2022年7月22日に封切られた夏映画『劇場版 仮面ライダーリバイス バトルファミリア』(監督:坂本浩一 脚本:木下半太)
TV本編では多少の失速が感じられるものの、基本的に『仮面ライダーリバイス』関連の作品にハズレなし、というのが私の意見だ。
前作『仮面ライダーセイバー』の最終回後に放送された「増刊号」では、バイスがオナラをして臭い、といった幼稚な演出が目立ったけれど、あれはあくまでも『セイバー』である。
それ以前に劇場公開された初お披露目の夏映画は、TV本編を期待させるだけの内容にはなっていたと思うし、ふとしたボタンのかけ違いで何十年にも亘って断たれていた父と子の絆が再び結び直された冬映画はもちろん、これまでに発表されたスピンオフ作品も軒並み面白かった。
そして、2度目の夏映画が解禁された。
結論からいえば、この作品も面白い。気になる点はあるけれど、少なくとも、これを観て後悔するようなことはないはずだ。
本記事は、あくまでも鑑賞前の方の楽しみを奪わない程度のネタバレを差し込みながらのレビューである。鑑賞後の方は、もう一度見返したくなるはず。最後までおつきあいいただければ幸いである。
キャスト
ここでは本作のキャストをご紹介する。
ウィキペディアに記載のある方についてはリンクを貼っておくので、他の参加作品なども是非チェックしていただきたい。
五十嵐一輝 / 仮面ライダーリバイ:前田拳太郎
五十嵐大二 / カゲロウ / 仮面ライダーライブ / 仮面ライダーエビル:日向亘
五十嵐さくら / 仮面ライダージャンヌ:井本彩花
ジョージ・狩崎:濱尾ノリタカ
夏木花 / 仮面ライダーアギレラ:浅倉唯
オルテカ:関隼汰
玉置豪 / 仮面ライダーオーバーデモンズ:八条院蔵人
門田ヒロミ:小松準弥
竹田由芽:立石晴香
トニー:南 誉士広
ハキム:中村浩二
ミナミ:春川芽生
キャスター:宮島咲良
平舘太陽
悪代官:宮崎剛
外海雅人:八嶋智人
アヅマ / 仮面ライダーダイモン:ケイン・コスギ
五十嵐幸実:映美くらら
五十嵐元太 / 仮面ライダーデストリーム:戸次重幸
赤石英雄:橋本じゅん
五十嵐家の物語
五十嵐幸実の誕生日プレゼントとして、五十嵐一輝、大二、さくらの3人が用意した温泉旅行に、五十嵐元太・幸実夫妻が向かうシーンから物語は始まる。
謎の男・アヅマ率いる一団にハイジャックされた飛行機は、かつて科学研究組織ノアが非人道的な実験を行っていた禁断の地「エリア666(トリプルシックス)」に連れ去られてしまう。
そのことを知った五十嵐三兄妹は、ジョージ・狩崎と門田ヒロミの支援を受けながら、エリア666へと急行する。
しかし、それこそがアヅマの狙いだったのだ。
アヅマは、3,000年前に赤石英雄と共に人類の監視役としてギフと契約を結んだ男で、明石同様に不老不死の身体を持っていたのだが、一輝たちがギフを封印したことが影響し、その身体が朽ち始めていたのだ。それを治すためには、五十嵐三兄妹のが持つギフの遺伝子を吸収し、その身に宿すしかない。つまり、元太と幸実は、三兄妹を誘き寄せるためのエサにされてしまったのである。
そうとは知らずに駆けつける三兄妹。同時に、バリアに覆われ、外界と完全に遮断されるエリア666。これは、アヅマの持つキメラドライバーに収められた「ギフの瞳」と呼ばれるアイテムの力らしい。
さらに、「ギフの瞳」は、人間から悪魔を強制的に分離し、その本能を引き出すという能力も兼ね備えていた。
これによって、三兄妹の身体からそれぞれの悪魔が実体化し、3人に襲いかかる。アヅマが変身した仮面ライダーダイモンだけでも強力なのに、燃えるように真っ赤な目をしたバイスと、仮面ライダーエビルとなったカゲロウ、そして、TV本編ではおそらく第46話で登場すると思われる(本記事を執筆しているのは第45話直後である)スラリとした蛇女風ラブコフに容赦なくボコられ、3人は抵抗も虚しく捕らえられてしまう。
外海という科学者によって、体内の遺伝子を抽出される三兄妹。それを目の当たりにした幸実が怒りを爆発させた時、幸実の中に眠っていた悪魔が目を覚ます。骨だけの天使みたいな悪魔で、名前も意志もないようだが、三兄妹の拘束を解き、抽出したはずの遺伝子をなかったことにするほどの能力を見せる。バイスたちも正気を取り戻す。幸実は元太や三兄妹とは違い、ギフの遺伝子は持っていない。しかもバイスタンプを使ったわけでもないのに悪魔が覚醒するというのは、まさに奇跡。母の愛ゆえ、と言ったところだろうか。
さらに、この幸実の力によって、一輝の持つサンダーゲイルバイスタンプがフィフティゲイル(50の嵐、つまり“五十嵐”)バイスタンプへと変化。これを使うことで、三兄妹が合体し、ライダー史上、最高レベルにダサいネーミングを持つ「仮面ライダー五十嵐」へと変身を遂げる。
「トルネードアップ! 三位一体! 俺たち兄妹! 湧き上がる嵐は無限大! 仮面ライダー五十嵐!」という変身音が鳴り響く。その姿は、ライブとジャンヌの意匠を加えたリバイみたいな感じである。
ネーミングはダサいが、その能力は凄まじく、あっという間に形成逆転してしまう。ジャンヌのように頭部のポニーテールを振り回し、ライブのように銃を撃つ。必殺技は、「インフィニティ50ストライク」「スタンピングジャスティスリベラルフィニッシュ」「イガラッシュトルネード」などとなっている。
三兄妹が戦っている間に、元太と幸実はハイジャックされた機内に取り残された人たちの救出に向かう。何故だか用意されていた大型バスを使っての逃走劇は、なかなか見応えがあるが、ここでも幸実がハンドルを握るという謎の肝っ玉母ちゃんぶりを思い切り発揮する。
全編にわたり、五十嵐幸実の「母の愛」とか「胆力」といったものが描かれる。物語開始当初から、五十嵐家の名ゴールキーパーとして描かれてきた幸実の魅力が全開で詰まっている。
ただし、五十嵐幸美が何故これほどまでに家族を想うのか、というマインドを知るには、TTFC(東映特撮ファンクラブ)で配信されているスピンオフ『仮面ライダーベイル』を観た方がいい。家族に対する深い想いの根源を理解することができるはずだ。
大谷希望の復讐劇
飛行機搭乗前に家族写真を撮ろうとした一輝が、偶然カメラを託した青年。それが大谷希望(オオタニ ノゾム)である。
その後、五十嵐夫妻と共にハイジャックされる飛行機に乗り合わせてしまうのだが、実は彼の正体は仮面ライダーキマイラ。アヅマに復讐を誓った男だ。
そこから察するに、希望は今回、アヅマが五十嵐一家を狙っていることも、この旅行に乗じて襲撃しようという計画も全てつかんでいたのだと思われる。ハイジャックされた際にも動揺することなく、虎視眈々と復讐の機会を窺っているように見える。
ところで、その復讐とは、両親と友人の命を奪ったアヅマを倒すというものだ。
自らの身体が朽ち始めていたアヅマは、その進行を止めるため、希望の友人・向井が所持していたキメラドライバーが必要だった。そこで向井の命とキメラドライバーは奪われ、その際、希望を救うために自らの身を挺した両親もまた、亡くなってしまったのだ。
このあたりのエピソードもまた、TTFCで配信中のスピンオフ『Birth of Chimera』に詳しいので、ご興味があれば、チェックしていただきたい。
本作は、この大谷希望の物語でもある。家族を失い、友人までも失った希望の復讐劇。復讐に全てを賭けようとしていた希望だが、五十嵐一家と一人の妊婦との出会いによって、彼の人生は大きく変わっていく。
復活と新生
本作はTV本編の第45話直後くらいの時間軸の物語となる。
仮面ライダーオーバーデモンズが、牛島 光でなく、玉置 豪(ついに玉置が初変身を遂げる。ファンは刮目して欲しい)であることも、オルテカが牢に入れられていることも、それを証明している。
ただし、第44話で封印されたギフは、第45話時点で自力で這い出して来てしまったのだから、厳密に言えば不自然なのだが、そこは目を瞑る他ない。
拘束衣を付けられ、投獄されたオルテカに、ジョージ・狩崎が協力を求めるシーンは『羊たちの沈黙』におけるレクター博士を想起させる。
そうして、まさかのデッドマンズ復活である。
ラテン系のド派手な衣装に身を包んだ3人の「グラシアス!デッドマンズ!」と声を上げるシーンを再び見ることができるとは思っていなかった。思い返せば第1話で、この決め台詞と共に華々しく登場した3人だが、ほんの序盤でしか披露していなかったはずだ。懐かしさと共に、なんだか嬉しくなってしまった。特に、最近TV本編では元気のなかった玉置(フリオ)が生き生きしているのが最高だ。
何故、このタイミングで復活したのかは正直よくわからなかった。ただ、こんなものはお祭りだ。最終回間際の思い出作りだと割り切ってしまうしかない。細かいことはどうでもいいのだ。
そんなデッドマンズの嬉しい復活劇とは別に、もう一つの嬉しい新生劇も描かれている。
それは次回作として公式発表された『仮面ライダーギーツ』の登場である。
謎の敵「ジャマト」から街の平和を守るためのゲーム「デザイアグランプリ」に参加し、敵を倒したり人々を救ったりして得られるスコアを競いながら勝ち残ることを目指すライダー同士の戦い。勝者は、理想の世界を実現できる権利を得られるという。まるで『仮面ライダー龍騎』だが、一応『ギーツ』のモチーフは、「Apex Legends」や「フォートナイト」といった人気オンラインゲームらしいが、『龍騎』の影響がゼロであるはずがない。20年も前にこういったフォーマットを創り上げた『龍騎』と言う作品の空恐ろしさを改めて感じざるを得ない。
しかし、『ギーツ』がパクリだとかリブートだとか言うつもりは一切ない。特に主人公ライダーであるギーツは、どれほど贔屓目に見ても、龍騎よりずっとカッコいい。そもそもキツネをモチーフとしたライダーというのは、他に類を見ないのではないか。元々、仮面ライダーはバッタという食物連鎖の中では底辺側に位置する存在が、その捕食者たるクモやカマキリを倒すという下剋上的な成り立ちを持っていたわけだが、キツネとなれば、完全に捕食者側である。コアなライダーファンからは「わかってない」みたいなクレームがつくかもしれないが、そんな声に怯む必要は全くない。新しいことはどんどんやるべきだと思う。
マスクの立体的な造形は非常に魅力的。ドライバーは『仮面ライダーW』に登場したアクセルに似ているが、それであっても、バイクのスロットルを捻るような動作と、それに応じて高まる排気音というのは、きっと幾つになっても男の子の胸を高鳴らせるものに違いない(もちろん、女の子でもそういった嗜好はあると思う)。
また、バイクがキツネに変形するのは『仮面ライダーウィザード』(あちらはドラゴンだった)っぽい。さまざまな過去作から少しずつアイデアを頂戴して・・・というのは仕方のないことだろう。
また、『ギーツ』の密かな見どころとして、アクション監督が変わった点には注目したい。
『ゼロワン』以降、アクション監督を務めていた渡辺 淳さんから、『セイバー』で剣斬を演じた藤田 慧さんが引き継いでいるのだ。今回は、ほんの触りだけだったけれど、ギーツのアクション(特に水平に構えた銃を回転させながら連射するシーン)は、かなりカッコいい仕上がりとなっている。
ど迫力の素面アクション
最終盤の見どころとして、一輝とアヅマの一騎討ちは見逃せない。ライダー同士ではなく、人間同士の素面アクションというのがミソ。つまり、俳優・前田拳太郎さんとケイン・コスギさんの激突である。
大迫力。
それなりに長い尺で繰り広げられるため、かなり見応えのあるアクションシーンとなっている。坂本監督の面目躍如といった演出だが、これを実現するには、ケイン・コスギさんのアクションは盤石として、前田さんのアクションに対する信頼感が大きくなくては任せられないだろう。
しかも、今まさに消え行こうとしているアヅマをバイスタンプで一度回復させて、万全の態勢で決闘に挑むという、まるで『ジョジョの奇妙な冒険』第3部のクライマックスのようにクソ熱い展開を見せてくれる。
また、一輝を演じる前田さんが、ケインさんの本格的なアクションと対峙するという経験を積んだことで、この先の役者人生の大きな糧となったのではないかということに注目してしまった。
スピンオフありき
『仮面ライダーリバイス』関連作品にハズレなし。
この認識は今でも変わっていない。
確かにTVシリーズは失速した感はあるけれど、最終回を迎えていないこの状況で総括するには早すぎる。
そして、今回レビューしている夏映画についても、十分満足のいく仕上がりになっていると言って良い。
ただし、スピンオフありき、みたいな作りになっている点は評価が分かれると思う。登場人物の過去のエピソードを、モノローグとして語るならともかく、わざわざスピンオフの映像が差し込むところは、TTFCへ誘導したいという思惑が見え見えだ。販促としては仕方ない部分だとは思うが、TVと映画しか観ていない人たち(特に子どもたち)にはちょっとかわいそうな気もする。スピンオフありきの作り方というのに私は否定的である。
スピンオフはあくまでもアナザーストーリーとか、TV本編では描けなかったエピソードゼロといったものであって欲しい。少なくとも、それを観ないと話がわからないというのはダメだと思う。
『仮面ライダーセイバー』における「剣士列伝」などはその最たるもので、蓮とデザストの因縁のきっかけとなるエピソードまでスピンオフに丸投げしたことは本当にあり得ないと思った。
『リバイス』におけるスピンオフに、そこまでのいやらしさはなかったが、大谷希望の過去については作中でもう少し語られた方が良かったと思う。
とはいえ、最近のTVシリーズで問題視されている、さくらとアギレラで人気取り、みたいな側面は今回の映画では感じられなかったし、純粋に1本の作品としてオススメしたい。
これを観て、さらに深いところまで掘りたい方にはTTFCに加入してもらう他ないが、毎月960円(税込)の価値があるのか知りたい方は、3年間TTFC会員を続けている私の率直な感想をまとめておいたので、ご覧いただきたい。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
\ 僕と握手! /