ひかりTV限定配信作品『グッドモーニング、眠れる獅子』(監督・アクション監督:坂本浩一 脚本:光益義幸)
最高の娯楽作品が誕生した。
正直、タイトルを聞いた時にはピンと来なかった。語呂もイマイチだし、なんだかダサいとさえ思った。
しかし、予告動画を観て不安は期待に変わった。
そして、本編を観て思った。「これは傑作だ」と。
「あの高岩成二が初出演!」とか、「仮面ライダー俳優たちが集結」とか、主演の高岩成二さんの経歴上(平成ライダー20作中18作で主役ライダーのスーツアクターを演じたレジェンド)、どうしたって特撮界隈のネタばかりが取り沙汰されるけれど、これはそういった先入観なく観て欲しい。
おそらく、特撮にまったく興味がない人が観ても、きっと楽しめる。
ヒロインの日向坂46の渡邉美穂さん目当てでも、イケメン俳優目当てでもなんでもいい。
それでもこれを観たら、高岩成二という人のことが忘れられなくなるはずだ。
スーツアクターのレジェンド・高岩成二は、スーツを脱いでも凄かったのである。
多少のネタバレはあっても、本作をこれから視聴する楽しみは奪わない程度にとどめて見どころを中心にレビューする。最後までおつきあいいただければ幸いである。
キャスト
ここでは本作のキャストをご紹介。ウィキペディアに記載のある方についてはリンクを貼っておくので、他の参加作品なども是非チェックしていただきたい。
九條和真
綿貫玲実
チャーリイ
戸塚塔子
幸
田﨑山竜太郎
白石萌々香
園田紀明
藤平 司
亀田
ギャングのボス
チャック・ジョンソン
松本康雄
コウジ
木岡マサル(ダイヤ)
平賀ユウ(クラブ)
羽山直斗(スペード)
羽山遼介(ハート)
爆弾魔
『仮面ライダーゴースト』の主人公・天空寺タケル役だった西銘 駿さんが演じるのは、半グレ集団グリムリーパーズの幹部の1人・スペード。粘着質なアイドルオタクである。
この半グレ集団の名前「グリムリーパーズ」というのは、死神たち、という意味で、幹部たちは4人。それぞれトランプに準えた別名を持っている。
アイドルのストーカーで爆弾魔。命燃やしていた面影は微塵もないが、放火魔では半グレ集団としての凄みがイマイチ伝わらないので、爆弾魔としたのだろうか?
今回登場する4人の幹部の中では、もっともひ弱な印象で、かなり異質。もちろん、西銘さん自体はそこそこのアクションはこなせるはずだが、爆弾魔という設定もあり、アクションシーンは少なめだ。
それよりも自在に爆弾を操る知能犯として描かれている。素手ではなく、鉄パイプやナイフで襲いかかったり、捕らえた玲実に危ないクスリを注射して遊ぼうとするなど、卑劣さは幹部随一かもしれない。
切り裂くナイフ
『仮面ライダー剣』の剣崎一真役だった椿 隆之さんが演じるのは、グリムリーパーズの幹部・ダイヤ。剣崎がスペードではなく、あえてダイヤというところに、ある意味では主人公の剣崎を食っていたダディこと橘さんへの想いがあるのだろうか?
ナイフの扱いが得意という設定は『剣』へのオマージュだろう。ナイフを見つめる目に狂気が宿る。
口調は『仮面ライダーアギト』に登場した北條のようなインテリ風だが、生と死の境界線ギリギリを感じることに快感を覚えているらしく、ギャングのボスとのロシアンルーレットでも躊躇なくトリガーを引く。
どちらかといえば、死に魅入られているようにも見える。
「勝負に勝つには、勝負を降りないこと」というのが座右の銘らしい。
九條との決戦では、激しいナイフアクションが繰り広げられる。地下格闘技で何人も殺してきたという人間凶器・コウジさえ圧倒した九條に痛手を負わせるほどのナイフ捌きは必見である。
嵐のような暴力
『仮面ライダーディケイド』で門矢 士役だった井上正大さんが演じるのは、グリムリーパーズの幹部・クラブ。
怪演という意味では、本作随一。常に声を震わせて喋る不気味さが光る。振り乱した頭髪や、首筋に入れられたタトゥーといった凄みも手伝い、『ディケイド』でのモヤシっ子なイメージは全くない。
4人の幹部の中で一番の武闘派。暴力団事務所にも躊躇うことなく殴り込みをかける。元プロの格闘家で、逃げ回る相手にイラついて殺してしまったことがあるらしい。「どちらかがぶっ壊れるまでやり合う」というのが口癖。
井上さん自身がテコンドーをやっていることもあって、格闘技が板についている。長身を活かした長いリーチは見栄えも抜群で、嵐のような怒涛の攻撃は迫力満点。九條との決戦での目まぐるしい攻防は見ものだ。
空を舞う脚技
『仮面ライダー鎧武』で葛葉絋汰役だった佐野 岳さんが演じるのは、グリムリーパーズの幹部・ハート。本作のラスボスだ。
父親の暴力に怯えながら過ごした少年時代の経験から、6歳下の弟のことを一番に考える過剰なブラコン。一見、爽やかなイケメンなのに、どこか壊れている。ちょっとサイコな役柄を、佐野さんが見事に演じている。
クラブに匹敵する実力と凶暴性を持ちながらも、冷静さを併せ持ち、周到な計画で玲実を攫った張本人。
最大の見どころは、『鎧武』でも見せた身体能力の高さ。
高岩さんとのハイスピードバトルは、まさに息もつかせぬほど。中でも、アクロバティックな動きから繰り出す脚技は一見の価値がある。
ただただ荒々しかった、クラブの嵐のように繰り出される暴力とは異なる一撃必殺の凄み、みたいなものが感じられる。最終決戦の相手としては、これ以上にふさわしいキャラはいない。
脱いでも凄い
そして、本作最大の見どころは、やはり高岩さんによる素面アクションだろう。
つい最近まで仮面ライダーの中の人だった高岩さんのアクションの凄さは知ってはいても、既にスーツアクターを引退して2年もの月日が立っている。しかも御年53歳で、今回はスーツなしの素面アクション。果たしてどれほどのことができるのか? ということが気になっていた人たちは多いはずだが、ただひたすらに圧倒された。
一瞬たりとも目が離せない、という形容詞が当てはまる作品は数あれど、本作もまたそういった1作となっている。
年相応にくたびれた感じのおじさんが、腕自慢たちを次々に薙ぎ倒す高揚感。
しかも、ボクシングだとか空手だとかといった単一の格闘技ではなく、時には奪ったナイフや銃を使ったり、イスや棚など、その場にあるものも利用するという臨機応変の格闘術を見せてくれるので飽きが来ない。
対峙する強敵たちのスタイルにバリエーションが豊富なのも、高岩さんのアクションの凄さを引き立てている。
そして、そのどれもがサマになっているのが凄まじい。取ってつけた感が一切ないのだ。
アクション以外の演技の渋さも特筆もので、被り物を脱いでも、その存在感は圧倒的だ。
コメディからシリアスまでなんでもこなす。だからこそ、動きだけで全てを表現するスーツアクターのトップとして一時代を築いて来られたのだろうと感じる。
ファンでなくとも好きになる
ヒロインの渡邉美穂さんは、現役のアイドル。日向坂46という人気グループの一員らしいが、私はまるで興味がなかった。
元々、アイドルにハマったこともない上に、AKB48から始まった秋元 康さん絡みのアイドルグループには、正直うんざりしていたので、本作も高岩さんたちさえ見られれば良い、という気持ちで見ていたのだが、汗に濡れた髪を振り乱して踊るオーディションのシーンには思わず惹きつけられたし、泣きのシーンではグッときた。
もっと歌がうまい人は大勢いるし、もっと演技がうまい人も大勢いるだろう。
しかし、目が離せなくなる、というのは、なかなかいない。
確かにかわいらしいが、それだけではない。アイドルグループの一員ではなく、1人の女優さんとして確かに魅せてくれたのだ。
やる気のないアイドルが、女優という、子どもの頃からの夢に向かって走り出す。気だるそうだった表情が一転し、生き生きとした表情へ変わっていくという、その変わりようを上手く表現していたし、幼少期のトラウマによって泣くことができない、という本作のキモとなる切ない人格設定も、きちんと消化されていた。
私のように、高岩さんや他のライダー俳優さんたちのファンというだけで本作を視聴した人も多いと思うけれど、見終わった時には、この渡邉さんのことも気になる存在にはなるはずだ。
私も、まだファンとまではいかないけれど、この主題歌を早くフルで聴いてみたい、とは思っているし、もしも今後どこかで日向坂46を見聞きすることがあれば、ふと気にしてしまうくらいにはなってしまった。
見終わった後は、みんなが高岩成二
昔から、アクション映画を評する言葉に「映画館を出たら、みんなが◯◯になっていた」というものがある。
この「◯◯」に入るのは、ブルース・リーでもジャッキー・チェンでもいい。子どもたちなら、仮面ライダーやスーパー戦隊の名が挙がるかもしれない。
とにかく、カッコいいアクションを見た後は、格闘技になど縁のない人も、ついマネをしてみたくなるものだ。
そういった意味において、本作を見終わった後には、みんなが高岩成二になっているはずだ。
中には、井上正大さんや佐野 岳さんになっている人もいるかもしれない。しかし、割合的には少数だろう。
それほどまでに、高岩さんのアクションが凄すぎたのだ。
ぶっちゃけていえば、とあるインタビューで「大好きな役所広司さんや中井貴一さんのような芝居を目指した」と語っておられた高岩さんだが、私には武田鉄矢さんにしか見えなかった。それは髪型のせいかもしれないし、ちょっとぽちゃっとした体型のせいだったかもしれない。本作を視聴中、何度も『刑事物語』という、昔、武田鉄矢さんが主演していた和製カンフー映画(?)がフラッシュバックした。
いや、実をいえば『刑事物語』をきちんと観たことは一度もないのだけれど、武田鉄矢さんが半裸でハンガーをヌンチャクのように振り回して戦う有名なシーンをCMか何かで見たことがあって、それが延々と脳内で再生されていたのだ。
しかし、そういった部分を差し引いても、高岩さんのアクションは「異常」だ。キレッキレ。「最高」を通り越している。語彙が足りないと言われようと、「カッコいい」とため息をつくことしかできない。こんなおじさんになりたい、と思う人は少なくないはずである(冒頭で披露したオタ芸もおちゃめだ)。
普通のおじさんが、実は優秀な傭兵で・・・といった作品の設定自体に目新しさはなかったものの、高岩成二という日本アクション界の至宝を引き立てるには、必要な設定だったのだろうと思うし、顔出し初主演となる記念碑的作品としては出色の出来栄えだったと言って良い。
これは、高岩さんだけでなく、坂本浩一監督の代表作ともなるのではないだろうか。頭を空っぽにして、ただただその迫力に身を委ねれば良い、という、まさに娯楽作。エンタメの見本のような作品である。
高岩さんが絡む最初のアクションシーンでは、坂本監督と高岩さんが初めてタッグを組んだ『仮面ライダーW』のお面を被せたり、人気映画監督として登場した田﨑山竜太郎の元ネタが、特撮ファンにはおなじみの田﨑竜太監督であったり、人気若手女優の名前が白石萌々香など、特撮ファンだけでなく、さまざまな人に向けた小ネタが所々に差し込まれている。
期待しても叶うものかはわからないが、是非、続編にも期待したい。その場合は、本作の純粋な続編となるのか、まるで異なるものになるのかさえまるで見えない。『男はつらいよ』的な、日本の各地で美女のために一肌脱ぐといったロードムービー展開も面白いかもしれない。
唯一残念なのは、特撮ファンばかりにアピールされてしまっていることだ。プロモーションとしては間違っていないが、冒頭でも書いたように、特撮ファン以外にも観て欲しい。
現在、「ひかりTV」で独占配信中。
このためだけに「ひかりTV」に加入しても後悔しない、ということだけは声を大にして伝えておきたい。私はおトクなエントリープランに加入した。初月無料の月額350円(税込)である。スマホやタブレット、PCでアプリを使って視聴ができる。安い上にダウンロード視聴にも対応している。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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