1977年5月4日放送『快傑ズバット』第14話「白羽の矢 涙の別れ」(監督:小西通雄 脚本:長坂秀佳)
令和の今も続く、悲しい世界の現実をえぐるような物語。最後までお付き合いいただければ幸いだ。
キャスト
ここでは今回のキャストをご紹介。本作初登場でウィキペディアに記載のある方はリンクを貼っておくので、他の参加作品も是非チェックしていただきたい。
【キャスト】
快傑ズバット/早川 健:宮内 洋
飛鳥みどり:大城信子
寺田オサム:中野宣之
美登:遠藤真理子
繁樹:立花直樹
赤耳:藤山浩二
甚十郎:加地健太郎
美登の母:槇 ひろ子
町の人:田口 弘 ・ 細沼 茂 ・ 高橋ナナ子
首領L:はやみ竜次
ナレーター:青森 伸
東条進吾:斉藤 真
ヒヒ大権現
早川が訪れた村では、「ヒヒ大権現」という神様に生贄として若い娘を差し出すという奇習が行われていた。
もちろん実際には、そんな神様などいるわけもなく、赤耳一家というヤクザが、“神の使い“と名乗っているだけである。ヒヒとは、言うまでもなく猿の仲間である。マントヒヒなどが有名だろう。今はほとんど聞かないけれど、昔はエロじじいのことを「ヒヒじじい」などと呼んでいた。若い娘を狙うということから、「ヒヒ」の名をつけたことは容易に想像ができるけれど、興奮して顔を赤らめてる様がヒヒっぽいとか、歳をとって顔がシワシワなのがヒヒっぽい、なんて連想をされるのは、なんだかヒヒがかわいそうである。
「ありがたやー」「ありがたやー」と口々に唱えて町を練り歩く赤耳一家。その昔、“ありがたや教”という、今でいうところの新興宗教があったという話を思い出す。
ボス・赤耳のかけ声と共に、どこからともなく降り注ぐ白羽の矢。なんだが、大きさが尋常ではない。マツコ・デラックス並みにデラックス。
その矢に選ばれたのは、美登というひとりの女性。美しい人である。おそらくミス村人くらいにはなれそうだ。
その美登を助けようと、繁樹という男性が駆け寄る。怒った赤耳は、二人を河原に連れ出して制裁を加えようとするのだが、そこにいつものギターが鳴り響く。私立探偵・早川 健の登場である。
用心棒は“殺し屋カーペンター”
赤耳一家の用心棒が、殺し屋カーペンター・甚十郎。要するに大工。大工道具と、大工として培ってきた技術を使って人を殺すというのだろうか?
いつもどおり、その道(殺し屋カーペンター界隈)では自称日本一の腕前。世界のどこを探しても、他に殺し屋カーペンターと名乗る人がいるとは思えないので、つまりはトップ・オブ・ザ・ワールドだとは思う。天上天下唯我独尊状態。
そんな殺し屋カーペンターを「大工の腕前は日本じゃあ2番目だ」と、いつもどおりディスる早川。
資材置き場のような場所に移動して勝負開始。
先攻の甚十郎は、次々に木材を切断し、加工する。そのスピードは疾風。さらに、加工した木材をポイポイと放り投げると、それらが勝手に組み上がって、何かを作り出す。まさに神業である。
完成したのは拷問台。縛り付けられた美登が身動きをすると、大量に釘が打ち付けられた板が突き刺さってしまうらしい。殺し屋カーペンター、まわりくどすぎだろう。
対する早川は、拷問台を機能させないためのつっかえ棒を4組作る。こちらも光速。それを使って美登を救い出した後、代わりに甚十郎を拷問台に乗せてしまう。
「助けてくれー」と叫ぶ甚十郎が哀れだ。
決戦!赤耳一家
早川によって救い出された美登だったが、このままでは村の人たちに迷惑がかかると、自ら人身御供となる決意をする。「一緒に逃げよう!」とどさくさに紛れて告白する繁樹の気持ちを嬉しく思いながらも、その決意は固かった。
問題のヒヒ大権現を騙る赤耳は、こうして捕らえた美少女を密輸出して外国の金持ちから金をむしり取っているらしい。こんな寂しい山間の村で美少女を探すとは、なんとも非効率的なやり方である。
こんな奇習は潰してやろうと、赤耳一家のアジトに単身、殴り込みをかける早川だったが、見も知らぬ村人を人質に取られ、思いっきりボコられる。
そうしている間に、美登が生贄としてヒヒ大権現に差し出されてしまう。しかし、美登が押し込められたつづらを開けると、中から現れたのは早川。ミスターマリックもびっくりのイリュージョン。あ、マリックはハンドパワーか。
おまけに散々ボコられた傷もすっかり癒えている。仙豆でも食べたのかもしれない。
そして、ズバット参上。
「ヒヒ大権現の名を騙り、若い娘を次々と誘拐して売り捌き、あまつさえ多くの人を殺めた赤耳、許さん!」
甚十郎も敗れ、自家用車で逃げ惑う赤耳をズバッカーで追い詰めるズバット。
最後はズバット・アッタァック!でトドメ。技の途中で繰り出すきりもみ回転がカッコいい。
他人の悲しみを知ればこそ
今回の悪党は人身取引で金儲けをするというなかなかエグい内容だったが、今どき、仮面ライダーやスーパー戦隊で取り扱ったら、きっとクレーム案件になってしまうんだろう。
しかし、世界全体で見れば、人身取引なんて今でも当たり前に行われている問題なのだ。少し前のデータになるが、「GLOBAL REPORT ON TRFFICKING IN PERSON 2016」によれば、2012年から2014年の間に、人身取引における被害者は、106の国で63,251人も確認されたとあった。この人数を多いと思うか少ないと思うかは人それぞれだが、確認はされていないが行方不明というケースだってあるだろう。つまり、身近に見えていないだけで、確実に存在する問題なのである。
『快傑ズバット』主演の宮内 洋さんは以前、「特撮ヒーロー番組とは、子供たちに正義の心を教える教育番組に他ならない」と語っていた。
これは、子供たちに正義のヒーローのカッコいい姿を見せるだけで良いということだろうか? 断じて違う。悪いことを見せて、それを見て心がざわつく感覚を覚えさせ、その上で悪を打ち砕く。これらが全部あって、ようやく1セットだろう。
それなのに、最近の「臭い物に蓋をする」風潮はどうだろう。「子供には見せたくない」として、あれもダメ、これもダメ。私も子を持つ親として、もちろんなんでもOKとは言えないところはあるけれど、見せなくて良いものと、目を背けてはいけないものというのはあると思う。悲しい現実があることを知り、辛い立場にある人たちの存在を認識することで、人は優しくなれるのだ。
『快傑ズバット』は、かれこれ40年以上も前の作品なだけに、色々と古臭いし、特撮技術も随分とチャチである。見ていて失笑してしまうようなネタも多い。しかし、ヒーローをヒーローたらしめんがために、目を背けてはいけない問題をきちっと取り上げている。
だからこそ、今改めてこういった作品を見返してくれる人が増えて欲しいと切に願っている。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。