”正統続編”に偽りなし。『風都探偵』1巻レビュー【ネタバレあり】

雷堂

週刊ビッグコミックスピリッツで連載中の『風都探偵(フウトタンテイ)』

『仮面ライダーW』の”正統続編”としてスタートした作品で、事実上の「仮面ライダーWシーズン2」。映像作品からコミックへとメディアを変えての登場。

架空の街「風都(フウト)」を舞台に、左 翔太郎(ヒダリショウタロウ)とフィリップという二人の探偵(仮面ライダーW)が紡ぐ物語。

2021年4月現在、10巻まで刊行されており、累計発行部数は185万部。ざっくり、1巻あたり18.5万部ペース。一般的な書籍は、およそ10万部以上を目安に「ベストセラー」と呼ばれることを考えると、十分以上の実績を残している人気作である。

そんな『風都探偵』をレビューしてみる。今回は第1巻。

目次

「tに気をつけろ」

第1巻は、「tに気をつけろ」という8話に亘る物語が収録されている。

このタイトルが、いかにも『W』。もちろん褒め言葉だ。

『仮面ライダーW』は、第1話「Wの検索」から、全話に大文字のアルファベットを入れたタイトルとなっていた。キザな左翔太郎らしさと、探偵を題材にしたミステリっぽさのある粋なセンスだった。

本作『風都探偵』では、小文字のアルファベットを使っている。シリーズの共通項だと、ファンには瞬時に理解できるニクい演出だ。

各話には、このイニシャルを持つ人物が複数登場する。

最初はいかにも犯人らしき人物にミスリードし、最後にどんでん返しが待っているというミステリの王道のようなつくり。

「仮面ライダー」が登場する、というだけで対象年齢を低く見積もってしまう人もいるだろうが、そうではない。

謎解きとしては、『名探偵コナン』ほどの本格ミステリっぽさは薄いが、青年誌に掲載されているだけあって、ドラマとしては、かなり大人向けなつくりである。性的描写も暴力表現も厭わない潔さがある。

今回の物語は、翔太郎が一人の妖艶な女性に出会うシーンから始まる。

「私はいつも飢えている。あなたは私を満たしてくれる人?」という謎の言葉を残し、忽然と消えてしまったその女性こそが、今、風都を騒がせている”魔女”と呼ばれる存在だった。

後日、鳴海探偵事務所に、その”魔女”を探して欲しいという依頼人・”坪崎”が現れる。

依頼内容は2つ。

1つ目は、魔女に奪われてしまった大切なバッグを取り戻すこと。

2つ目は、その魔女にもう一度会いたいというもの。どうやら依頼人は、その魔女に一目惚れしてしまった様子だ。

依頼を受けた翔太郎の前に姿を現した魔女は自分のことを”ときめ”と名乗った。

それと時を同じくして、風都で連続殺人事件が起こる。

夕凪町のT字路にあるビル付近で、人間の身体の一部が何度か発見されているのだ。

そのビルのオーナーの名前は”立川”。殺されたのは彼の部下。

このT字路で魔女の目撃情報が絶えないことから、立川は魔女を犯人と決めつけ、捕らえようと躍起になっている。

ここまでで、”t”のイニシャルを持つ人物が3人登場した。

この後、魔女を追う翔太郎たちは謎の異空間に足を踏み入れ、そこでドーパント(『W』の世界の怪人の名称)に襲われる。

連続殺人は、このドーパントの仕業らしい。

それでは、このドーパントの正体は?

翔太郎たちは坪崎の依頼を無事達成することができるのか?

そして、タイトルにある”気をつけるべきt”とは誰のことなのか?

結末はどうか自分の目で確かめて欲しい。

時間を超越するヒーロー

メディアが変わった途端に物語のテイストがガラッと変わってしまい、「コレジャナイ」感に打ちひしがれた経験はないだろうか?

そういった経験のほとんどは、コミックから実写、もしくはその逆というパターンではないか。

小説やコミックのアニメ化で、声のイメージが全然違う、と思ったことのある人も多いはずだ。

しかし、本作においては驚くほどそれがない。

厳密に言えば、TVシリーズとは違うものなのだけれど、本作の”主役の2人を似顔絵にしない”というコンセプトのおかげで、違和感が少ない気がするのだ。

別物として楽しめるのに、作品に通底するものは、紛う事なき『仮面ライダーW』のそれ、というなんとも稀有な作品だ。

主役を演じた二人も、今ではそれなりに年齢も経験も重ねてしまった。

その上での二人の掛け合いをまた見たいと思う反面、当時のイメージが崩れるという不安もある。

そう考えると、こういった別メディアでの新展開というのは大いに”あり”ではないか。

別作品にはなるが、『仮面ライダー電王』がここまで時を超えた人気コンテンツとなっているのは、当時の主役(佐藤健さん)不在でも成立する作品だからだ。脇役として登場した4人のイマジンが、ほぼ主役級の人気を獲得したことが大きいが、その4人が着ぐるみであることも大きい。

見た目が変わらないというのは、当時のファンを離さない一つの大きな理由になる。

悲しいかな、生身の人間は歳をとる。それはもちろん、悪いことばかりではないのだけれど、年老いたヒーローを見たくないと思う気持ちもどこかにあるはずだ。

それを超越したのがイマジンという存在であり、今回レビューしているコミックとなった『W』の二人である。

この両者は、見事に時間を超越したヒーローとなった。

そして、『風都探偵』の物語は始まったばかり。『W』ファンなら必読だ。

雷堂

それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。

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