スーパー戦隊シリーズ唯一の打ち切り番組|『ジャッカー電撃隊』感想

雷堂

1977年4月9日から12月24日まで放送された『ジャッカー電撃隊』をレビュー

もうじき50周年を迎えようという長い歴史を持つスーパー戦隊シリーズの中で唯一打ち切りとなった作品、それがシリーズ第2作として数えられている『ジャッカー電撃隊』である。

2年も続いたおばけ番組『秘密戦隊ゴレンジャー』(全84話)は別として、他の作品は1年間という放送期間の中でおよそ50話ほどが制作されるのが常だが、本作『ジャッカー電撃隊』は35話しかない。通常なら、ここからがラストスパートだ、というタイミングでの終了である。

では、『ジャッカー電撃隊』とはどんな作品だったのか? 本当に観るに値しない作品だったのか? いったい何が悪かったのか? 今更ながら、ひとつひとつ紐解いていきたいと思う。最後までおつきあいいただけ1れば幸いだ。

※なお、本記事内の画像は全て『ジャッカー電撃隊』より引用している。

目次

『ゴレンジャー』から一変した雰囲気

まず面食らうのは、全体のイメージの暗さである。前作『秘密戦隊ゴレンジャー』と比べたら暗い、といった程度の話ではなく、その後のシリーズ作品のどれと比べても明らかに暗い。

それはオープニングからして明らかだ。『ゴレンジャー』では「5つの力を1つに合わせて 叫べ勝利の雄叫びを」と朗らかに歌っていたささきいさおさんが「燃える闘志と哀しみは 冷たく固いメカの中」と歌い上げる。歌詞も曲調も、全体的に渋さ全開。曲のカッコよさだけでいえば『ジャッカー』の圧勝だが、『ゴレンジャー』の明るいイメージを引きずっていると肩透かしを食うだろう。

主人公たちがサイボーグという、シリーズ唯一の設定も大きい。『機界戦隊ゼンカイジャー』では、主人公以外がキカイノイドと呼ばれるロボット生命体という珍しい編成だったが、これは元々そういう種族だから、そこに暗さは1ミリもなかった。しかし『ジャッカー』では、悪の組織クライムと戦うために自らの肉体をサイボーグ化するという展開となっており、その背景として、家族を殺したクライムへの復讐のためといった哀しい現実と、生身の肉体を失うことへの葛藤などが描かれる。!

敵を倒す際の必殺技も地味だった。

『ゴレンジャー』のゴレンジャーハリケーン(当初はゴレンジャーストームだった)が、回を重ねるごとにギャグと化していた(例:火の山仮面マグマン将軍に放った「タマゴ」と名付けられたゴレンジャーハリケーンは、アカレンジャーが蹴り上げたエンドボールがタマゴに変化。それを温泉タマゴにして食べようとしたマグマン将軍が爆死するという、ただのコント)こともあるとは思うが、核と電気と重力と磁力を使って敵を粉砕するというジャッカーコバックは、そのアクション(4人で敵を囲んで蹴り上げる)も含めてあまりに地味すぎた。

この『ゴレンジャー』とは真逆とも言える暗くて地味な雰囲気に視聴者は戸惑ったようだ。放送開始直後は20%台を記録した視聴率も徐々に低迷し始める。

重なる失敗の数々

当然ながら、低視聴率であることを良しとする人たちがTV業界にいるはずもない。制作陣は様々なテコ入れを施すのだが、これがまるで功を奏しなかった。

スーパーカーブームに乗り損ねる

70年代当時は、スーパーカーブーム真っ只中だった。

フェラーリBBやランボルギーニミウラ、ポルシェ930ターボといった未だ歴史に名を残すスーパーカーは子どもたちの憧れ。

『ジャッカー』では、7話と14話で、半ば強引にそれらと共演するのだが、当時の視聴率を見ると、第7話「8スーパーカー‼︎時速300キロ」が関東圏で11.5%、関西圏で9.4%と、まあまあの結果だったが、第14話「オールスーパーカー‼︎猛烈‼︎大激走‼︎」では、関東圏で8.1%、関西圏では5.0%と、むしろ下がってしまう。

これは『ジャッカー』自体の評価が低かったこともあるかもしれないが、それよりも安易にブームに乗っかろうとしたことで、第7話がグダグダになってしまったから、ということもあるのではないかと思う。

スポンサーとなったホテルを紹介するため、唐突に伊豆で戦ったり、北海道や四国に敵が現れたりするのは特撮あるあるだが、流石にこのスーパーカーブームに乗っかろうという姿勢には、大人の嫌らしさがマシマシで透けて見えてしまう。

『ジャッカー』にはメカニックの描写にこだわるというテーマがあったらしいが、こだわって欲しかったのはカスタムメイドのジャッカーマシンであり、市販のスーパーカーを映すことではなかったはずだ。

長官が急に陽気になる

常にイエローのジャケットに身を包むという、まるでダンディ坂野さんのような出立が特徴的な鯨井長官という人がいる。スーパー戦隊シリーズにはお約束の司令官だ。

この人、ジャッカーの4人がトランプのスートに由来するためか、自分のことをジョーカーと呼ばせるなど、厨二っぽさが痛いおじさんなのだが、その陽気な格好とは裏腹に常に眉間に皺を寄せ、仕事以外の話はしないといった雰囲気の、まるで頑固おやじのような人だった。

ところが、第13話から何の前触れもなくキャラ変が行われる。笑顔でジャッカーたちと冗談混じりに言葉を交わす、気のいいおやじに生まれ変わってしまうのだ。

このキャラ変はマジで驚く。違和感どころの話ではなく、本当に人が変わったようだった。

確かに鯨井長官の厳格な雰囲気は、先述した暗い雰囲気を作り出している要因の一つではあった。それを打開しようとしたのだろうが、あまりにも唐突で観ているこちらが置き去りにされた。

ハムスターが喋り始める

これも作品全体のムード改善のためだったのだろう。第15話から鯨井長官のペットであるハムスターがサイボーグ化されて喋り始める。

こういう人語を解する小動物というのはマスコットとして成立しやすい。前作『秘密戦隊ゴレンジャー』でも九官鳥がその役割を担っていたわけだが、それよりも口は悪く、おしっこまでするという傍若無人ぶりは子どもウケを狙ったのかもしれないが、かわいらしさからはかけ離れているように思えた。

面白くなかったお笑い担当

第23話から準レギュラーとして登場したジャッカー基地の炊事担当。愛媛弁を喋り、落語が好きだというお笑いキャラでもある。

林家源平さんという現役の落語家が演じていたのだが、これがまた悪目立ちし過ぎていた。

サイボーグたちのスパイアクションに落語というミスマッチ。意外性は大切だが、過ぎた意外性は違和感しか生まない。せっかく登場させたのだから、一度くらい物語にしっかり関わらせてあげれば良かったと思うのだが、最後まで単なるガヤ担当みたいな扱いで終わったのは本当に残念。

遅れてきた主役?

姫 玉三郎も登場した第23話。これまで司令官を務めていたジョーカーこと鯨井長官がニューヨーク本部科学技術庁長官に任命されたということで一旦レギュラーを退き、その後任として行動隊長・番場壮吉が登場した。演じるのは、仮面ライダーV3、アオレンジャー、ズバットを演じてきた宮内 洋さん。

ここが『ジャッカー』のターニングポイントだった。終わりの始まりと言っても良い。

不人気に喘ぐ『ジャッカー』のテコ入れだったらしいが、これが完全に裏目に出る。宮内さんが悪いわけではない。ただ、白いハットとスーツに身を包んだ宮内さんのダンディなルックスと硬軟自在な演技は、ジャッカーの4人を完全に食ってしまった。

番場が変身するビッグワンは全身白タイツの変態チックなキャラだが、彼の登場と共にオープニングも撮り直される。「ビッグワン!」と叫ぶビッグワンを中心に、その両脇に2人ずつ並び「ジャッカー!」と声を上げる4人のジャッカー。遅れてやってきたテコ入れキャラに、アカレンジャーポジションを奪われてしまったのだ。主人公たちがまさかのモブ化。

売れないバンドに話題性のあるボーカリストを加入させたら、ボーカリストだけはやたらと目立つものの、相変わらずヒット曲は生み出せないバンドになってしまったようなもの。これで人気が出るほど視聴者はバカではない。

必殺武器が大砲

ビッグワンが登場してから変わったものの一つとして、「ビッグボンバー」と呼ばれる必殺武器の登場が挙げられる。

これは、スーパー戦隊シリーズではお馴染みの合体武器と呼ばれるものの元祖である。各メンバーが所有する武器を合体させて、巨大な一つの武器を作り上げるというアレだ。

スーパー戦隊シリーズ初の合体武器なので、歴史的には非常に価値のあるものではあるのだが、いかんせんダサい。だって大砲なのだ。

サイボーグ戦士たちを主人公に据えながら、必殺武器が大砲。そこにメカニカルな要素はほとんど感じられない。急に時代が100年は遡ったように感じられてしまう。火薬の匂いが鼻腔を掠めるような気さえする。こういったチグハグさもまた失敗の要因だったのだろう。

失敗作ではあるけれど

この他に、敵である犯罪組織クライムの設定もなかなか定まらなかったりもした。大ボスとなるアイアンクローは、カリフラワーと石川五右衛門を足して2で割ったようなパンチのある姿だが、これも元々のデザインがいつの間にか変わってしまうという特撮あるあるを見せつけてくれた上、その配下となる小ボスも、当初は「東京ボス」「横浜ボス」と、各エリアを取り仕切っているような名称で、いかにも犯罪組織っぽかったのだが、あっという間にそういった呼ばれ方は消えてしまった。最初に「東京」「横浜」と出してしまったために、あとは「北海道ボス」とか「沖縄ボス」など地方に行くしかなくなってしまったためかもしれない。

こうして眺めてみると、やはり失敗作だったことは間違いない。だが、観る価値がないか? と問われれば、そうではないとも思うのだ。

必ずカプセルに入らないと変身できない、といった不便な設定ゆえの緊張感や、サイボーグによるスパイアクションというシリアスな作風は、本作の強烈な個性でもある。数々の失敗に加え、先述したビッグボンバーという発明がなければ、その後のスーパー戦隊の歴史も変わっていたに違いない。そういった意味において、今日におけるスーパー戦隊シリーズの礎を作り上げたのは、本作終了後に制作された『スパイダーマン(東映版)』と本作(反面教師)だったと言って良い。

主題歌は今聞いてもカッコよく、仮に「印象的だったスーパー戦隊主題歌ランキング」なるものがあれば、個人的には上位に推したいほどだし、ビッグワンを除く4人のトランプのスートをモチーフとしたデザインも今見ると悪くない。

スーパー戦隊の歴史を紐解く上でも重要な作品となっている『ジャッカー電撃隊』。TTFC(東映特撮ファンクラブ)なら今でも気軽に楽しめるので、古い戦隊シリーズを掘ってみたいという方には是非ともオススメしたい。

雷堂

それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。

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