『仮面ライダーセイバースピンオフ 仮面ライダーサーベラ&仮面ライダーデュランダル』(監督:柏木宏紀 脚本:金子香緒里)をレビュー
「神代玲花 結婚!」
東映の特撮番組を楽しむVODサービス「TTFC(東映特撮ファンクラブ)」に、そんな衝撃的な文字が踊ったのは、2022年10月のことだった。
神代玲花といえば、令和ライダー第2弾『仮面ライダーセイバー』に登場したキャラクターで、兄・神代凌牙に心酔する極度のブラコン美女。「お兄様」と兄を見つめる視線は、まるで恋に恋する乙女のよう。このクセの強すぎるキャラを演じたのは、人気モデル・アンジェラ芽衣さん。
ついに、兄と妹という禁断の一線を乗り越えたのだろうか? いやいや、流石にそんなインモラルな展開はありえまい。かと言って、玲花が兄以外の男になびく姿も想像できない。それではいったい、どういうことだろうか? ひょっとしたら、アンジェラ芽衣さんがご結婚されることになり、それをTTFCなりに祝福したら、こういう表現になるのか? とも思ったりもした。
その答えは、2022年11月20日に明かされた。ようやく配信開始された本作を、ネタバレ込みでレビューしてみたい。最後までおつきあいいただければ幸いだ。
キャスト
ここでは本作のキャストをご紹介。
ウィキペディアに記載のある方についてはリンクを貼っておくので、他の参加作品なども是非チェックしていただきたい。
なお、以下で使用している画像は全て『仮面ライダーサーベラ&仮面ライダーデュランダル』より引用している。
神代玲花/仮面ライダーサーベラ
アンジェラ芽衣
神代凌牙/仮面ライダーデュランダル
庄野崎 謙
御手洗るい/天邪鬼メギド
矢崎 広
尾上 亮
生島勇輝
尾上そら
番家天嵩
尾上晴香
中島亜梨沙
配膳女性
宮本侑芽
幼い玲花
アレン明亜莉クレア
緋道 蓮
富樫慧士
玲花のお見合い
物語は、凌牙が玲花の見合い話をもってきたところから始まる。
お相手の名は御手洗るい。不慮の事故で命を落とした御手洗家当主の遺言で跡を継ぐことになった甥っ子らしい。いいところの御曹司と、気の乗らない美人との見合い話というのは、よくある展開である。
実直そうな御曹司と、露骨にやる気のない玲花とのお見合い。御曹司は、名家の出にも関わらず、驕り高ぶる態度を微塵も見せない。むしろ腰の低ささえ感じさせるナイスガイだ。
一方、玲花は自宅のソファで寛いででもいるかのようなラフな姿勢に、しゃくれた変顔で終始ダルそうである。わざと無作法に大食いを演じてみたり、コント赤信号の渡辺正行さんばり(若い世代は知らないだろうが)にコーラを一気飲みしてゲップしてみたりと、悪い方向に印象操作しようという意図がダダ漏れ。
そこでも、「無理強いはしません」と宥める御曹司のいい人ぶりが際立つ。家と家、という政略よりも玲花の気持ちに配慮する。その上で、そっと渡す婚約指輪の破壊力は絶大。玲花は迷いながらも、結婚を決意する。
自分が持ってきた見合い話とはいえ、いざ「結婚します」と妹から言われると複雑な表情を見せる凌牙。娘を嫁にやる父親の気持ちみたいな複雑な感情を、庄野崎さんが見事に演じている。
そんな時、凌牙の元に、きな臭い話が舞い込んでくる。武者修行中の蓮がメギドに遭遇したらしいのだが、倒した際、気になるものを落としていったらしい。それは1本の万年筆。軸には家紋が描かれている。
結婚式当日。
るいは、晴れ晴れとした表情で、一人ピアノを弾いている。
そこに現れた凌牙。その表情は暗い。
蓮が倒したメギドが落とした万年筆に描かれた家紋。それが、御手洗家当主の持ち物だったからだ。不慮の事故で命を落としたと思われていた御手洗家当主は、権力を欲したるいが、サウザンベースから持ち出したアルターブックで生み出したメギドによって命を奪われていたのだった。
その事実を突きつけられたるいは、悪びれることなく、凌牙を拘束する。
権力のため、メギドと融合し、遺言書を偽造した上で叔父をも殺したるいと、何も知らない玲花の結婚式が始まる。
爆炎のライスシャワー
式が始まる。
新郎と新婦、二人きりのチャペル。そこには神父さえいない。
ウェディングドレスに身を包んだ玲花が、ただひたすらに美しい。
誓いのキスを交わそうとした刹那。
「ちょっと待ったぁ!」
荒々しく開かれるチャペルの扉。
名作映画『卒業』を彷彿とさせる演出。そこに立っていたのは、ベンジャミン(ダスティン・ホフマン)ではなく、神代凌牙(庄野崎 謙)。玲花の前で暴かれる、るいの本性。
るいの能力で、チャペルからいつもの岩場へと場面転換。
次々と上がる爆炎の中を駆け抜けるデュランダルとウェディングドレス姿の玲花。このミスマッチがたまらない。
ここでメギドとしての姿を現するい。天邪鬼メギドは、『セイバー』TV本編に登場したゴブリンメギドのリメイクのようだ。
デュランダルとサーベラ、久々の共闘は、これまでとはかなり趣が異なる。より、二人がかり感が高まった印象だ。アクション監督が渡辺 淳さんから藤田 慧さんに代わったこともあるだろうし、何より、『リバイス』を挟んだことで、バディアクションというものが磨き上げられたように思う。
中でも、サーベラが天邪鬼メギドの攻撃を抑え込んでいる背後からデュランダルが剣を一閃。その刹那、サーベラの身体が煙となって、デュランダルの剣がメギドを切り裂くという演出は見ものだ。
変わりゆく人々
TV本編では、飛羽真たちと共に戦い始めてからも、どこか蚊帳の外というか、兄妹二人だけの閉じた世界に身を置いていたように見えた神代兄妹だったが、本作では、妹の結婚について尾上に相談を持ちかけたり、蓮から電話がかかってきたりと、凌牙の境遇にも大きな変化が見られる。
二人だけで生きてきた時間が長かったからこそ、いつしか玲花のことを、一人の人間というより、いつまでも自分が守らなければならない存在としか考えられなくなっていたのだろう。一人の女性としての幸せを考える一方で、自らの寂しさに苦悩もする。そんな凌牙の人間臭さが上手く表現されていたように思う。
見合いの席でデザートを持ってきた配膳係(玲花が大好きな『機界戦隊ゼンカイジャー』に登場したマジーヌの声優さん)の声に過剰に反応する、変わらぬミーハーな一面も見せる玲花も、これまでのように兄に全てを委ねるのではなく、自らの意志を示そうとする姿が見られる。
玲花が凌牙を先導しようとするラストシーンに、全ては集約されている。
高々20分程度の作品だが、これまでに公開された『セイバー』のスピンオフの中では全然悪くない。『深罪のトリオ』は確かに見応えはあったが、詰め込みすぎたおせち料理のようで、細かい部分の粗が気になってしまった。むしろ、このくらいの登場人物に絞った上で、肩の力を抜いた作りにしてくれた方が、隅から隅まで楽しめる感じはある。ただし、肩の力が抜けている分、何度見返しても新たな発見がある、といったことはないけれど、これを見て細かいことに目くじらを立てる人は少なそうだ。
懐かしいキャラクターたちの変わらぬようで変わった姿に目を細める人も多いだろう。
乳歯の抜けたそらを見ると、子どもの成長の早さを感じる一方で、あっという間に我々の知るそらではなくなっていくのだろうと、妙な寂しさを覚える。
そして、蓮が見せる落ち着いた演技は、確かな存在感を示す。TV本編後半では、今のような地に足のついた演技を見せてくれるようになったものの、初登場からしばらくは妙な軽さばかりが目についていた、あの蓮を思えば、隔世の感がある。本編終了後のスピンオフには、こういった楽しみもあるわけだ。
本作を視聴するにはTTFCに入会する必要がある。毎月960円(税込)は決して安くはないけれど、仮面ライダーもスーパー戦隊もメタルヒーローも見放題。季節ごとの会報(入会期間によっては完全無料!)まで貰えてしまうので、個人的にはウルトラシリーズが見放題になるTSUBURAYA IMAGINATIONよりも割安な印象は強い。気になる方は、以下の記事もお読みいただきたい。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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