2022年7月10日放送『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』ドン19話「もしもしユーレイ」(監督:諸田 敏 脚本:井上敏樹)
携帯電話などなかった時代。
好きな子と話したいと思えば、家の電話にかけるしかなかった。相手の親が出ると、なんだか悪いことをしている気がしてガチャ切り。それももちろん悪いことなのだけれど、本当に「思わず」切ってしまうことがよくあった。
誰が電話に出るかわからない、というドキドキ感は、いわゆる「吊り橋効果」もあったかもしれない。だからこそ、意中の相手が電話に出てくれたときには、嬉しさに加えて安堵感も大きく、さらに恋心は深まっていたようにも思う。
また、自分が夜中にコソコソ電話している様子を親に見られたくなくて、家を抜け出しては近所の公衆電話に駆け込んでいた・・・なんてエピソードは、携帯電話が今ほど普及する前に10代を過ごした人なら、自ら経験はしていなくとも、よく聞く「あるある」エピソードだったはずだ。
今回は、そんな50年前の恋が忘れられず、ただただ想い人からの電話を待つユーレイの物語。
甘酸っぱさ満載のドン19話をレビューする。最後までおつきあいいただければ幸いだ。
キャスト
ここではドン19話のキャストをご紹介する。
本作初登場でウィキペディアに記載のある方についてはリンクを貼っておくので、他の参加作品なども是非チェックしていただきたい。
なお、以下で使用している画像は全て『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』より引用している。
桃井タロウ/ドンモモタロウ
樋口幸平
猿原真一/サルブラザー
別府由来
鬼頭はるか/オニシスター
志田こはく
犬塚 翼/イヌブラザー
柊太朗
雉野つよし/キジブラザー
鈴木浩文
桃谷ジロウ/ドンドラゴクウ
石川雷蔵
五色田介人
駒木根葵汰
ソノザ
タカハシシンノスケ
鬼頭ゆり子
三輪ひとみ
鷺山美奈子
中 心愛
田所新造
ドンムラサメ(声)
村瀬 歩
部長(画面右奥)
滝 晃太朗
若者(画面右)
マザー(声):能登麻美子
居座る者、守る者
とある電話ボックスを回収しようとやってきた業者たちの前に、ヒトツ鬼が現れる。
ヤツの名は炎神鬼。
スーパー戦隊シリーズ第32作『炎神戦隊ゴーオンジャー』(2008年2月〜2009年2月放送)をモチーフとしたヒトツ鬼ではあるのだが、デザイン自体はドン14話に登場した「高速鬼」の頭部と、ドン15話に登場した「激走鬼」の上半身を組み合わせたもののようだ。カラーリングは異なるけれど。
炎神鬼
身長:186cm
体重:218kg
スキン:エンジン魂
こういった過去の着ぐるみを使い回すこと自体は珍しくもないし、そもそもスーパー戦隊がモチーフとしているものが「子ども(男の子)たちが好きそうなもの」という括りである以上、どうしたって車や恐竜、忍者といったものを何度も何度も使いまわさざるを得ないわけで、それらをモチーフにした同じような戦隊が複数存在するのは当然だ。
しかも本作は、そういった過去のスーパー戦隊をモチーフに怪人を作ろうというのだから、これまたどうしたって同じようなものになってしまうのは仕方のないことだろう。
さて、この炎神鬼だが、実体がないため物理攻撃が効かない。そのくせ、あちらの攻撃は普通に通るというのだから不公平極まりない。
このヒトツ鬼の宿主は、業者が撤去しようとしていた電話ボックスに居座っていた幽霊・鷺山美奈子。
美奈子は50年前、交通事故で命を落としてしまっていた。
当時は携帯電話など無い時代で、文通で知り合った男性・田所新造と公衆電話で話すのが、美奈子の楽しみだった。
ある日、いつもの電話ボックスへ向かう途中、交通事故で命を落としてしまったらしい。
ちょうどデートの約束をしようとしていた時でもあり、悔しさが大きかったのだろう。死んで50年経った今でも未練が消えず、この電話ボックスで新造からの電話を待ち続けているのだとか。
なんとも健気で、哀しい物語。
つまりこのヒトツ鬼は、美奈子が電話を待つ電話ボックスを守っていたのだ。
物理攻撃の効かないヒトツ鬼を倒すには、美奈子を成仏させる他ない。
さらに今回は、これまでの「ヒトツ鬼を倒すと巨大化」という流れさえ無視して、ヒトツ鬼との戦闘中にいきなり炎神鬼ングへと巨大化してしまう。
炎神鬼ング
身長:52.0m
体重:2132.7t
スキン:チューンナップエンジン
掌から次々に火の玉を出して攻撃してくる。
しかも、炎神鬼ングになっても物理が効かないことに変わりはない。
ドンオニタイジンに初めて訪れたピンチかもしれない。
ときめきメモリアル
ひょんなことから、桃井タロウ、犬塚 翼、五色田介人の3人とデートすることになった美奈子。
タロウとのデートでは、二人で30個ものおにぎりを平らげ(幽霊なのに食事ができるという不思議)、ロボタロウとなった桃井タロウに抱きかかえられた状態で東京の空を散策する。
これはこれでアリのような気もする。
犬塚とのデートでは、犬が好きだという美奈子のために、イヌブラザーに変身して、ただひたすら愛でさせる犬塚。
なんだか様子がおかしくなってきた。
そして、満を持してやってきた喫茶どんぶらのマスター・介人とのデートでは、まるで70年代アイドルのような出立ちで大型バイクに乗って現れた介人に、近くにいた主婦たちが群がる。
完全にネタ枠。
ドンブラに登場する男性陣たちは、皆イケメンでありながら、どこかが確実に狂っている。
もしもし
さて、美奈子が成仏できるかどうかを握る「田所新造」という男性だが、果たしてどこにいるのか?
それ以前に、そもそも50年も前の話である。未だご健在なのかもわからない。
と思っていたら、雉野が見つけてきた。以前、仕事で絡んだことがあったらしい。
喫茶どんぶらに現れた新造は、なんとレジェンド声優・井上和彦さん。
御年68歳ということで、ちょうど田所新造と同じくらいの年齢である。
古くは『サイボーグ009』の島村ジョー、わりと最近なら『NARUTO』のはたけカカシ、『夏目友人帳』のニャンコ先生などが有名ではないだろうか。ちなみに『夏目友人帳』は、オススメだ。シーズン6まであるが、個人的には初期の方が面白かった。
50年前のまま時間が止まっている美奈子と、普通に当時より50歳もの年齢を重ねた新造を会わせるのは無理があるということで、美奈子の待つ電話ボックスに新造から電話をかける。
50年の時を超えてなお、変わらぬイケボを披露する。
年を重ねれば、普通はどうしたって声も老化する。しかし、声優さんは声が命である。日頃のケアの賜物なのか、その衰えは驚くほど少ない。
声優である井上さんがこの役に選ばれたのには、こういうわけがあったのだ。
あの頃と変わらぬ調子で会話を交わす二人。
「それで、私たちのデートは・・・」と切り出す美奈子に「会えないんだ。すまない」と返す新造。
「君のことを忘れたことはなかった」と伝える新造に「私も」と答える美奈子。
「いつかきっと会える。光のあふれる美しい場所で」と老人となった新造が言う。
「はい。楽しみにしています」と、50年前のまま時間の止まった美奈子が答える。目には涙が浮かんでいる。
おそらく、その日は近いだろう。少なくとも、ここからさらに50年先などでないことは確かだ。
それがきっかけとなり、美奈子は成仏する。
脳人レイヤーで戦うドンブラザーズの戦いにも変化が訪れる。
物理が通るようになった炎神鬼ングをドンオニタイジンが真っ二つにする。
はるかに「ありがとう」と告げて、消えていく美奈子。
なんとも言えない余韻を残して。
後日、その電話ボックスは撤去されてしまう。
このまま素敵な余韻と共にフェードアウト・・・しないのがドンブラ。
最後のオチは是非、自身で確認して欲しい。冒頭のフリも効いている。さすが、井上敏樹さんの脚本である。
なお、最後にもうひとつ。
途中、ソノザが1冊のマンガを偶然手に入れるシーンがあった。
タイトルは「初恋ヒーロー」。はるかの書いた作品である。
さて、これは単なる映画への布石か? それとも、はるかがソノザに狙われるきっかけか?
1秒たりとも目が離せないドンブラザーズ。次回は桃谷ジロウのフォームチェンジ回だ。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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