1977年3月30日放送『快傑ズバット』第9話「涙の河を振り返れ」(監督:田中秀夫 脚本:長坂秀佳)
現代では絶対に作られることのないようなエグさを持ったシナリオ。
最後までおつきあいいただければ幸いだ。
キャスト
ここでは第9話のキャストをご紹介する。
快傑ズバット/早川 健:宮内 洋
飛鳥みどり:大城信子
寺田オサム:中野宣之
中根丈太郎:長島隆一
釣師 十兵衛:三島新太郎
鉄の爪:原田君事
花屋の店主:打越章之
少女:猪股裕子
首領L:はやみ竜次
ナレーター:青森 伸
東条進吾:斉藤 真
次々と命を奪われる子供たち
レンタルボート屋でバイトをするオサムの前に現れた、見知らぬ男。
家出娘を探しているというので写真を見せてもらうと、どうやら先ほどオサムがボートを貸した少女のようだ。
どう見ても小学生だが、保護者の同伴もなく1人で乗っている。すると突然、そのボートが爆発。
少女はあっけなく命を落としてしまう。手漕ぎボートのため、エンジンはない。爆発は事故ではなく、事件だ。
目の前で少女を失い、哀しみに暮れるこの男は中根という有名な博士だった。中根は、がんの特効薬の研究中に偶然毒薬を作り出してしまったらしい。
その毒薬を狙うのがTTT団という組織。中根博士は、「その毒薬を渡さない限り、無関係な子供たちを次々に殺す」とTTT団に脅迫されていた。先ほどの少女で既に犠牲者は3人。
TTT団は1人の命を奪う度、中根博士に次のターゲットの写真を渡していた。しかし、写真以外の情報(名前や住所)は渡さないという悪趣味の極み乙女。中根博士はどこの誰かもわからないその子たちを助けようと東奔西走しているらしい。つまり、先ほどの少女も見ず知らずの他人。「家出娘」というのは人探しの口実だったわけだ。
そして、中根博士に示された次のターゲットは、飛鳥みどり。
これまでに命を奪われてきた子供たちは3人とも幼児だったのに、ここに来てまさかの成人女性。中根博士から見れば子供なのかもしれないが、それにしてもめちゃくちゃ違和感がある。ご都合主義、ここに極まれりだ。中根博士を偶然救った早川も、次のターゲットがみどりだと聞いて焦りを隠せない。
TTT団
TTT団は、鉄の爪というボスが仕切る組織である。”TeTsu-no-Tsume”のTTTだろうか? 「ぴいぴいぴい」なら、長渕剛さんの「とんぼ」で間違いなさそうだが。
鉄の爪は、その名のとおり、鉄の爪を手に装着している。
『キン肉マン』に登場したウォーズマンのようでもあるが、こちらはなんだかこのまま潮干狩りにでも行けそうなカジュアルさが漂う。秋になれば落ち葉だって集められるだろう。早川の顔に突き立てるシーンもあるのだが、その切れ味は鈍い。ぐいぐい押し付けられているのに、傷一つない。Schick(シック)クアトロくらいの安全設計だ。
この鉄の爪、どこかで見た風貌だな、と思ったら、『ターミネーター』である。ターミネーターのモチーフは鉄の爪? 信じるか信じないかは、あなた次第だ。
釣師・十兵衛
『ズバット』では毎度おなじみの用心棒。今回は、釣師・十兵衛。元ネタは『釣りキチ三平』だろうか?
釣師というより、仙人みたいな雰囲気。そこらへんに転がっている瓶を立てて、その中に投げ釣りした魚を入れるという技を釣り竿だけで行う。これが自称日本一の腕前だ。新春かくし芸大会で、マチャアキのテーブルクロス芸に太刀打ちできるのはこの人だけかもしれない、と思わせる。
対する早川は、釣り針に引っかけた空き缶に魚と水をすくいあげ、先ほど十兵衛が使った瓶に注ぎ込むという超絶テクを見せつける。
「貴様の心臓を釣り上げることもできるんだぜ?」と凄む早川。まるでペッシである。
これであっさり退散してしまう十兵衛だが、番組終盤の決戦で再登場。釣り竿を使って手榴弾を投げるという、凄いんだか無意味なんだか、よくわからない攻撃でズバットを苦しめるが、最後は、手榴弾が大量に入った箱に投げつけられて爆死。
ジライニモ、マシンガンニモマケズ
TTT団は予告通り、飛鳥みどりの命を狙う。
これまではビルの屋上から突き落とすとか、三輪車を車道に突き飛ばしてクルマに轢かせるとか、ボートを爆発させるといった方法で瞬殺してきたわけだが、みどりは捕らえてなぶり殺しにする様子。さすがヒロイン。扱いが違う。
助けに来た早川を待ち受けるのは鉄の爪必殺の「マシンガン地獄」。どうやら爪は関係ないらしい。四方八方からマシンガンで逃げ惑う早川を狙う。
しかし、早川もしぶとい。地雷を踏んでも傷ひとつ負わず、マシンガンに晒されながらも、みどりを救う。
フラフラになったところを鉄の爪によって高所から突き落とされ、ついに早川も一巻の終わりか? と思わせた途端、いつも通りズバッカーがやってくる。ここまで来ると、早着替えどころか、双子の兄弟が常に待機している説まで出てくる。
「悪事に使う毒薬を手に入れようと人殺しを重ね、あまつさえ罪もない3人の子供を殺した鉄の爪、許さん!」と、いつもの決め台詞。最後は新型ズバット・アッタァック(飛び蹴り)で決着だ。
そっと残した「この者 殺人犯人!」という書き置きもイカス。ヒーローは人知れず、そっと立ち去るのだ。しかし、最後の「!」にだけは、ちょっとの自己主張が含まれている気がする。
しかし、何度見ても『ズバット』のような作品はもう2度と現れないだろうと思う。時代が違うといえばそれまでだけれど、マーケティングだけでは決して生まれない作品だと思うからだ。ここには、製作者たちの想いの丈が詰まっている。そんな気がする。ただの子供番組では、絶対にない。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
\ 僕と握手! /