2022年12月10日放送『ウルトラマンデッカー』第21話「繁栄の代償」(監督:田口清隆 脚本:足木淳一郎)をレビュー
少し前に『人新世の「資本論」』という本が話題になった。
これは、温暖化など、現在の地球を脅かす様々な危機の要因の一つに行き過ぎた資本主義があるのではないか、という考えのもと、改めてマルクス主義について考えるといった内容だったと記憶している。
その論説の是非はさておいても、人類が今以上の繁栄を是として日々進歩しようとしているのは間違いのないことだ。
『ウルトラマンデッカー』第21話は、そんな人類の在り方について、少しだけ考えさせてくれるような回となっている。
とはいえ、メインとなる視聴者は子どもたちであるから、マルクスがどうだ、なんて小難しい話は1ミリも出ない。
それでも、人間の生き方について描かれていることは間違いない。
ネタバレも含むが、最後までおつきあいいただければ幸いだ。
キャスト
ここでは第21話のキャストをご紹介。
以下で使用している画像は全て『ウルトラマンデッカー』より引用している。
アスミ カナタ
松本大輝
キリノ イチカ
村山優香
リュウモン ソウマ
大地伸永
カイザキ サワ
宮澤佐江
ムラホシ タイジ
黄川田雅哉
アガムス
小柳 友
ハネジローの声
土田 大
ヒヤマ ユウジ:阿部 翔平
技術者:芳川つかさ
ウルトラマンデッカー:岩田栄慶
ウルトラマンダイナ:石川真之介
テラフェイザー:阿部 暁
スフィアジオモス:桑原義樹
スフィアザウルス:高橋 舜
未知のエネルギー
光の速度で飛ぶ宇宙船。
そんな夢のような話を実現させる可能性を秘めた、膨大なエネルギーを生み出す新技術を研究する施設の周辺で、スフィア反応が検知された。GUTS-SELECTのアスミ カナタとリュウモン ソウマの二人は、現地を視察に訪れる。
施設を案内してくれたのはヒヤマという男で、彼はサイテック・ラボラトリーホールディングスという民間企業の代表を務めていた。
Sプラズマ増殖炉。
これこそが、彼らが現在開発中の新技術の名前であり、この開発が上手くいけば、先述した光速で飛ぶ宇宙船のエンジンにできるのだという。
ところが、施設を案内されたカナタとリュウモンの二人は驚くべき光景を目にする。
増殖炉の中身、それはなんと、スフィアの死骸だったのだ。
ヒヤマたちは、スフィアは死んでも膨大なエネルギーを放出することを知り、それを利用していたのだった。
例え死骸とはいえ、相手は謎だらけの存在・スフィアだ。それが果たして安全なのか危険なのかさえわからない。にも関わらず、技術開発のため、もっといやらしい言い方をすれば、金儲けのために利用しようとすることを今すぐやめるようにとカナタは食ってかかるが、一方のヒヤマは涼しい顔だ。
スフィアとのつきあい方は、駆逐するか利用するかの二つしかない。今現在、スフィアを駆逐する術は見出されていない。ならば利用する、というヒヤマの言説は一見もっともらしいが、単に、金か名誉か承認欲求を満たしたいだけであることは明白である。
しかし、スフィアへの対抗策が確立されていないのは事実。
痛いところを突かれたカナタたちは、ひとまずヒヤマの元を後にする。
人の驕りが生み出したもの
GUTS-SELECTに横槍を入れられたことで、今後の開発に支障が出ることを危惧したヒヤマは、開発のペースアップを図るため、増殖炉の出力を上昇させる。研究員たちは、実証実験もしていないレベルまで出力を上昇させることに懸念を示すが、強引に押し切るのだった。全ては私欲を満たすため、である。
すると、すぐさま増殖炉に異常が発生する。
炉に押し込めていたスフィアの死骸が膨張を始める。
そんなはずはない。
だって、これは死骸なのではなかったか。
そんな当然とも思えるヒヤマの悲痛な叫びを他所に、Sプラズマ増殖炉は大破。その中から姿を現したのは、Sプラズマ融合獣スフィアジオモスであった。
このスフィアジオモス、自身が強力なだけでなく、何もない空間からスフィアザウルスを召喚する。それも、どうやら未来から呼び寄せるという離れ業を使う。
ただでさえ強力な融合獣が二体同時に出現。しかも、スフィアザウルスは例の如く、地球に根を張り、惑星のエネルギーを吸収している。時間的な猶予は全くない。
この危機的状況にどう対応するか。
融合炉は大破してしまったが、未だに残留したSプラズマがあることに目をつけたGUTS-SELECTは、ナースデッセイ号のマキシマナースキャノンでそのSプラズマを変換して撃ち込むという作戦を実行することに。
ただしこの砲撃は、超威力を発揮するものの、ナースデッセイ号の耐久値を大幅に超えてしまうため(耐久値の149倍)、たったの一度しか使えないことがわかっている。
しかし、怪獣は二体。
そこで、ナースデッセイ号の照準は地中に根を張り動くことのできないスフィアザウルスに合わせた状態で、スフィアジオモスをその射線上に誘い出して一網打尽、という作戦が立案される。
ナースデッセイ号でマキシマナースキャノンを撃つのはムラホシ隊長。スフィアジオモスを誘い出す重責を担うのはリュウモン。カナタ、イチカ、カイザキらは、他の隊員たちと共に地上から援護。
たった一度のチャンスにかけて、全員が心を一つにする。
迷い
作戦開始。
スフィアジオモスを誘導するリュウモン。それを援護する隊員たち。
銃の弾薬が切れ、物陰で弾倉の交換をしようとしたカナタの前に、アガムスが現れる。
スフィアのことをよく理解もせずに利用しようとした結果、こんな事態に陥っている地球人と、現状を打開するために、またスフィアの力を利用しようとしているGUTS-SELECTに、アガムスは心底軽蔑している様子を示す。
図星を突かれたカナタは、何も言い返すことができない。
そんなカナタに追い討ちをかけるように、再び母星・バズド星の滅亡は地球人のせいだと畳み込むアガムス。バズド星にスフィアを連れてきたのは地球人だと言うのだ。
食ってかかろうとしたカナタだったが、思いがけない事実を突きつけられ、再び迷い始める。迷ったところで、今のこの状況をどうにかする他ないとは思うのだが、それで迷ってしまうところがカナタらしさではある。
そんなカナタの心情とは無関係に、作戦は進行していた。
スフィアジオモスとスフィアザウルスが一直線上に並ぶ。超威力のナースマキシマキャノンが火を吹く。
スフィアジオモスは倒し損ねるものの、スフィアザウルスには一撃で風穴が開く。とてつもない威力だ。
だが、あっという間にナースデッセイ号も沈黙してしまう。Sプラズマの負荷が、あまりにも高すぎたのだ。
残るはスフィアジオモスだけ・・・となったものの、さらなるイレギュラーが起こる。
絶命したスフィアザウルスをスフィアジオモスが吸収してしまったのである。しかも、また新たなスフィアザウルスを召喚しようとし始める。これではキリがない。
こんな状況下でも、アガムスの言葉に戸惑うカナタ。その揺れる想いを示すように、ウルトラDフラッシャーは、まるで反応しないのだった。
もう一人のウルトラマン
そのピンチを救ったのは、なんともう一人のウルトラマン。
ダイナだ。
いくらなんでも唐突すぎる、とは思うが、以前、未来人・デッカーが語った未来の世界で、デッカーはもう一人のウルトラマンと共に戦っているとの説明があり、その際に浮かび上がったシルエットは、確かにダイナのものだった。
これを布石と呼べるかどうかは置いておいても、スフィアザウルスが未来から召喚されているというこの状況下で、ダイナがそれを追いかけてきたという状況設定はありえないものではないだろう。
それ以上に、25年の時を経て再び我々の前に姿を現したダイナに咽び泣くファンは多いのではないか。
だが、ダイナが活躍する時間は短い。アガムスがテラフェイザーを召喚するからだ。
未来からやってきたダイナが、今の地球のために戦ってくれているというのに、それを傍観するしかないカナタ。
そんな自分に喝を入れた時、ウルトラDフラッシャーはその光を取り戻す。
並び立つ二人のウルトラマン。この絵面だけで十二分に熱い。
別れ際にダイナがカナタに送った言葉「未来は誰にもわからない」は、なんとも深い言葉だ。未来人がそう言うことに意味があるのだろう。
この言葉には、「未来は(どうなるのか)誰にもわからない」「未来は(どうしてそうなってしまうのか)誰にもわからない」といった意味が込められているように思う。ただしいずれも、「だからこそ、今できることを全力でやるべき」という言葉が続くはずだ。
これは、残酷な未来を突きつけられて戸惑うカナタの力になるだけではなく、まだ見ぬ明日を想像してクヨクヨと思い悩む私のような小市民にとっても大きな意味を持つだろう。
結局、人間がどう生きていったらいいのかは「わからない」というフワッとした答えしか提示されないわけだが、今はそれで良いのだと思う。これを観た子どもたちの頭の片隅にこのエピソードが残ってさえいれば、いつか大人になった時、何かしら感じることができるかもしれないのだから。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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