2022年4月17日放送『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』ドン7話「せんせいのむれ」(監督:加藤弘之 脚本:井上敏樹)
「神回」とは言わない。
しかし、今後の展開を示唆するような重要な回だった。
それも、新しい強敵が登場した、とかそういったわかりやすいものではない。
桃井タロウという超人の超人たる所以を際立たせることで、一般人でしかない他のメンバーとの差を見せつける。
そして、唯我独尊に見えるタロウの何気なく発した一言で、他のメンバーとの絆をも感じさせる。
マジで凄まじい脚本である。
ぼんやり眺めていると、ただわちゃわちゃしているだけのお笑い回にも見えるが、実は巧妙な伏線が張られている。
本記事では、その伏線について私の見解も交えながらレビューしてみたい。最後までおつきあいいただければ幸いだ。
キャスト
ここでは今回のキャストをご紹介。本作初登場でウィキペディアに記載のある方についてはリンクを貼っておくので、他の参加作品なども是非チェックしていただきたい。
なお、ここで使用している画像は全て『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』より引用している。
桃井タロウ/ドンモモタロウ
樋口幸平
猿原真一/サルブラザー
別府由来
鬼頭はるか/オニシスター
志田こはく
犬塚 翼/イヌブラザー
柊太朗
雉野つよし/キジブラザー
鈴木浩文
五色田介人/ゼンカイザーブラック
駒木根葵汰
ソノイ
富永勇也
ソノニ
宮崎あみさ
ソノザ
タカハシシンノスケ
校長
男子生徒:稲垣政成 ・ 犬飼直紀 ・ 渡口和志 ・ 増田怜雄 ・ 助川優真
女子生徒:新嘉喜由芽 ・ 内田未来
猿原先生と桃井先生
はるかが通う高校「津野角高等学校」。
「ツノツノ」とは、完全にオニ推しだが、この学校では週1回、町の人を特別講師として招く特別授業が開かれているらしい。
はるかはこの授業が好きなようだが、ここに招かれたのが猿原真一と桃井タロウ。
相変わらず独特な世界観を語る仙人のような猿原とタロウ。
中でも、ジャンケンで負けたから仕方なく来たと傲慢な態度を取り続けるタロウには、生徒たちも反発する。
空手部主将の秦野は、学校のイスを正拳突きでぶち抜くという技を披露し、タロウをビビらせようとするが、何重にも重ねたイスを手刀で粉砕するタロウに「参りました」とあっさり降参する秦野。
学校の所有物を使い物にならなくしていることに意義を唱える者はいない。
続いて、将棋部部長の鈴木も勝負を挑むが、将棋は子どもの頃に一度だけやったことがあるというタロウに完敗。
完璧超人は健在。タロウの文武両道ぶりを見せつける。
校長先生から生まれたヒトツ鬼
今回のヒトツ鬼は、規律にうるさい津野角高校の校長が持つ「規律を学ばせたい」という欲望から誕生する。
この「規律を学ばせたい」という表現は、公式サイトの記載をそのまま引用しているのだが、この字面だけみると、これの何が欲望なのかと思ってしまう。「ルールは破るためにある」というのは、よくある悪役の台詞だが、大抵、こういう人は「俺がルールだ」とか、「それが俺のルールだ」みたいなことも言い出すから始末が悪い。
実は誰にだってルールはある。
朝起きたら歯磨きをする、といった毎日のルーティーンだって個人のルールだろうし、靴は右足から履く、とか、お風呂に入ったら右腕から洗う、といったこともルールと言えるかもしれない。
要するに、みんなルールに縛られて生きているのだ。ただ、誰かが決めたルールに従うのが面白くないのだ。
その気持ちは痛いほどわかる。私も、別に尾崎 豊さんのファンではないけれど、学校や教師というだけで反発していた時代があった。
しかし、学校や会社のように大勢の人が集まる場所で、各々が好き勝手をやっていたらメチャクチャになってしまうことは、ちょっと考えれば誰にでもわかる。だからルールは必要だし、そのルールにうるさい人がいることは組織にとって悪いことではない。
この校長もそうである。誰よりもルールにうるさい校長がいるから、助かっている教職員というのもいるはずなのである。
ところが、この校長の場合は度を超えている。規律を学ばせたい、のではなく、規律で人を縛るのが好きなのだ。「虎の威を借る狐」みたいなもので、「常識」とか「規律」といった誰かが決めたことでダメ出しをすることに快感を覚えるのだろう。
だからこういう人は、ルールを破る人は嫌いだと言いながらも、内心ではどこかそういう人の存在を喜んでいるようなところがあるし、もしも全員が規律正しい生活を送っていたとしたら、それは全て自分の手柄だと思うようなところもある。
こう考えると、「規律を学ばせたい」という言葉の裏に欲望が隠れている、ということは正しいのかもしれない。
ヒトツ鬼の名は「地球鬼」。ネーミングも顔も地球儀そのもの。モチーフは『地球戦隊ファイブマン』だ。規律と地球に共通点はなさそうだが、ヒトツ鬼の宿主が校長であることと、全員が教師という設定の『ファイブマン』をリンクさせたのだろう。スキン・地球テクターは、『ファイブマン』の強化プロテクター・ファイブテクターが元ネタとなっている。
地球鬼
身長:191cm
体重:229kg
スキン:地球テクター
必殺の「桃代無敵・アバター乱舞(モーモタロ斬♪モモタロ斬♪でおなじみの必殺奥義。もはやモモタロ斬でいいのでは?)」で倒されると、巨大化し、地球鬼ングとなる。
モチーフは『ファイブマン』に登場した巨大ロボ「マックスマグマ」。頭部を火山の山頂に見立て、マグマが噴き出している。
地球鬼ング
身長:51.1m
体重:2095.1t
スキン:マックス火山
それにしても、昔のスーパー戦隊では、人間サイズの怪人がそのまま巨大化するだけだったのに、今ではこうして巨大化したときには別の姿が用意されている。なんとも贅沢だ。
オトモの資格
特別授業の中で、「仲間はいない」と答えたタロウに、「じゃあ、私たちとの関係は?」と迫る猿原とはるか。
迷うことなく「オトモだ!」と即答するタロウ。
憮然とする猿原と、「知ってた」とばかりに苦笑するはるかとのやり取りは、ここで細かく書くよりもテンポ良く展開する本編をお楽しみいただきたいが、ここまでのやり取りだけ見ると、まるでタロウがオトモと呼んでいる猿原たち4人を卑下しているように見える。
確かに格下だと思っていることは間違いない。
それは、「何故オトモの私たちに襲いかかったりするんですか?」と聞くはるかに、「足手まといにならないよう、鍛えてやっている」と答えたところからも明らかだ。
何をしても完璧にこなす完全無欠の超人・桃井タロウからすれば、他の人たちは取るに足らない存在に見えてしまうのかもしれないが、傲岸不遜な態度を取り続けるタロウに不快感を覚えるのは、猿原だけではないだろう。視聴者の中にも、不快感を覚える人もいるかもしれない。
しかし、ソノイとの戦いの中で、その印象にヒビが入る。
自分と互角以上の戦いを見せるタロウに、「仲間にならないか? 召使いくらいなら使ってやる」と囁くソノイに対し、「お前はオトモにもならん!」と高笑いするタロウ。
つまり、タロウにとって、他の4人の仲間たちというのは、「オトモと認めた」4人なのだ。誰でも彼でもオトモになれるワケではないらしい。
今は足手まといかもしれないが、共に戦うだけの資格はある、と思っているのだ。
こういったさりげない一言にグッと来る。
最後にもうひとつ。
特別授業の中で、猿原に「キミには友だちがいるかな?」と聞かれたタロウが、「それが人と人との良い関係なら、いつかは欲しいと思っている」と答える。
今は友だちと呼べる存在はいないのかもしれない。こんな性格だったら、仕方ない、とも思う。
しかし、戦いを続けていく中で、「オトモたち」が「お友達」へと変わる瞬間が訪れるはずだ。
主人とオトモという5人組として描かれる『ドンブラザーズ』は、殿と家来という関係性を描いた『侍戦隊シンケンジャー』を彷彿とさせるが、桃井タロウ以外は普通の人たちである。身分の違いはあれど、全員が幼い頃から侍として育てられたという『シンケンジャー』とは明らかに異なる。
作風も、主題歌のタイトル「俺こそオンリーワン」が「俺こそナンバーワン」でなかったことから読み取れるように、もっと個々を際立たせたものとなっている。ここでいう「俺」とは、パッと見は桃井タロウのことのようだが、他の4人も含んだ表現だと勝手に思っている。
背格好がバラバラなのも、多種多様な人たちが集まる一般的な世界を表現しているのだろう。大きな人も小さい人も、肌の色や髪の色が違う人もいる。その中でどの人が優れているとか劣っているとかではなく、全員がオンリーワンの存在なのだという強いメッセージを感じる。
おそらくは、今は桃井タロウという超人と比較して、「自分なんて・・・」と落ち込む他の4人も、いつしか自分だけの価値に気づくことだろう。まるでSMAPの「世界に一つだけの花」みたいな素敵な物語を、スーパー戦隊という子どもたちにも理解しやすいフォーマットで描いている意欲作だ。
子どもたちだけでなく、自らの価値を見失っている大人たちにも見て欲しい作品だ。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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