次回は44話にしてようやくイヌブラザーの正体が発覚するらしい。本当に、とんでもない戦隊ヒーローである(褒め言葉)。
それでは、ここまでおつきあいいただきありがとうございました。
\ 僕と握手! /