2021年7月22日に公開された映画『スーパーヒーロー戦記』を観てきました。
『セイバー』と『ゼンカイジャー』をコラボさせたうえ、今年50周年を迎えた仮面ライダーシリーズと、45作品目が放映中となっているスーパー戦隊シリーズを一つの作品にぶっ込んだという、カオスな作品。
身体に良さそうなものを全部ぶち込めば、当然、身体に良いでしょ? みたいな安直さが垣間見えて、正直、それほど期待はしていませんでした。とはいえ、アニバーサリーイヤーに公開される作品ですから、ファンとしては観ないわけにもいきませんし、2021年9月に放映開始となる『仮面ライダーリバイス』が登場するということですから、むしろそれを楽しみに劇場まで足を運びました。
しかし、予想は華麗に覆されました。もちろん良い意味で。
現在、絶賛公開中なので、詳細なストーリーなどは書きませんが、見どころについては遠慮なくネタバレします。
これから観にいく予定がある方は、ここから先は読まない方がいいかもです。
スタッフ・キャスト
まずは主要スタッフとキャストをご紹介します。
それぞれウィキペディアなどにリンクを貼っておくので、是非、他の参加作品などもチェックしてみてください。
【スタッフ】
監督:田崎竜太
脚本:毛利亘宏
ゼンカイジャー監修:香村純子
アクション監督:宮崎 剛
特撮監督:佛田 洋
【キャスト】
神山飛羽真(カミヤマ トウマ)/仮面ライダーセイバー:内藤秀一郎
五色田介人(ゴシキダ カイト)/ゼンカイザー:駒木根葵汰
新堂倫太郎(シンドウ リンタロウ)/仮面ライダーブレイズ:山口貴也
須藤芽依(スドウ メイ):川津明日香
富加宮賢人(フカミヤ ケント)/仮面ライダーエスパーダ:青木 瞭
尾上 亮(オガミ リョウ)/仮面ライダーバスター:生島勇輝
緋道 蓮(アカミチ レン)/仮面ライダー剣斬:富樫慧士
大秦寺哲雄(ダイシンジ テツオ)/仮面ライダースラッシュ:岡 宏明
ユーリ/仮面ライダー最光:市川知宏
神代玲花(シンダイ レイカ)/仮面ライダーサーベラ:アンジェラ芽衣
神代凌牙(シンダイ リョウガ)/仮面ライダーデュランダル:庄野崎 謙
尾上そら:番家天嵩
富加宮隼人(フカミヤ ハヤト):唐橋 充
ルナ(大人):横田真悠
ゾックス・ゴールドツイカー/ツーカイザー:増子敦貴
石ノ森章太郎(イシノモリ ショウタロウ):鈴木 福
アスモデウス:谷田 歩
常磐(トキワ)ソウゴ/仮面ライダージオウ:奥野 壮
飛伝或人(ヒデン アルト)/仮面ライダーゼロワン:高橋文哉
谷 千明(タニ チアキ)/シンケングリーン:鈴木勝吾
押切時雨(オシキリ シグル)/キラメイブルー:水石亜飛夢
オーナー:石丸謙二郎
鴻上光生(コウガミ コウセイ):宇梶剛士
ソフィア:知念里奈
五色田ヤツデ:榊原郁恵
本郷猛/仮面ライダー1号:藤岡弘、
ジュランの声:浅沼晋太郎
ガオーンの声:梶 裕貴
マジーヌの声:宮本侑芽
ブルーンの声:佐藤拓也
セッちゃんの声:福圓美里
モモタロスの声:関 俊彦
ウラタロスの声:遊佐浩二
キンタロスの声:てらそままさき
リュウタロスの声:鈴村健一
オーマジオウの声:小山力也
ドギー・クルーガーの声:稲田 徹
ラプター283の声:M・A・O
ショウ・ロンポーの声:神谷浩史
仮面ライダーリバイの声:前田拳太郎
仮面ライダーバイスの声:木村 昴
アカレンジャーの声:誠 直也
戦隊メギドの声:ささきいさお
ライダーワルドの声:谷中 敦
”謎の少年”は予想どおり
本作は、仮面ライダー50周年とスーパー戦隊45作品目という節目の年の記念碑的作品で、”謎の少年”が登場すると、わりと早い時期から公式で発表されていました。
演じるのは、鈴木福さん。仮面ライダーシリーズ、スーパー戦隊シリーズファンを公言している彼が、そのアニバーサリーイヤーに演じる”謎の少年”とは? これだけで誰もがピンと来ていたはず。
「”石ノ森章太郎”役だな」と。
『仮面ライダー』とスーパー戦隊の元祖となる『秘密戦隊ゴレンジャー』の生みの親である石ノ森先生。その彼をおいて、他に考えられる人などいないでしょう。
そしてその謎は、映画が始まってすぐに明かされます。名前を聞かれて「僕はショウタロウ」と答える謎の少年。
その時点で”石ノ森章太郎”か”左翔太郎(仮面ライダーW)”の2択でしょう。しかも、左翔太郎なら、鈴木福さんをキャスティングする意味は限りなく薄いと言わざるを得ません。さらにめちゃくちゃ絵が上手いとくれば、もう疑いの余地は1ミリもありません。
あまりにも予想どおりすぎて清々しいレベル。これがわからないのは、小さなお友達だけでしょう。
本郷猛
スーパー戦隊のレジェンドとして、『侍戦隊シンケンジャー』からシンケングリーン、『魔進戦隊キラメイジャー』からキラメイブルー、『特捜戦隊デカレンジャー』からドギー・クルーガー、『宇宙戦隊キュウレンジャー』からはラプター283とショウ・ロンポーが登場。
仮面ライダーシリーズからは、『ジオウ』常磐ソウゴ、『ゼロワン』飛電或人、そして『仮面ライダー』本郷猛が登場しています。
皆それぞれに見せ場が用意されていて、ファンがその人目当てで観に来たとしても、ガッカリするレベルではなかったと思います。
特に、ソウゴと或人は作品終了時と比べたら明らかに演技に貫禄がついていて、見違えました。出演時間は長くはなかったものの、しっかりと爪痕を残していきました。
しかし、今振り返ってみると、本郷猛のインパクトに、ほとんどかき消されているような状態です。
でも、まあこれは仕方ない。
数年前に『仮面ライダー』の看板を背負ったばかりの若者と、それこそ50年間にも亘って、その看板を汚すことなく守り続けてきた漢(おとこ)では、抱えているものが違って当然でしょう。
それこそ、血の濃さが違うくらいのレベル。ドロドロだとかサラサラだとかって話ではなく。
もはや本郷猛と藤岡弘、さんの間には、境界線なんて無いのではないか。どちらが本郷で、どちらが藤岡さんなのかもわからない。
大袈裟かもしれませんが、藤岡さんは本郷猛という役を演じているのではなく、自身の人生を捨て、本郷猛としての人生を歩んできたくらいに見えてしまうのです。
だからこそ本作を観終わった後、もっとも強烈に意識に刷り込まれているのは、本郷猛の生き様でした。
しかも、劇中に登場する1号ライダーは、最近では当たり前になっている新1号ではなく、まさに最初期の旧1号。
マスクのカラーリングは暗く、スーツにもアディダスみたいなラインは描かれておらず、それどころか、当時のスーツを模して、あえてマスクから後ろ髪が覗くように仕立ててあるというこだわりよう。
当時の技術的な問題を、あえて今の技術でリニューアルしないところに、原初の作品に対するリスペクトが感じられる。そういった製作者の皆さんの気持ちもまた、本郷猛というレジェンド・オブ・レジェンドの存在を一層際立たせていると言えるでしょう。
メタ視点で語られる特撮ヒーロー
本作は、ラスボスである「アスモデウス」が、全てのスーパー戦隊と仮面ライダーの“物語“を解放するところから始まります。
『ディケイド』以降、頻繁に使われてきた“パラレルワールド“という概念ではなく、全てが物語という設定は、『セイバー』だからこそ活きたと思うし、何より、それらの創造主である石ノ森章太郎を登場させたことで、かつてないメタ視点で描かれた作品です。
アスモデウスは、ヒーローたちを「似たようなモチーフを繰り返すしかないネタ切れのオワコン」と、身も蓋もない言葉でディスりますが、これは特撮ヒーローを「子供向け番組」と切って捨てる人たちが抱いている正直な意見でしょう。
それに対して、「必要とされなかったら、50年も続かない!」と反論する“物語“の登場人物の言葉には、製作者たちの熱い想いが込められています。
過去から今へとヒーローを繋ぎつづけてきた人たちの物語と、今から未来へヒーローを繋ぎ続けていこうとする人たちの覚悟が、徹底的なメタ視点で綴られます。
批判も多い『セイバー』ですが、これは物語の世界をテーマとする『セイバー』がなければ成立しなかった作品です。
『セイバー』が、最初からこの映画ありきで企画されたわけではないでしょうが、50周年というアニバーサリーに『セイバー』が花を添えたことは間違いありません。
石ノ森少年に、本郷猛が「石ノ森先生!」と語りかけるシーンで、「僕が描いたヒーローたちが、僕が死んだ後も生き続けてくれているのが嬉しい」と語る石ノ森の姿がとてつもなく眩しい。これは、創作する人なら誰もがきっと思うことでしょうし、これらのシリーズの制作に関わってきた人たちもまた、同じ気持ちで今を見ているはずです。
作者と物語の登場人物が会話するという、ものすごくメタな状況なのだけれど、心に深く突き刺さります。
指先に刺さったままの鉛筆の芯はイヤだけど、それを見るたびに子供時代の思い出がふと蘇る瞬間はイヤじゃない。忘れかけていた純粋な気持ちを揺り起してくれるような、そんな心地よい痛みが、この作品にはあります。
『仮面ライダーリバイス』
新ライダー『リバイス』がチラッと本編に登場するのは、バトンタッチ前のお約束ですが、今回は本編終了後に、23分という結構な尺で『リバイス』だけのショートムービーが流れます。
既に公式発表もされていますが、自分の中の悪魔と契約し、二人で戦うライダーということで、『W』の逆。普段は一人(と、普通の人には見えない悪魔が一人)で、変身すると、主人公は「仮面ライダーリバイ」に、実体化した悪魔は「仮面ライダーバイス」となって二人で戦うという設定。「リバイ」と「バイス」で「リバイス」。縄田雄哉さんと永徳さんのコンビによるキレの良いアクションにも大注目です。
今回の変身音は、かなりポップでノリも良く、人気が出そう。公式発表はされていないはずですが、どう聞いても、オリラジのチャラい人(藤森さん)にしか聞こえません。でも、全然ミスマッチじゃなく、普通にいい感じです。
ライダーのデザインもポップで、パステルピンクとライトブルーという驚きのカラーリング。「バイス」に至っては、完全にかぶり物。恐竜などと過去のライダーを組み合わせたというフォームチェンジも話題ですが、なんと言ってもベルトのインパクトが凄すぎます。
「バイスタンプ」と呼ばれるハンコを押して変身するのですが、ハンコを押す前に「はーっ」と息を吹きかけます。
この野暮ったい仕草が、そのうちたまらなくカッコ良く見えてきたりするのでしょうか。
『スーパーヒーロー戦記』で、石ノ森章太郎が悩むシーンがあります。
様々なヒーローたちをスケッチしながら、「みんなカッコいいけど、僕が描きたいヒーローとはなんか違う・・・」と。
苦悩の末、石ノ森章太郎は、ヒーローの物語を通じて、完全無欠ではない「人間」を描きたいという結論に辿り着きます。
人を愛し、平和を愛するのも人間なら、人を憎み、争いを好むのも人間。そういったリアルな人間たちが織りなす物語こそが、人の心を震わせるものであり、石ノ森章太郎の求めるものでした。
確かに、カッコいいだけのヒーローなんていないし、いらない。他人には見せられないようなみっともないところも含めて、それでも最後は他人のために自分を投げ出せる人こそが、真のヒーローだと思うのです。
『リバイス』には、そんな魅力的な人間ドラマを期待しています。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。