2022年12月3日放送『ウルトラマンデッカー』第20話「らごんさま」(監督:田口清隆 脚本:中野貴雄)をレビュー
第5話「湖の食いしん坊」を彷彿とさせるイチカ回。
まっすぐに想いを伝えるイチカの姿に胸を打たれること間違いなしの感動エピソードだ。
盛大なネタバレを含むが、最後までおつきあいいただければ幸いだ。
キャスト
ここでは今回のキャストをご紹介。
本作初登場でウィキペディアに記載のある方についてはリンクを貼っておくので、どんな方なのか、他にどういった作品に出演しておられる方なのか、是非ともチェックしていただきたい。
アスミ カナタ
松本大輝
キリノ イチカ
村山優香
リュウモン ソウマ
大地伸永
カイザキ サワ
宮澤佐江
ムラホシ タイジ
黄川田雅哉
ハネジローの声
土田 大
子ども時代のナギ:野田あかり
堀内:高橋麻琴
建設作業員:安保 匠
建設作業員の妻:青山真利子
羅権衆A:栗橋 勇
羅権衆B:中野貴雄
武装市民たち:鈴木輝生・苅田裕介・金子大介・高瀬翔太・津村憲央・永田竜大朗・野口将男
羅権衆たち:ブンクワン孝弘・リー正敏・相場 宏
浦澤ナギ:竜のり子
ウルトラマンデッカー:岩田栄慶
ラゴン:岡部 暁
子ラゴン:丸田聡美
ワダツミシティの異変
近代都市ワダツミシティで次々に起こる怪事件。深夜、寝ていた男性が怪物に襲われたということから、その調査のため、GUTS -SELECTのキリノイチカとカイザキサワの二人が現場入りする。
ワダツミとは、海の神様のことである。その名を抱く通り、このワダツミシティは、元は海だった場所を埋め立てて作られた都市である。以前は海童村という小さな村落があり、この村では「らごんさま」と呼ばれる海神信仰があった。皆が一様にらごんさまのお面を被って踊る奇祭もあったらしい。
調査を進める中、イチカとサワの二人は民族資料館を運営する老婆・浦澤ナギと知り合う。
資料館に並ぶ様々な展示物にも、ナギの退屈な長話にも興味津々で目を輝かせるイチカに、やがて心を開き始めたナギ。まだこの辺りが海だった頃に思いを馳せ、「きっと綺麗な海だったんだろうな」と微笑むイチカに、「そりゃあ綺麗だったさ」と声を弾ませるナギ。この辺りで桜貝も取れたと懐かしい目をするナギに、イチカはふと違和感を覚える。この辺りが海だったのは、時代的には200年も前のことらしい。そんな昔のものをどうして? とイチカが聞くと、今度は途端に心を閉ざしてしまう。どうやら完全に油断していたようだ。
一方、イチカを置いて海女(アマ)の岩戸と呼ばれる場所の調査に向かったカイザキ。ワダツミ(海神)シティに存在するのが、天の岩戸でなく海女の岩戸とは、なかなかシャレが効いている。
昔はここで、らごんさまを崇める祭りを行なっていたらしい。天の岩戸に引き篭もった天照大神を誘い出すため、岩戸の前で踊り明かした、なんて神話を彷彿とさせる。その形状と言い、伝説と言い、いかにも神秘的な存在であるこの岩戸だが、ワダツミシティでは、近日中に撤去する方向で動いているらしい。その理由は、この見るからに不安定な巨石が市街地付近にあることに加え、最近起きた地滑りの影響で地盤が緩くなっているためだとか。なんとも世知辛い話だが、街と住民を守るためには仕方のないことなのかもしれない。
GUTS-SELECT本部と連絡を取るカイザキは、この海女の岩戸に関する二つの事実を知ることになる。一つは、この岩戸付近は磁場が異常な数値を示しているらしいこと。そしてもう一つは、最近の怪物騒動の被害者は全て、海女の岩戸撤去工事の関係者であることだった。
そんな中、また怪物が現れる。
怪物の正体
白昼堂々現れた怪物を追う人々。
カイザキとイチカもその追跡劇に加わる。そうして、あっけなく捕まったその怪物の正体は、らごんさまのお面を被った浦澤ナギだった。
襲われた際に人々が目にしていたビジュアルとお面のビジュアルとの差が大きいのは、急なことに動転した人々が、実際のものよりも恐ろしいものとして認識してしまった、ということで説明はつくかもしれないが、これまでの現場に残されていた謎の粘液はどういうことだろう? 「海生爬虫類と類人猿の中間」くらいの生物のDNAが検出されたという粘液が、怪物に襲われた現場だけでなく、岩戸などでも発見されていたのだ。
最初はナギが、人を驚かそうとするたびに手にたっぷりのローションを塗りたくっていた、ということかと思ったのだが、それでは説明がつかないわけだ。だとしたら、ナギの犯行とは別に、本物のらごんさまが徘徊していたのかもしれない。
いずれにしても、80歳前後の老婆が、あんなに身軽に逃げ回れたことの説明にはならないが、ここはあえてスルーすべきところかもしれない。余談だが、私が子どもの頃、『八つ墓村』という映画が公開され、そこで頭に蝋燭を立てた老婆(だったと思うのだが、記憶は定かではない。実は爺さんだったのかもしれない)が宵闇の中を「八つ墓村の祟りじゃあ〜」と叫びながら走り回るCMがよく流れており、めちゃくちゃ不気味だった。今では『八つ墓村』といえば、横溝正史の金田一耕助シリーズであることくらいは知っているが、子ども時代には完全にホラーだとばかり思っていた。それほどの恐怖感が漂っていたのだ。走り回る老婆というと、今でもすぐにそのイメージが浮かぶ。
話を戻そう。
ナギが何故そんなことをやっていたのかといえば、それは海女の岩戸を撤去させないためだった。
今から70年も前のこと。幼かったナギは、らごんさまと遊んでいたらしい。らごんさま、と言っても、まだまだ子どもの様子。子ども同士はすぐに仲良くなれる。人間と異形、だとしても。けん玉とかシャボン玉とか、そんな他愛もない遊びを通じて、二人は種族を超えた友情を育んでいたようだ。
ところが、ある日それを知った大人たちによって二人は引き離されてしまう。海女の岩戸へと封印されてしまうラゴン。泣き叫ぶ幼いナギの声が胸に突き刺さる。
あの日、助けることのできなかったラゴンに、ナギはずっと悔いていた。その晴らすことのできない後悔が、老婆を怪物騒動へと駆り立ててしまったのである。
破られた岩戸
急にマグニチュード6を超える大地震がワダツミシティを襲う。
海女の岩戸を破って姿を現したのは、らごんさま。『ウルトラQ』の頃からファンにはお馴染みの海底原人ラゴンである。デザインを担当したのは、初代ウルトラマンなどを手がけた成田 亨さん。50年以上の時代を超えてもなお違和感のないザ・半魚人という風体である。
海底原人ラゴン
身長:50m
体重:20,000t
全身を覆う粘液のおかげで掴みどころがなく、攻撃がほとんど効かない。さらに口から吐き出す光線は、それが触れた地面を水のようにしてしまうため、建造物は地中へと埋没。デッカーもまた『タイタニック』のレオナルド・ディカプリオのように地の底深くへと沈み込んでいってしまうのだった。見た目はクラシックだが、驚くほど強い。本当に神なのかもしれない。
ところで、道路に設置されたコーナーミラーの左にラゴン、右にデッカーが映り込む状態で繰り広げられるバトルシーンはセンスの良さが際立っていた。ミニチュアの街を破壊しながらウルトラマンと怪獣が戦うバトルはいつ見ても迫力満点で良いのだが、良くも悪くも、どこか伝統芸能のような雰囲気が漂う。だからこそ、こうしてちょっと見せ方を変えてくれるだけで印象はガラッと変わる。
ナギとイチカ
デッカーまでも地の底へと消えてしまい、荒ぶるラゴンを抑える者は誰もいなくなってしまう。
その時、ナギがラゴンに向かって微笑む。
「一緒に遊ぼう。今度はずっと」
そうしてナギが不思議な踊りを始めると、それに合わせてラゴンもまた踊り出す。
海底原人ラゴンには、『ウルトラQ』に登場した頃から“音楽が好き”という設定があった。本作でもその設定は生きており、踊るうちに先ほどまであらわにしていた怒りが薄れていく。そしてナギは、子どもの姿に戻ったラゴンと共に岩戸の中へと向かう。
「行っちゃダメ!」
ナギを追って岩戸の中へ駆け出すイチカ。カイザキが必死で止めようとするが、その静止を無視して飛び込む。
「イチカ!」
これまでずっと体面を慮って「キリノ隊員」としか呼んでこなかったカイザキが思わず名前を叫んでしまう。それほどまでに必死だったということだろうし、何より、これまでの戦いを通じて、新人隊員キリノイチカと人間関係が構築されていることの証明でもある。
一方、岩戸に飛び込んだイチカは、ラゴン同様、子ども時代の姿に戻っているナギの手を取り叫ぶ。
「ここはあなたのいる場所じゃない!」
周りの人たちが一人、また一人と亡くなっていき、孤独を感じていたナギにとっては、一緒にいてくれる誰かが必要だったのだろう。それが例え、人間ではなく、ラゴンであっても。
そんな寂しいナギの気持ちを理解しつつ、自分も同じだと声を上げるイチカ。今回最大のクライマックスである。
思えばイチカも、スフィアによって仲間たちとはぐれてしまっていたのだ。今はGUTS-SELECTという居場所があるとはいえ、確かにナギの気持ちを理解できるところはあるだろう。
そんなイチカとナギを救い出したのは、先ほど地の底へと消えていったはずのデッカーだった。
ずっと一緒に遊んでくれると言ったナギを奪われたラゴンは、怒るわけでもなく、ただ、岩戸の入り口で手を振っていた。
ナギがこれからも人間として、人間の世界で生きていくことを祝福してくれているようだ。
そうして戻った日常。ナギと縁側で微笑み合うイチカの姿が眩しい。
ナギが大切にしていた桜貝の貝殻をイチカに手渡して、物語は幕を閉じる。
時代を超えて受け継がれていくもの。
「綺麗な心を持った、若くて美しい娘だけにしか見えない」ものがあると、ナギが語っていたが、イチカのまっすぐな心と尽きせぬ好奇心は、これからも世代も種族も超えて、命と命を繋いでいく力となるだろう。心が温かくなる、そんな素晴らしいエピソードがまた増えた。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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