2022年に新作映画も公開されるあの名作がモチーフ。
超有名な戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」をモチーフとした『快傑ズバット』第18話「危うし!シャボン玉の恋」(監督:田中秀夫 脚本:長坂秀佳)をレビューします。
元ネタとなった「シラノ・ド・ベルジュラック」のあらすじも併せて解説します。どうぞ最後までお付き合いください。
キャスト
今回のキャストをご紹介します。本作初登場でウィキペディアに記載のある方はリンクを貼っておくので、他の参加作品などもチェックしてみてください。「え? あの人が出てたの?」なんて発見があるかもしれません。
【キャスト】
快傑ズバット/早川 健:宮内 洋
飛鳥みどり:大城信子
寺田オサム:中野宣之
栗須 伸/黒ひげ:松川 勉
露草アンヌ:嶋めぐみ
白野紅児:高橋英郎
死神サミー:辰馬 伸
マチ子先生:結城なほ子
京子先生:上田かほり
園児A:近藤秀樹
園児B:吉田利香
首領L:はやみ竜次
ナレーター:青森 伸
東条進吾:斉藤 真
『シラノ・ド・ベルジュラック』とは?
1897年にフランスで生まれた戯曲である。後にブロードウェイでミュージカルになり、映画化もされている。
シラノ・ド・ベルジュラックというのは男の名である。哲学者にして理学者。さらに詩や音楽をたしなみ、剣の腕も一流というマルチな才能を持つが、ビジュアル的には最悪。要するにブサイクということだ。
美しき従姉妹のロクサーヌに恋するものの、ロクサーヌが恋焦がれる相手は、友人のクリスチャン。クリスチャンはイケメンだが、賢くない、という、シラノとはまるで正反対の男。彼もまたロクサーヌに心惹かれるが、その想いを伝える術を知らなかった。
そこでシラノがクリスチャンの代わりに言葉を紡ぐ・・・というストーリー。戯曲のあらすじは以下の通り。全5幕で構成されている。
第1幕 ブルゴーニュ座、芝居の場長鼻のシラノが上演中の劇場に乱入し、貴族らに喧嘩を売り、芝居をぶち壊す。ひそかに恋い焦がれる従妹ロクサーヌに言い寄っていた貴族を、シラノは即興の詩をとなえながら決闘して、倒す。
第2幕 詩人御用達料理店の場ロクサーヌにシラノは呼び出されるが、彼女の恋の相手が美男のクリスチャンであることを知らされる。クリスチャンもまた彼女に一目ぼれしていた。しかしクリスチャンは姿こそ美しいが、ことばが貧しく、ロクサーヌにその恋心を打ち明けるすべを知らない。シラノは自分がロクサーヌにあてて書いた恋文を渡し、これをクリスチャンが書いたものとしてロクサーヌに送るように言う。
第3幕 ロクサーヌ接吻の場夜、ロクサーヌ邸のバルコニーの下で、クリスチャンはロクサーヌに恋心を打ち明ける。しかし彼の口からは凡庸なことばしか出てこない。ロクサーヌが幻滅を感じ始めると、シラノがクリスチャンの代役となり、美しい修辞に彩られた愛の言葉を告げる。彼女はそのことばに陶酔し、クリスチャンに接吻を許す。嫉妬にかられ、横恋慕のド・ギッシュ伯爵がクリスチャンとシラノの二人を戦場へ送る。
第4幕 ガスコン青年隊の場クリスチャンとシラノはアラスの戦場にいる。戦場でもシラノはクリスチャンになりかわり、危険を顧みずロクサーヌに恋文を毎日送る。クリスチャンはそのことを知らない。恋文に惹かれてロクサーヌは戦場に慰問に来る。ロクサーヌが愛しているのはいまやクリスチャンの美しい姿かたちではなく、彼が「書いた」恋文の内容が伝える人柄であることを、彼女は語る。絶望したクリスチャンは前線に飛び出て戦死する。手紙の本当の書き手が誰であるかは明らかにされなかった。
第5幕 シラノ週報の場クリスチャンと死に別れたロクサーヌは、修道院でひっそりと暮していた。ロクサーヌのもとへ、シラノは土曜日ごとに訪問し、その週の出来事を報告するのが習慣になっていた。15年後のある土曜日、いつものようにロクサーヌのところへシラノが向っていると、彼の敵対者が彼の頭に材木を落とし、彼は頭部に重傷を負った。シラノは重傷を負ったまま、ロクサーヌのもとへ向う。この日、ロクサーヌはかつてクリスチャンから貰った恋文をシラノに初めて見せ、シラノにそれを読ませる。日がすっかり暮れ、手紙をとても読むことのできないような暗さになっても、シラノがその手紙を読んでいることにロクサーヌは気づく。そしてその手紙を読む声は、かつて自分がバルコニーの上から聞いた声であることも。自分の死の間際になってはじめて行う恋心の告白、これこそシラノの心意気であった。ロクサーヌの腕のなかでシラノは息をひきとる。
引用元:ウィキペディア
先ほど、ミュージカルや映画にもなったと書いたが、他にも様々な作品のモチーフになっている。
例えば、手塚治虫先生の名作『ブラックジャック』にも「気が弱いシラノ」という物語がある。これは、あからさまに「シラノ・ド・ベルジュラック」へのオマージュをうたっている作品だが、ひっそりとモチーフにした作品は数限りなくあるはずである。モチーフは同じでも、作家によって味付けが違うのが物語の叙述の面白さであると思う。
今回の『快傑ズバット』は、ズバット流というか、脚本家・長坂流の味付けがなされている。いつも通りの濃い味付けだ。
三角関係
さて、先述した『シラノ・ド・ベルジュラック』に照らして、今回の登場人物を見てみよう。
まず、今回の主人公が白野紅児。
「シラノ」はそのまま。「ベルジュラック」の「ベルジュ」を「紅児(ベニジ)」と置き換えたようだ。
この白野、「草の実学園」という児童施設の園長・露草アンヌに密かに恋焦がれている。この露草アンヌこそが今回のヒロイン。ちなみに、露草アンヌを「ツユクサ アンヌ」と読んではいけない。「ロクサ アンヌ」と読む。要するに「ロクサーヌ」。『シラノ・ド・ベルジュラック』のヒロイン、ロクサーヌを文字っているのだ。
しかし、アンヌには恋人がいた。それが栗須 伸(クリス シン)。「クリスチャン」を文字ったものだろう。
『シラノ・ド・ベルジュラック』では、ブサイクだが多才なシラノが、イケメンだが賢くはないクリスチャンのために一肌脱ぐといった設定だったが、『ズバット』では、お人好しなだけの男・白野が、アンヌが恋する、いけすかない紳士・栗須に嫉妬する、という設定に改められている。
アンヌに気に入られたい一心(子ども好きでもあるようだ)で、草の実学園の子どもたちの前でシャボン玉を披露する白野。愉快なお兄さんキャラを推していきたいらしい。この時代にインスタがあれば、「シャボン玉おじさん」ならぬ「シャボン玉お兄さん」として人気者になっていたかもしれない。
白野が恋するアンヌは既に父を亡くしており、数十億もの遺産を相続していた。この草の実学園もそのときに受け継いだものなのか、もしくは子どもが好きなアンナが興したものなのだろう。若くして園長を務めているのもそういった理由からに違いない。
草の実学園の花壇には、毎週水曜日の夜になると、決まって、誰かが花を植えてくれていた。園では、栗須の粋な計らいだと思われていたのだが、実は、その栗須は、アンナの数十億の資産を狙っている悪党だった。彼の正体は、黒ひげ。悪の大組織・ダッカーの一員で、黒ひげ党のボス。今にもタルから飛び出してきそうなネーミングはチャーミングだが、毒ガスで園児たちを殺し、アンヌと婚姻を結んで資産を奪おうと考えるなど、その手口はえげつない。
偶然、栗須の正体に気づいた白野は、その企みを阻止しようと躍起になるが、全て裏目に出てしまい、ついにはアンヌから「もう来ないで」と出禁を食らってしまう。
失意の白野は、黒ひげ党に目をつけられ、凄惨なリンチを加えられる。早川に救われるものの、心身ともにボロボロ。気づいた時には病院のベッドの上。しかし、その日が水曜日だと気づくと、早川の目を盗んで、病院のベッドから姿を消してしまう。時刻は既に真夜中である。
そこで、ハッと気づく早川。草の実学園に駆けつけてみると、土砂降りの中、花壇に苗を植える白野の姿があった。早川の制止も聞かず、ボロボロの身体を引きずって、「子どもたちが楽しみにしているんだ」と苗を植え続ける白野に、そっと傘を差しのべたのはアンヌだった。
やはり、こういう善行は「僕がやりました!」なんてアピールしない方が刺さるものだ。アンヌは、白野に今までのことを謝罪する。ベタではあるが、それゆえに泣けるシーンである。
用心棒・死神サミー
黒ひげ党の用心棒が死神サミー。全身にアメフト装備をしているが、顔色はスポーツマンとは思えないほど青白い。額の十字架が不気味ではある。
「アメリカンフットボールの名手。ただし、その腕前は日本じゃあ2番目だ」とディスる早川。安定の展開である。
そうして始まるアメフト(自称)日本一対決。先攻は死神サミー。キックしたボールで岩が爆発する。アメフトというより、「ゴレンジャーハリケーン」みたいになっている。アメフトの試合でボールが爆発したら、もはやテロである。
それに対する早川は、ジャンプして叩きつけたボールが、モグラのように地中を潜航した後、飛び出してサミーをノックアウトする。少年野球をテーマにした『それゆけ!レッドビッキーズ』に登場した魔球・ミルクボールのような軌跡を描く。どっちが勝ちでもいいけれど、少なくともこれはアメフト日本一を賭けた勝負とは言えない気がする。
黒ひげ危機一髪
邪魔ばかりする白野を、秘密の地下牢に閉じ込め、水責めで殺してしまおうとする黒ひげは、アンヌに婚姻届への署名押印を強要するが、黒ひげの正体を知ったアンヌは頑として応じない。
一方、白野を探し続ける早川は、とある洞窟の奥から、シャボン玉が飛んでくるのを発見する。
水責めをされていた白野が自分の居場所を知らせるために飛ばしていたものだったが、そこに近づいた途端、黒ひげが仕掛けた爆弾が爆発してしまい、早川は傷つき倒れてしまう。
爆発音を聞き、勝ち誇る黒ひげの前に、爆音を轟かせてズバッカーが現れる。
「遺産を手に入れるため、アンヌさんとの結婚を謀り、毒ガスを用いて園児を殺そうとし、あまつさえ罪もない少年を殺そうとした栗須 伸、許さん!」
黒ひげではなく、栗須の名を呼んだのは、「シラノ・ド・ベルジュラック」を意識してのことだろうか? いずれにせよ、こういうのはシリーズ初である。黒ひげを追い詰めるズバットの前に、死神サミーが再び現れる。今度は毒ガス入りのラグビーボールを爆発させ、ズバットを弱らせてからトドメを刺そうとするサミー。セコいけれど、効果的。
いや、そもそもズバットスーツって、宇宙探検用じゃあなかったか? 毒ガスが効くようだと、普通に外気が入ってくる構造じゃないか・・・そんな不安をよそに、卑劣なサミーをボコるズバット。そして最後はナイフをタルにぶっ刺したりせず、ズバットアッタァック!(ただの飛び蹴り)で決まり。
白野はアンヌとお互いの無事を確かめ合うハッピーエンドを迎える。
しかし、恩人である早川は、いつも通り、一言もなく姿を消してしまう。ヒーローは決して恩を売らない。そんなカッコいい生き様を見せてくれるズバットが素敵だ。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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