1977年6月15日放送『快傑ズバット』第20話「女ドラゴン 涙の誓い」をレビュー。
もしも、愛する家族が事件や事故に巻き込まれて命を落とすようなことがあったなら、その加害者を、自らの手で「殺してやりたい」と思わずにいられるだろうか? 「罪を憎んで人を憎まず」・・・そんな言葉を素直に飲み込むことができるだろうか?
そういった切ない想いを抱えて生きる一人の女性を描く今回のエピソードを、3つの見どころに絞って解説。最後までおつきあいいただければ幸いだ。
キャスト
まず、今回のキャストをご紹介。本作初登場で、ウィキペディアに記載のある方についてはリンクを貼っておくので、他の参加作品も是非チェックしていただきたい。「え? あの作品に出てた人?」といった発見があるかもしれない。
【キャスト】
快傑ズバット/早川 健:宮内 洋
飛鳥みどり:大城信子
寺田オサム:中野宣之
加村令香:毬 杏奴
十文字清兵衛:三谷 昇(劇中では「青兵衛」と呼ばれている。誤字か?)
レッドドラゴン:川村真樹
令香の弟:蓜島博之
首領L:はやみ竜次
ナレーター:青森 伸
東条進吾:斉藤 真
用心棒・レッドドラゴン(?)
「青十字軍」という悪党の本部に潜り込む人影。女性である。潜り込んでいるわりには、派手なブルーの拳法着を身にまとい、敷地内に流れる小川は普通にバシャバシャ音を立てて渡ったりと、なんだか中途半端である。
木陰に身を隠しているところを、後ろから近づいてきた構成員に捕らえられてしまう。
結構な人数の構成員が近づいているのに、全く気配に気づかなかったあたり、ド素人の臭いがプンプンする。青十字軍のボス・十文字青兵衛も「念のため、殺してしまえ」とまるで興味がない様子。
途端に鳴り響くエアギター。我らがヒーロー・早川 健の登場である。先述したとおり、ここは青十字軍の本部。他人の私有地であろうと、ピンチの女性を救うためならお構いなしというワケだ。その躊躇の無さにシビれて憧れる。
向けられた銃を逆手に取って、周囲のザコを一掃する早川。あいかわらず、ハチャメチャな強さである。拳法着の女性も、さぞ喜んでいるだろうと思いきや、いきなり早川に銃を突きつける。
どうやらこの女性、青兵衛が最近雇った「レッドドラゴン」という用心棒らしい。青兵衛も今の今まで顔を知らなかったのだとか。そんなことある?? そもそも、「レッド」なのに、青い拳法着とは? この疑問は、後に明らかになる。
中国拳法・八卦掌(太極拳、形意拳と並ぶ中国武術の一つ)の使い手らしいが、いつもどおり「その腕前は、日本じゃあ2番目だ」とディスる早川。そこで、自称ナンバーワンの座をかけて拳法対決が始まるのだが、何故かあっさり負ける早川。
早川は気づいたのだ。そしてこっそりと掠め取った。それは彼女の身分を示すもの。なんと、それは警察手帳だった。
彼女の名は加村令香。早川の友人・東条刑事の部下でもある。彼女には幼い弟がいたのだが、青十字軍のボス・青兵衛の乗るクルマで轢き殺されてしまったらしい。
警察なのだから、普通に逮捕すれば良いと思うのだが、何故か手を出せないらしく、それならば、と、青兵衛が新たに雇った用心棒・レッドドラゴンになりすまして青兵衛に近づき、復讐のタイミングを狙っているのだった。
しかし、青兵衛もバカではない。自分が雇ったはずの用心棒に、どこか違和感を感じているのだろう。何かにつけて邪魔をする早川を殺したら、信用してやると加村に持ちかける。
用心棒・レッドドラゴン(真)
一方、本物のレッドドラゴンも青兵衛の元へと向かっていた(当然だ)。加村が何故、本物とバッティングする可能性を考えないのかはマジで不明だが、刻々とその時は迫る。
それを察した早川は、本物のレッドドラゴンが青兵衛の元にやってくる前に手を打つ。レッドドラゴンが乗るタクシーを強引に止め、今度こそ本当の拳法日本一対決を持ちかける(自称であることは変わりない)。早川が勝てば、レッドドラゴンは青兵衛に会うことなく姿を消すと約束する。自信満々だ。そして、拳法着も赤い。まさにレッドドラゴン。
舞台は神社。
先攻のレッドドラゴンは、そこに置かれた狛犬に目をつける。たった一発の飛び蹴りで、狛犬の2個の目玉を蹴り飛ばし、こんなことができるのは私だけだと胸を張る。
対する早川は、レッドドラゴンがぶっ飛ばした狛犬の目玉を空中に放り投げた直後に自らも飛び、目玉をキック。蹴られた目玉は、神社の鐘に反射して、元の狛犬に戻る。早川はもう一度飛び上がり、狛犬の前足の下にある球をキック。レッドドラゴンは、その球をモロに受け、ダウン。
それだけではない。前足の下の球を失った狛犬は前のめりに倒れてしまうのだが、その衝撃なのか、アゴが外れて、笑ったように見える。まるで獅子舞だ。
「石の狛犬を笑わすことができる人間が、世界に何人いるかな?」と思いっきりドヤる。蝶番が見えることは黙っておこう。
完勝だけれど罰当たり。しかし、これで本物のレッドドラゴンと加村が出会うことはなくなった、と胸を撫で下ろす早川だが、現実はそう上手くいかない。
十文字青兵衛
今回、三谷 昇さんが演じる今回のボス・十文字青兵衛の存在感が際立っている。
物腰はやけに柔らかく、飼い猫には赤ちゃん言葉で話しかける。そんな不気味さを特異な風貌が助長する。オラついた感じは一切ないが、独特の凄みがある。
加村が幼い弟をクルマで轢き殺された話を聞いた早川が、「これまでに何人を轢き殺した?」と問いかけると、「覚えていません。人を轢き殺すのは趣味ですから」と、恐ろしいことを言い出す。
そうして、偽レッドドラゴン(加村)と早川とで殺し合いをさせるのだが、戦いの中で早川は、わざと加村の攻撃を食らって倒れる。そこで青兵衛が、加村に銃を手渡し「これで早川を殺せ」と命じる。加村は、言われるままに早川に銃口を向けた直後、振り返って青兵衛に引き金を引く!が、弾は出ない。「なぜ?」と焦る加村。「親切に教えてくれた人がいるのです」と高笑いする青兵衛。青兵衛の後ろから姿を見せたのは、本物のレッドドラゴン。
「約束を破ったな!レッドドラゴン!」
驚いたのは早川である。先ほど、日本一対決で完膚なきまでに叩きのめしたレッドドラゴンではあったが、加村の技を受けて負傷した状態では、さすがに相手が悪い。それに加えて青兵衛の銃が早川を狙う。追い詰められ、屋上から真っ逆さまに転落してしまう。
その後、刑事であることがバレた加村は本物のレッドドラゴンを相手に終始劣勢。
いよいよ最期かというところで、いつものエンジン音が響き渡る。「快傑ズバーット!」と名乗りを上げるシーンでも、青兵衛の「かいけつ・・・ズバーッ(最後の「ト」は発音しない)?」というセリフが心憎い。
「暴力団「青十字軍」を動かし、非道を重ね、人々を苦しめ、あまつさえ罪もない人々を殺し、刑事までをも殺そうとした十文字青兵衛、許さん!」
まずは「青十字軍」が暴力団の名前だと知って驚愕するが、ここでズバットとレッドドラゴンとの拳法対決・・・かと思ったら、最後は素手ではなく、十字剣を腹部に突き刺して勝利というなんでもありなズバットにまた驚愕する。
さすがに卑怯じゃないかと思ったが、正義のヒーローに向かって「卑怯者」は御法度なのだろう。一言「強いよ・・・」と、うめいて倒れるレッドドラゴンがちょっと悲しい。
続いて追い詰めた青兵衛に「2月2日、飛鳥五郎という男を殺したのは貴様か!?」と尋ねるズバットに、「サンフランシスコにいた・・・」と語る青兵衛。先ほどの「ズバーッ」という発音も、アメリカ帰りであることが影響しているのかもしれない。
トドメはいつもの「ズバットアッタァック!」でエンド。行動不能になった青兵衛と、自らの復讐を果たしてくれた早川に一言だけでもお礼を言いたい加村を残し、ヒーローは風のように去っていくのだった。カッコいいなあ。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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