ハリウッドで実写化!超名作『シュタインズ・ゲート』を最新作で読み解く

雷堂

もう一度、記憶を消してプレイしたい・・・

そんなファンの口コミで有名になった作品。

2009年、マイクロソフトの「Xbox360」という、日本では圧倒的にマイナーだったゲーム機の専用ソフトとして発売されたにも関わらず、2011年にはアニメ化も果たし、その後は他のハードでも発売され、多くのスピンオフ作品や、小説など他メディア展開も果たした大人気作品が5pb.(現・MAGES.)の『シュタインズ・ゲート』だ。既に発売から10年以上経っているが、未だに色褪せない伝説的な作品である。

かく言う私も、見事なくらいにどハマりし、知り合いのゲーマーさんたちにもオススメして回った。アニメも見たし、スピンオフ作品もコンプした。アドベンチャーゲームで泣いたのは、この作品が初めてである。

しかも、ハリウッドで実写化もするという。

そこで、2018年に『シュタインズ・ゲート エリート』という、いわゆる「完全版」が発表されたのだが、本記事ではそれをプレイして、改めて『シュタインズ・ゲート』という作品の魅力について考えてみた。

10年以上経った今プレイしても、まるで色褪せない本作。いったい何が凄いのか? そのポイントに絞って解説。最後までおつきあいいただければ幸いだ。

目次

スタッフ・キャスト

ここでは本作の主要スタッフとキャストをご紹介(※キャストは、作中で「ラボメン」と呼ばれるキャラクターに限定している)。ウィキペディアに記載のある方はリンクを貼っておくので、他の参加作品など是非チェックしていただきたい。

【スタッフ】

プロデューサー:松原達也

キャラクターデザイン:huke

シナリオ:林 直孝 ・ 下倉バイオ(構成協力)

音楽:阿保 剛

音楽:5ZIZZ

【キャスト】※声優

岡部倫太郎(オカベ リンタロウ):宮野真守

椎名まゆり(シイナ マユリ):花澤香菜

橋田 至(ハシダ イタル):関 智一

牧瀬紅莉栖(マキセ クリス):今井麻美

桐生萌郁(キリュウ モエカ):後藤沙緒里

漆原ルカ(ウルシバラ ルカ):小林ゆう

秋葉留未穂(アキハ ルミホ):桃井はるこ

阿万音鈴羽(アマネスズハ):田村ゆかり

シュタゲのここが凄い!①:クセの強すぎるキャラクターたち

本作の魅力のひとつがクセの強すぎるキャラクターたちだ。

爽やかなイケメンや、学園のマドンナといった、そういった一般ウケするキャラは一人もいない。基本的にギャルゲーなので、女の子たちは皆かわいいが、性格はかなり歪である。以下、各キャラクターをカンタンにご紹介する。

ラボメンNo.001 岡部倫太郎

画像引用元:シュタインズゲート公式サイト

本作の主人公。重度の厨二病が抜けない18歳の東京電機大学1年生で、自身を狂気のマッドサイエンティスト・鳳凰院凶真と名乗っている。「未来ガジェット研究所」という発明サークルの創設者にしてリーダー。ラボメン(ラボラトリー・メンバーの略らしい)No.001。常に白衣を纏っており、「ドクターペッパー」を愛飲している。

謎の「機関」に狙われているという設定で、所構わず厨二病的発言を繰り返し、携帯電話で架空の同志とエア通話をしたりする。「フゥーハハハ」という高笑いも印象的だが、とにかくイタい。初プレイ時には、この岡部の言動一つひとつにウンザリした。この調子で、本当にこの物語は面白くなるのか? と、とにかく不安になったものだが、物語が進むにつれ、実は根の優しい善人で、誰よりも仲間想いな青年であることがわかってくる。厨二病的な振る舞いも、ある仲間のためにやっていたことがわかってきた頃には、すっかり印象が変わってしまう。最初から最後までやっていることは一緒なのに、終盤では、その厨二病的振る舞いが異様にカッコよく見え、主人公たるにふさわしいキャラクターだと思えてくるから不思議だ。

世界線の変動を認知できる「リーディング・シュタイナー」という能力を持っている。

ラボメンNo.002 椎名まゆり

画像引用元:シュタインズゲート公式サイト

岡部倫太郎の幼なじみで16歳の高校2年生。一人称は「まゆしぃ☆」、挨拶は「トゥットゥルー♪」という「ゆるふわ天然」キャラ。かなりおっとりした性格でマイペースだが、運動神経は良いらしい。趣味はコスプレのコス作り。作ったコスは、自分で着るのではなく、仲良しのコスプレイヤーたちに着てもらっているのだが、バイト先である「メイクイーン+ニャン2」では、金髪のウィッグをつけて「マユシィ・ニャンニャン」を名乗っている。好物はバナナとジューシーからあげNo.1。

のんびりとした話し方に加え、自身の心情や状況を表す際に用いる「まゆしぃは、◯◯なのです」という口癖が眠い上にイタくて、当初は全然なじめなかった。ところが、物語が進むにつれて顔を出す健気さに心を鷲掴みにされてしまった。

ラボメンNo.003 橋田 至

画像引用元:シュタインズゲート公式サイト

岡部と同じ東京電機大学1年生で18歳。通称は「ダル」。普段から@ちゃんねる(元ネタは2ちゃんねる)用語を連発し、二次元萌えも隠さない、かなりのキモオタだが、プログラムやハッキングに長けており、岡部からは「スーパーハカー」と呼ばれている。未来ガジェット開発の要とも言える存在だ。

物語の上では、かなりの重要人物だが、見た目や話し方などは完全にネタキャラ。ボケもツッコミもできるマルチプレイヤーとして、他のキャラとの会話劇を盛り上げる。

ラボメンNo.004 牧瀬紅莉栖

画像引用元:シュタインズゲート公式サイト

アメリカのヴィクトル・コンドリア大学脳科学研究所に所属する18歳。既に飛び級で同大学を卒業しており、17歳の時に書いた論文が、学術雑誌・サイエンスに掲載されたという天才少女。普段はアメリカで母と暮らしているが、日本に短期で逆留学しており、タイムトラベルに関する講演に講師として招かれた際に岡部と知り合う。

その経歴も含め、いかにもクールビューティーといった雰囲気を持つが、実は「栗悟飯とカメハメ波」というハンドルネームを持つ隠れ@ちゃんねらーでもあるという、硬軟兼ね備えた良キャラ。性格は、お人好しで面倒見も良いが、「天才」とい呼ばれるがゆえ、父親や周囲とは確執もあり、それが原因で、素の自分を見せないようなところがある。それだけに、自分を色眼鏡で見ない岡部たちと過ごす時間は心地良かったに違いない。本作のヒロインでツンデレ担当。彼女が主役となるトゥルーエンディングは涙なしでは見られない。

ラボメンNo.005 桐生萌郁

画像引用元:シュタインズゲート公式サイト

アークリライトという編集プロダクションでバイトをしている20歳の女性。極度のコミュ障で、人と話すのが苦手だが、メールでのやり取りでは人が変わったように(こちらが本当の姿?)馴れ馴れしく饒舌になる。メールを打つスピードが驚異的に速く、言葉を発するように文字を打つことができる。その様を見た岡部からは「シャイニング・フィンガー(閃光の指圧師)」と呼ばれている。

B88/W59/H88という、まるでグラビアアイドルのようなスタイルを持つキレイなお姉さん枠かと思いきや、実は「ヤンデレ」。常に無表情で何を考えているのかわからないのは、自分の意思がないため。実はSERN(セルン)と呼ばれる組織の傭兵であり、FBと呼ばれる上司からの命令とあらば、例え道徳に反するような任務であっても機械のように黙々とこなす。無表情かつ無感情ゆえの怖さというものが上手く表現されている。新興宗教の教祖に心酔する信者のように、FBに依存しきっている。その弱みにつけ込まれ、都合よく利用されるという、哀しいキャラクターである。

ラボメンNo.006 漆原るか

画像引用元:シュタインズゲート公式サイト

柳林神社の神主の息子で16歳の高校生。まゆりのクラスメイトでもある。容姿、言動共に美少女という「男の娘」で、岡部からは「ルカ子」と呼ばれている。恥ずかしがり屋でおとなしい上に大変素直な性格で、父親の趣味に付き合って、神社では巫女装束を纏ったり、岡部の厨二病設定を信じて、「清心斬魔流」という剣術の手ほどきを受けている(その際に使っている「妖刀・五月雨」とは、岡部が秋葉原の武器屋本舗で980円で購入し、るかに授けたものである)。以前、巫女のコスプレをした美少女と勘違いしたカメラ小僧に絡まれているところを助けてくれた岡部を慕っており、「いっそ、女性になりたい」という願望を持つ。

「男の娘」という設定は、単にそういった趣向を持つ誰かの需要に応えるためというだけでなく、自らの「性」について悩む姿を描くことで、いわゆる“LGBTQ”に対する理解も示しているように見える。

“LGBTQ”とは、L:レズビアン(女性同性愛者)、G:ゲイ(男性同性愛者)、B:バイセクシュアル(両性愛者)、T:トランスジェンダー(出生時の性別と性の自認が異なる人)、Q:クイアもしくはクエスチョニング(自らの性の在り方について決めたくない人などのこと)のそれぞれの頭文字をとった言葉で、性的マイノリティを表す総称のひとつ。

ラボメンNo.007 フェイリス・ニャンニャン

画像引用元:シュタインズゲート公式サイト

17歳の高校2年生。まゆりのバイト先でもある秋葉原のネコ耳メイド喫茶「メイクイーン+ニャン2」の人気ナンバーワンメイドである。本名は秋葉 留未穂。岡部を圧倒するほどの妄想トークが持ち味で、相手の目を見つめることで心を読めるという「チェシャー・ブレイク(チェシャ猫の微笑)」という能力を持っていると自称し、語尾に「〜ニャン」をつけるなど、曲者揃いの本作の中でも最高レベルでクセのあるキャラ。

かなりの「ぶりっ子」だが、実は、秋葉原一帯の地主の娘という側面も持ち、裕福であるにも関わらず、それをおくびにも出さない奥ゆかしさも持ち合わせる。10年前に最愛の父を亡くしたという、深い悲しみを背負ったキャラでもある。

ラボメンNo.008 阿万音鈴羽

画像引用元:シュタインズゲート公式サイト

未来ガジェット研究所階下にある「ブラウン管工房」のバイトで18歳。70年代風ヴィンテージもののジャージとマウンテンバイクを愛用している「スポーツ系」女子。単に運動神経が優れているだけでなく、サバイバルや格闘術にも精通しており、自分のことを「一人前の戦士」と称していることから、岡部からは「バイト戦士」と呼ばれている。

実は、2036年からこの時代にやってきたタイムトラベラーである。岡部たちが発明した「電話レンジ(仮)」がきっかけとなって、やがて世界はSERNに支配されるのだが、その悲惨な未来を変えるため、素性も明かさず、たった独りで見知らぬ世界で戦い続ける健気な少女。「裏の主人公」とも呼ばれる最重要人物である。

シュタゲのここが凄い!②:「現実」と「非現実」の程よいミックス

本作はもちろんフィクションである。なのに、妙な地続き感がある。それは「現実」を絶妙な度合いでブレンドしているからだ。

物語は2010年7月28日からスタートする。舞台は秋葉原。実在の街を舞台にした作品は他にもあるが、劇中に登場する場所のほとんどにモデルとなった場所が存在し、知っている人なら見ればわかる、といった内容になっていることも地続き感を増している。実在する名前をそのまま用いているものもあるが、「秋葉原ラジオ会館」をモデルにした「ラジオ会館」や、「柳森神社」をモデルにした「柳林神社」、「牛丼専門サンボ」をモデルにした「牛丼さんぽ」など、名前を部分的に変えて使っているものも多い。これはフィクション作品によくある手法だが、効果的であることは間違いない。特に本作のように実物に限りなく近い背景画像が使われていれば尚更だ。私も以前、いわゆる聖地巡礼をしたことがあったが、実物を見たときには、大人げもなく感動してしまった。

ブレンドされた「現実」は、それだけに限らない。都市伝説や陰謀論など、主にインターネット上で語られていた様々なことが盛り込まれていることは、この作品の虚構と現実との境を曖昧にしている最大の要因だろう。

インターネット上での出来事というのは、どこか現実味を欠いたところがある。ディスプレイの中に浮かぶ文字列でしか知覚し得ない情報というのは、身近な出来事だとは感じにくい。なんだか二次元の世界の出来事のように感じられてしまう。そのくせ、それを見たことがあるとか、誰かが話しているのを聞いたという記憶は鮮明だ。そういった記憶の扉をそっと開けられるような感覚が、この作品にはある。画面上には二次元キャラがいるだけなので、そもそも現実でないことはわかりきっているのだが、その二次元キャラたちが、以前に二次元で起こっていた話題を語ることで、虚構と現実の境界線が崩れる。

タイムリープをテーマにした本作に、ジョン・タイターのネタを盛り込んだところも秀逸だ。ジョン・タイターとは、2000年にインターネット上に現れた、2036年からやってきたという、自称タイムトラベラーである。彼は、ある目的のためにIBM5100というレトロPCを手に入れようと過去にやってきたという話だったのだが、このあたりの話を実に上手く取り込んでいる。

そもそも本作は、「電話レンジ(仮)」というタイムマシンを発明してしまったことがきっかけとなって展開する物語である。これだけだと、荒唐無稽な物語でしかないのだが、そのタイムマシンの能力が「メールを過去に送ることができる」だけ、というのが興味深い。しかも、送れるメールは「全角で18文字、半角文字なら36文字しか送れない(それ以上入力しても消えてしまう)」という。さらに、1通あたり全角で6文字ずつ(半角なら12文字ずつ)に分けられて届くという細かい設定まである。

人が乗れるタイムマシン、というようなものでないことに、妙にリアリティがある。どんな発明品だって、最初はほんの些細なもののはずなのだ。それがやがて発展し、思いもよらないほどのものになる、というのが世の常だろう。例えば、1985年に誕生した最初期の携帯電話「ショルダーホン」は、肩掛け式で、なんと3kgもの重さがあったそうである。それが今や片手にスッポリと収まるようなサイズ感で、割と重いものにしたって、200g程度。当時からすれば15分の1程度の重さということになる。

画像引用元:NTT技術史料館

そういった意味において、偶然完成したタイムマシンの性能が、「ちょっとした文章を過去に送信できるだけ」というのは、なんだかあり得そうな気がしてくる。

たったそれだけの性能ではあるけれど、それが及ぼす効果は大きい。何といっても、歴史を変えてしまうほどなのだ。作中では「バタフライ効果(蝶の羽ばたきほどの微かな力によって、大きな変化が生まれること)」という言葉で説明されているが、確かに、過去に飛行機事故で命を落としてしまった人がいたとして、その人が飛行機に乗る前に「その飛行機は落ちるぞ」とメールを送ったらどうだろう? そんなワケのわからないメールなど信じないで、結局、事故に巻き込まれる可能性も高いが、それを気持ち悪いと感じ、「やめておこう」となる可能性だってゼロではない。そうなれば、今という時代が、その人が生きている時代となるわけだ。いろいろな物事が変わってくるだろう。

こういった、ひょっとしたら起こり得ること、によって、シュタゲの非現実感は揺さぶり続けられる。

一時期、流行りまくった異世界モノは、現実感を大きく欠いていた。それが良いとか悪いとかいう話ではないし、だからシュタゲの方が面白い、なんて言うつもりもない。どちらにしたって、面白いものは面白いのだから。しかし、100%フィクションの物語と、実話をベースにした物語では、見ているこちらの受け取り方は当然に異なる。もちろんシュタゲだって、100%フィクションなのだけれど、現実に起こった要素を散りばめることで、非現実が現実に侵食してくるような感覚を覚える。それが本作の人気の一因となったことは間違いないと言えよう。

シュタゲのここが凄い!③:フォーントリガー

本作独自のシステムが「フォーントリガー」だ。

古くからのゲームファンにとって、ADV(アドベンチャー)ゲームとは、場面ごとに適切なコマンドを選択して進めていくというイメージではないだろうか? 例えば、ファミコン世代である私にとってのADVとは「ポートピア連続殺人事件」を筆頭に、「さんまの名探偵」「ファミコン探偵倶楽部」「新鬼ヶ島」「水晶のドラゴン」「リサの妖精伝説」「中山美穂のトキメキハイスクール」などがパッと浮かぶ。懐かしい。全てコマンド選択式だったはずだ。

これらは、プレイヤーが自ら主人公として物語に介入し、あちこち巡り、謎を解き明かしていくという、ゲームらしいシステムだったわけだが、本作はそうではない。基本的には、流れ続けるテキストを読み進めるだけ。上述したレトロADVに比べると、プレイヤーがゲームに介入する余地は圧倒的に少ない。しかも、かなり特殊である。それが「フォーントリガー」。その名のとおり、電話(フォーン)が引き金(トリガー)となるシステムである。

プレイヤーに唯一許されているゲームへの介入方法は、携帯電話の使用である。プレイヤーの自由になるのは、本当にこれだけ。ただし、圧倒的に自由だった。「だった」と過去形にしたのは、以前、私がプレイしたXbox360バージョンの「シュタインズゲート」と、今回プレイした「シュタインズゲートエリート」では扱いが違うためだ。

前バージョンでは、主人公・岡部の所持する携帯は、いつでも取り出すことができた。自分から仲間に連絡をすることも、待ち受け画面や着信音を好みのものにカスタマイズすることもできた。そして、仲間から連絡があっても、それをチェックするタイミングはプレイヤーに委ねられていた。放置したって良かったのだ。ある程度のタイムリミットはあったので、しばらくすれば電話は切れるし、メールへの返信も大事なタイミングを失ってしまうこともある。しかしそれこそが、プレイヤーに与えられていた圧倒的な自由だったし、基本的にテキストを読み進めるだけのゲームに没入させるポイントだった。いつ訪れるかわからない重要な分岐点を手探りで見つけ出さなければならないというスリルもあった。

しかし、「エリート」では、携帯を自由に取り出すという操作が奪われた。仲間からの連絡にリアクションすることしかできなくなってしまったのだ。それに返信するかスルーするかという自由は未だ残されてはいるものの、没入感は著しく削がれてしまったし、テキストを「スキップ」していても、物語の分岐点では勝手にスキップが止まり、選択肢を選ぶことができるという生ぬるい仕様になってしまった。

フォーントリガー時

これには、フルアニメーションを導入したことが大きいのだろう。画面上でキャラクターたちが目まぐるしく演技を続けているのに、それを自由なタイミングで遮って携帯を取り出すのは不自然だ。プレイヤーに自由を与えられる反面、演出が物足りない紙芝居のようだった前バージョンと、プレイヤーは傍観者とならざるを得ない反面、キャラクターたちが生き生きとした演技を見せてくれる本バージョンと、どちらも一長一短ではあるが、私はやはり前者が好きである。

ただし、この改変は、初見でもプレイしやすくなった、とは言える。少なくとも前バージョンでは、攻略サイトなどを覗かなければ、どのタイミングで携帯を使えば良いのかさえわからない、といったことがあったためだ。一言一句を見逃さないペースで読み進めた場合、1周するのに10時間以上かかる作品なだけに、正解を求めて何度もやり直さなければならないというのは苦痛だ。そこからすれば、こういった仕様は歓迎されるのかもしれない。

また、フルアニメーションになったことで、もうひとつ良かった点がある。それは、退屈な序盤が、それほど苦でなくなったことだ。

この作品を楽しめるかどうかは、兎にも角にも序盤を乗り越えられるかどうかである。プレイヤーに物語の世界観などを叩き込むため、みっちりとした前置きが用意されているからだ。特に本作は、タイムリープが重要なテーマとなっているため、科学の分野で実際に存在するいくつかのタイムリープ理論などについても言及される。よほどこういう分野について興味のある人でも眠くなると思う。基本的にテキストを読み進める形式なだけに、どうしても退屈になってしまうのだ。

ところが、このシーンがアニメになるだけで、苦もなく眺めていられる。動きがあるということの効能を痛いほど思い知らされた次第である。

シュタゲの凄さ!④:圧倒的かつ緻密なシナリオ

冒頭にも書いたとおり、本作はなんと、ハリウッドで実写化されるのだという。

その発表から既に2年が経過しているし、出自がゲームの上、アニメ化もされてしまったものだから、実写化に不安を感じるファンも多いことと思う。ハリウッドで実写化といえば『ドラゴンボール』が真っ先に浮かんでしまうし。

しかし本作の魅力は、なんと言っても、練り上げられたドラマであり、絵柄そのものが魅力だった『ドラゴンボール』などとは全く違う。

演出といっても、元はテキストADVだから、立ち絵の紙芝居に音と光が加わる程度だったわけで、今以上に悪くなる心配はなさそうだ(『エリート』はアニメで進行する)。

あの、闇鍋を煮詰めたようなクセの強すぎるキャラたちがどうなるのか? といった不安がないわけではないが、「ハリウッドで実写化」という文言にアレルギー反応を起こす“2次元好き”も、それなりに安心して楽しめる作品になるのではないか? と思っている。

私がそう考える最大の理由は、本作の脚本である。

『シュタインズゲート』をここまでの作品にしたのは、キャラクターデザインも、豪華声優の力も勿論ないわけではないが、それは素晴らしい脇役でしかない、と私は思う。

主役はとにかく脚本である。この脚本があったからこそ、本作は超人気作となったのだ。

ありがちな「タイムリープもの」でありながら、かつてなかったほどの現実感を伴う舞台設定と時代感。

巧妙にばら撒かれた伏線が、キッチリと回収される様には一種の快感を覚える。

「エヴァンゲリオン」以降、「謎は謎のままでも良い」といった、間違った解釈の「エヴァ」フォロワーが続出し、これ見よがしな伏線が回収されずに終わるような作品も増えた中で、ここまで丁寧に伏線回収してみせる作品は決して多くない。

ストーリー分岐によって、6つのエンディングが用意されており、それぞれが秀逸に練られているのだが、中でもトゥルーエンディングでの伏線回収は驚異的である。何気なく眺めていた全てのことが、このために存在していたのだと理解できた時の驚きは大きい。ドーパミンが出まくるというか、アハ体験しまくりというか、脳科学には詳しくないが、とにかく興奮冷めやらぬ状態になることは間違いない。

「タイムマシン」とか「陰謀論」といったキーワードを多用し、若者たちのほんの小さな出来心が、やがては国家間の、そして歴史を塗り替えるほどの大問題に発展するという、一見すると荒唐無稽としか思えない内容を、現代の秋葉原を舞台に、ここまでリアリティを持った物語に仕立てた技量には舌を巻くばかりだ。

ちなみに、本作が秀逸すぎて、この後にリリースされた同社の科学ADVシリーズが陳腐な二番煎じにしか見えなくなってしまった。それには、「オタク」を主人公にしたとか、ネットスラングを多用するとか、シュタゲに似通った部分も多かったからなのだが、二匹目のどじょうを狙った感が強すぎてダメだった。一応フォローすると、シュタゲの前にリリースされた「カオスヘッド」の世界観も一緒だったので、そもそもこのシリーズが描こうとした世界観としては通底しており、シュタゲが売れたからシュタゲの世界観に寄せたワケでないことは理解している。要するに、頭ではわかっていても・・・というヤツだ。ゲームにしろ、音楽にしろ、傑作の次は本当に大変である。

まとめ:ギャルゲーなんて言葉では括れない傑作

身も蓋もない言い方をすれば、本作は「ギャルゲー」である。

登場するかわいい女の子たちとイチャイチャするのが目的で、全部で6通りのエンディングが用意されている。つまり、このゲームをコンプしようとすれば、少なくとも6回はかわいい女の子とイチャイチャできるというわけだ。

「気持ち悪い・・・」と拒否反応を示す人もいるだろう。しかし、「ギャルゲー」だから何だというのか? 「ギャルゲー」という言葉に拒絶反応を示すのは、大抵、それを知らない人たちだ。

私もそうだった。古い作品でいえば、『ときめきメモリアル(ときメモ)』が有名だが、私はあの作品をプレイしたことがない。にも関わらず、「ゲームの中で、疑似恋愛なんてありえない」と思っていたし、当時、同じように思っていた人は少なくないはずだ。不思議なことに、私の周りで『ときメモ』を批判していたのは、圧倒的に未プレイの人たちばかりだった。

要するに、面白いか面白くないかではなく、先入観に縛られていただけ。

そもそも、本作をプレイしてみれば理解してもらえると思うが、女の子とイチャイチャできるのは事実としても、いつの間にか、そんなことはどうでもよくなっているはずだ。ただただ素晴らしいシナリオの虜になる。

先述した「フォーントリガー」の改変については、個人的な思い入れもあるけれど、「シュタインズゲート エリート」を総括すれば、既にシュタゲをクリアした方にも、まだプレイしたことのない方にもオススメしたい作品である。

既にクリアした方には、フルアニメーションの感動を(テキストを「オート」にしておけば、本当にアニメを見ている感覚で眺められる)。未プレイの方には、この素晴らしいシナリオを堪能していただきたい。

ここでは紹介できなかったけれど、魅力いっぱいのサブキャラたちも本作の見どころのひとつ。是非、本編でお楽しみいただきたい。

それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。

雷堂

エル・プサイ・コングルゥ

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この記事を書いた人

特撮ヒーローのレビュー(旧作から最新作まで)が中心ですが、ガジェットやゲームなど、好きなものを思いつくままに書いています。僕と握手!
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