1977年5月11日放送『快傑ズバット』第15話「哀しき母の子守唄」(監督:小西通雄 脚本:長坂秀佳)
これでもかというほどのミニスカートで、しかも悪党の用心棒。そんな女傑が命を狙っていたのが、別れた母親だったとわかった時、彼女は・・・?
いつにも増して時代劇テイストの強いエピソードをレビュー。4つの見どころに絞って解説してみたい。最後までおつきあいいただければ幸いだ。
キャスト
ここではキャストをご紹介。本作初登場でウィキペディアに記載のある方についてはリンクを貼っておくので、他の参加作品も是非チェックしていただきたい。「え? あの人?」といった発見があるかもしれない。
【キャスト】
快傑ズバット/早川 健:宮内 洋
飛鳥みどり:大城信子
寺田オサム:中野宣之
すえ:新村礼子
ウルフガイ:金井進二
駒太夫:佐藤久美子
おかみさん:星野晶子
おやじさん:高杉哲平
子供たち:清水大介 ・ 道祖士 勝 ・ 藤木武司
首領L:はやみ竜次
コマ指導:やなぎ女楽
ナレーター:青森 伸
東条進吾:斉藤 真
オオカミ婆さん
大勢の人たちが行き交う商店街をジープで爆走し、奇声を上げて拳銃を乱射する。ここは本当に日本だろうか? と不安になるような光景である。この『北斗の拳』のジードのような連中は、「狼党」というグループで、今回の舞台となる町を牛耳っているらしい。旗に描かれたオオカミが、やけにかわいらしくてマヌケである。
日々繰り返される狼党の暴挙に怯える人々。そんなとき、「狼党が来るぞー!」と叫んだ一人の老婆。慌てて逃げ出す人々だったが、ただのトラック。これは単なる勘違いだったようだが、この老婆、町では“ホラ吹き”と噂されていた。彼女の名は「すえ」。
アメリカのハーバード大学を主席で卒業した一人娘がいるとあちこちで吹聴しているが、実はただの家出しただけであることを、町の誰もが知っていた。
有名なイソップの寓話に「オオカミ少年」というのがあるが、アレの婆さん(というほどの年齢でもなさそうだが)バージョンという感じの味付けなのだろう。いつの間にか、誰もすえのことを信じなくなってしまっていた。小さな子どもたちにまで嘘つき呼ばわりされ、石を持って殴りかかろうとするシーンに、やるせない孤独感が滲む。
町で孤立するすえが気になった早川は、一人娘の写真を見つめて涙を流すすえを見かける。どうやら娘の名は「駒子」というらしい。寄り添おうとする早川だったが、すえは決して心を開こうとはしなかった。
用心棒・駒太夫との対決
狼党の用心棒が、駒太夫。
その名のとおり、曲独楽(キョクゴマ:曲芸用のコマのこと)の達人で、デビルマンみたいなメイクをしているが、なかなかの美人さんだ。コマよりもパッツパツのミニスカートの方が気になる。
しかし、いかにコマの達人とはいえ、所詮コマである。こんなものでどうやって敵を倒すのかと思っていたら、本当にただの曲芸でしかなかった。
リアルでこんなことができたら、それは確かに凄いことだけれど、こんなもので人を傷つけたり、守ったりできるのか大いに疑問である。用心棒を名乗るなら、コマはコマでも「炎のコマ」くらいの芸当はできて欲しい。「インベーダー」の“名古屋打ち”くらいにしか使えないとしても、とりあえず火が出れば“こけおどし”くらいには使えるだろうし、猛獣も逃げ出してくれる・・・かもしれない。
実際、いつもの日本一対決でも、ただの曲駒止まりだった駒太夫の技に対し、早川はきちんと周りの黒服(ザコ)たちに攻撃を加えている。コマの動き一つ見たって、伝統芸の延長線上にある駒太夫に対し、早川は人間離れしている。「ボルテスV」の超電磁ゴマくらいの異次元感がある。
子守唄が呼び覚ます記憶
ある晩、すえは狼党が一人の男を銃殺するのを偶然見かけてしまい、命を狙われたところを早川に救われる。
そこに現れた駒太夫と、すえが持っていた駒子の面影が重なる。すえが駒太夫の母であることを告げる早川だったが、意固地になってコマを投げつけてくる駒太夫。もはや曲駒関係なし。「バカヤロウ!」と早川が弾き返したひとつのコマが直撃し、駒太夫は気を失ってしまう。
倒れた駒太夫を介抱するすえが、ふと口ずさんだ「ねんねこさっしゃりませ」という子守唄。これは主に中国地方で歌われるものらしい。幼い日の思い出が蘇り、涙を流す駒太夫。親子の心が通じ合った瞬間だ。
そこへ東条刑事が訪れる。聞けば、すえが駒太夫を家に匿っていることを町中の人たちが知っているらしい。荒唐無稽のようにも聞こえるが、田舎あるあるだ。近所の人たちが、まるで家族のように、その家の事情を知っていたりする。私だったら耐えられないが、実際にそういう地域というのは、今も日本のあちこちに存在する。
とにかく、そのせいで狼党の怒りを買うのじゃないかと町の人たちが不安に駆られているらしく、だから、すえと駒太夫を警察で保護しようというらしい。そんな話を聞いて、すえは家を飛び出す。狼党に、この町の人たちに迷惑をかけないで欲しいと頼みに行くという。完全なる自殺行為だ。
ウルフガイ
狼党のボスが、ウルフガイ。
軍服姿で顔は白塗り。どことなく、怪談師・恐怖新聞健太郎さんを想起させる風貌である。
このウルフガイ、悪の大組織ダッカーの首領Lにこれでもかとなじられる。「殺人現場をババアに目撃され、その上、駒太夫にまで裏切られるとは何事だ!」「お待ちください首領L!あのババアめは既に捕らえて、牢へぶち込んであります!」妙なメイクを施した男二人が“ババア”を連発するところは笑えるが、やはり、すえは捕らえられていたようだ。
母を助けようと、狼党のアジトへと走る駒太夫。それを追う早川だったが、すえを人質に取られているため手出しができない。ボコられた上、縛られて、すえ共々時限爆弾で始末されそうになる。ウルフガイは、狼党を率いて、町を焼き払いに向かう。『ズバット』に登場する悪党は、悪の大組織ダッカーのために働いているはずなのだが、この狼党はただ暴れ回っているだけである。夜の校舎で窓ガラスを壊して回るのとなんら変わらない。全然ティーンエイジャーには見えないけれど。
その窮地を脱した早川は、ズバットスーツを身に纏い、ウルフガイたちの前に立ちはだかる。
「町の人々を殺し、あまつさえ町中に火を放って焼き払おうとした狼党ウルフガイ、許さん!」
最後はお決まりのズバットアッタァック!でトドメだが、途中、取り巻きが次々と倒され、逃げ出そうとしたウルフガイが乗り込んだジープを、ムチ1本で引っ張って動きを止めるシーンにはシビれた。「プロレススーパースター列伝」で、止まっているバスを引っ張ったブルーザー・ブロディを遥かに凌ぐ超パワーである。
それにしても、やっぱりジープってカッコいい。空力や、快適性などは現代のクルマと比べるべくもないけれど、どんな道でも走れてしまうような頼り甲斐があり、汚れてもカッコいいという、使い倒される道具に徹したデザインは今見ても魅力的。
ちなみに、キャストの欄にある「おやじさん」役の高杉哲平さんは、この記事を執筆している2022年1月3日時点で101歳だそうである。人生100年時代を、まさに体現しておられる。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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